<カラマーゾフの兄弟>
無気味さ増す市原隼人!自縄自縛に陥り次第に狂っていく凄み迫真

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   なんと大胆不敵なんだ、フジの土ドラは! 門外漢にはよくわからないけど、文学の世界では神様みたいな存在らしいドフトエフスキーの、これまた聖書みたいな「カラマーゾフの兄弟」をドラマ化するなんて!

   思い起こせば遠い昔、本を開いたことはあった。しかし、書いてあったことが何にも思い出せない。ゲンコツでむりやりたたき出したら、やっと2つ出てきた。好色で強欲な地主がいた。汚いのでスメルジャーシチャヤ(たしか「臭い女」という意味だったと思う)と呼ばれる頭のおかしいウロツキ女に産ませた子供がスメルジャコフであること。この男は見た目も精神もいじけた悪い奴であること。しかし、今の目から見たら、精神障害者を保護するどころか、レイプしたという思いっきりの非道だなあ。あまつさえ、生まれた子供まで醜いものと決めつける差別感覚。19世紀という時代を感じさせる。

   それから、「大審問官」というロシア正教ではものすごくえらい坊さんと誰やらがくり広げる難解で長い論争。そうだ、ここで本当に気が遠くなって読むのをやめたんだっけ。私は先祖代々、八百万の神さまに親しみ、お稲荷さまに油揚を供えて暮らしてきたので、キリスト教やその他の「神学論争」というものに遭うと、拒否反応でぶっ倒れてしまうのである。

吉田鋼太郎のヒヒ親爺なんとまあ憎たらしいこと!さすが演劇人の重厚演技

   そこで、「ありがたや、読めなかったあの不朽の名作を手軽にテレビドラマで見られるぞ」と、勇躍見ているのだ。まず、主役の3人の兄弟は長男(斎藤工)、次男(市原隼人)、三男(林遣都)だが、原作に合わせタイプの違うイケメンを揃えている。いずれも熱演だが、市原隼人は最初のころは力が入りすぎてやや浮き気味だったが、必死で合理性を貫こうとするうちに狂気におちいってゆく前回あたりから凄みが出てきた。

   ヒヒ親爺役の吉田鋼太郎は憎たらしさ全開。基本が演劇人なので、屋敷内のシーンが多いこともあり、彼の出てくる場面はまるで舞台のような重厚さがただよう。

   価値観がゆらぎ、土着と西欧が錯綜していた19世紀のロシアは、既得権を持つ層も持たぬ層も「これからどうなるのか」と怯えていた暗い時代である。その時代に全力で向き合い、考え抜こうとしたドストエフスキーの志だけは、原作を読めなかった者にも伝わるように願う。

   「誰が親爺を殺したのか」という推理ドラマとしても楽しめるが、最後は欲求不満かも。長男と親爺の両方を虜にする妖艶な美女(芳賀優里亜)は、残念ながらあまり魅力的に見えない。もっと悪魔的なまでに美しくあってほしい。(フジテレビ系土曜よる11時10分)

(カモノ・ハシ)

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