<震災の日に生まれた君へ~希望の君の椅子~>
母となり、そして母を失った3・11「喜びたい…でも悲しい」2年後やっと墓前に報告できた愛娘の誕生

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   北海道文化放送が制作した「震災の日に生まれた君へ」は、あの2011年3月11日に東北3県で生まれた赤ちゃんを持つ家族の喜びと戸惑いを、北海道発の「君の椅子プロジェクト」のメンバーが探っていくというドキュメンタリーである。1か月ほど前の当欄で取り上げたTBS系「報道の魂」と同じテーマだ。

   このプロジェクトは大震災当日に生まれた104人の赤ちゃんに、名前、誕生日、通し番号の刻まれた「『希望の』君の椅子」をプレゼントし、その誕生を祝う活動を行っている。プロジェクトのリーダーである磯田教授(旭川大学)はもちろん、番組に登場するご夫婦も「報道の魂」とかぶっている。となると、後発の本作の方が不利か。

   ところがどっこい、「これ、別物じゃん!」だった。たしかに同じプロジェクト、同じ関係者を扱っているけれど、メインテーマから違う。これが30分番組の見せ方と55分番組の見せ方の違いか。「報道の魂」が椅子と子どもの物語だったのに対し、こちらは「家族」と「生き続けるということ」が焦点になっている。

最後の会話「赤ちゃんが産まれたら見せに来てね」

   カメラは3家族の「震災以降」をていねいに追っていく。衝撃的だったのは「報道の魂」にも登場した下澤さん夫妻だ。妻の悦子さんはわが子が産まれた日に津波で実母を失った。失った悲しみの大きさと授かった喜び。どちらに振れていいのか自分でもわからない。ここまでは「報道の魂」ですでに報じられた通りだったが、その直後、悦子さんの生い立ちへと話が及ぶ。

   実は、悦子さんの実母は悦子さんの出産直後に病院から失踪していた。親戚に育てられた悦子さんは、2010年秋に再会を果たすまで実母の顔も知らなかった。再会したとき妊娠中だった悦子さんは、「赤ちゃんが産まれたら見せに来てほしい」と実母から頼まれた。それが今生の別れになった。現れたと思ったら消えてしまった実母。

   悦子さんはその足跡を追い、実母の再婚相手の家に通った。「生まれ変わりみたいだね」と娘の頭をなでながら、自分が享受し得なかった温かな家庭について思いを馳せる。悦子さんにとって、希望の椅子は祝福の証だ。恵まれ、愛され、産まれてきた。「もう2年も経つから祝ってもいいのかな」。今年やっと実母の墓の前で愛娘の誕生の報告ができた。

東日本大震災の日に生まれた104人の赤ちゃんと104人の母親の戸惑い

   ほかの2家族の思いもそれぞれに見ごたえがある。1日1日を精一杯生きることこそが人生ではと語る宮城の酪農一家は、今も震災の風評被害の中にいる。福島市内に住む一家は、愛娘は生まれてから外で思いっきり遊んだことが1度もないと語る。生まれてきたわが子をどう守るか、どう進んでいくべきか。目は明日に向いている。

   大震災の日に産まれてきた104人。祝ってもいいのかな。共通の思いと、それぞれに異なる事情が絡み合う。30分番組を引き延ばした55分番組ではなく、「椅子」をツールに「震災と家族」を語る良作でした。(フジテレビ系6月26日深夜2時10分)

(ばんぶぅ)

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