2024年 4月 27日 (土)

漫画で伝えたい読みたい「福島原発事故の本当」避難経験や作業員体験を描こう!

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   小学館の漫画誌「ビックコミックスピリッツ」の連載漫画「美味しんぼ」は福島原発事故による健康への影響を巡る表現が大きな波紋を呼んだが、このほかにも福島を描いた漫画がいま注目を集めている。福島の酪農家で働く少年の成長を描いた漫画は、人間と原子力の関わりをテーマにしていて、東京都内の大型書店ではこれらの漫画を求める人が増え品薄状態になっている。なかには、福島第一原発で作業員として働いた経験を作品で伝えようという漫画家もいる。

   キャスターの国谷裕子はこう伝える。「福島第一原子力発電所の事故で放出された大量の放射性物質が、健康にどのような被害をもたらすのか。国内的にも国際的にもとても関心が高く、デリケートな問題です。環境や食べ物は安全か。正しい情報は何か。本当のことを知りたいと思う被災者の皆さんの要求は強いものがあります。

   その時に、損なわれてはいけないのが言論・表現の自由です。漫画『美味しんぼ』では、健康への影響を巡る表現が大きな波紋を呼びました。『福島の真実』と題するシリーズで、福島第一原発を訪れた主人公が鼻血を出し、鼻血の原因を『被ばくしたから』ともしています。福島の真実編の最終回で、編集長は『取材対象者の声を取り上げないのは誤りだという作者の考え方は世に問う意義あると考えた』としています。その上で、表現の在り方についていま一度見直すと表明しています。今回の騒動で吹き出した『傷つけられた』『生活している人を配慮してほしい』という切実な声もあります。福島や原発事故を積極的に描いた漫画は少なくありません。表現者たちはこうした声とどのように向き合って創作をしているのでしょうか」

「いちえふ」発売1か月で20万部!書店では売り切れ

   原発事故後のみずからの体験を漫画にした山本おさむさんは、事故当時は福島第一原発から70キロ離れた福島県天栄村に住んでいた。事故のあと、山本さんはすぐに自主避難を思い立った。

「な、何んだこりゃあ~。爆発している。そのころから、僕という人間は2つに分裂しました。『70キロも離れてればゼロではないにしても相当安全なんだ。ビクビクするな』と考える一方で、『直ちに影響がないなんて言い方がそもそも怪しい。騙されたあとに泣いたって遅い』と考えました」

   国谷「事故直後、山本さんはその影響をどう表現すればよいのか迷うことが多かったそうです」

   「避難先と福島を往復する中で、そこに暮らす人々の立場を大切にしていこうと決めました」と山本さんは話している。

   竜田一人さんが描いた「いちえふ」は原発作業員の日常を描いた漫画だ。福島第一原発の作業員として不定期で働いているため、顔を撮影しないことを条件に取材に応じた。「いちえふ」は発売以来1か月で20万部近くを売り上げた。ちなみに、「いちえふ」とは「1F」。東京電力内では福島第一原発をこう呼んでいる。

   国谷「竜田さんは原発事故の前、漫画だけでは生計を立てることができませんでした。事故から半年後、新たな職を探して就いたのが福島第一原発での仕事です。放射線量の高い建屋内での作業も任せられました。竜田さんは原発での作業の実態を、そこで働いた者にしか分からない視点で漫画にしました」

   漫画の中には、「ああ、鼻がかゆい」「はぁ~っ、この解放感!」「なかなか脱げない」「ゴム手の中にたまった汗が飛び散って、まさに男の汗にまみれた職場だ」といった場面が出てくる。そして、「ここをなんとかでぎるのは俺たちしかいねえ」「俺たちはここをやっつけるだけだっぺ」など、危険と隣り合わせの現場が描かれている。

   竜田さんが週刊誌で連載を続けていると、出版社に「かえって不安が募る」「政府や東電のプロパガンダ」などの批判の声も寄せられている。「いちえふ」を担当する編集者の篠原健一郎さんは「どんな批判があっても、作品のスタンスは大切にしたい」と話す。

エンターテイメントだけでいいのか?漫画家たちの自問自答

   国谷「ずいぶん多くの作品が、こうやって漫画家たちに描かれてきているんですね」

   ゲストの漫画家・しりあがり寿氏はこう語る。「そうですね。僕もこんなにあるなんてわかりませんでした。本当にこの震災をきっかけに、漫画の世界が開かれたなっていう感じがします。

   漫画というとエンターテイメントの世界で、架空の物語を今まで描くことが多かったと思います。でも、今度の事故をきっかけに、社会に出てきて実際にそこにある問題と取り組んでいる。そんな感じがします」

   国谷「実際に、しりあがりさんも原発事故についても描かれていますけど、どういう思いで、何を伝えようとされたんですか」

   しりあがり「あのころは、原発に触れると安全か、あるいは危険かの2つに分けられていたんです。そうじゃないだろうと。それが怖くて何も描かないのはまずいということで、できるだけそのどちらでもない中間に落とすような視点で、笑いを持って何かを訴えられたらなと思って描きました」

   最後に国谷は美味しんぼ騒動について問うと、「やはり漫画が現実と取り組むということになると、どうしても現実というのは複雑ですし、いろんな摩擦が起きると思いますね。?ただ、今回の騒動を見ていると、問題点は2つに分けられると思います。1つは放射能が本当に鼻血を起こすのかという問題で、専門家どうしで闘ってもらえばいいと思います。それと別に、鼻血を表現したことが実際に風評被害なり、福島の人の心を傷つけたのかという問題があると思います。本当にその風評被害っていうのは漫画のせいなのか、ほかにいろんな要因があるのではないか、それはちゃんと総合的に落ち着いて考えたほうがいいと思いますね」

   「美味しんぼ」が取り上げたのは、政府や自治体が発表する情報は信用できないという不信感だ。

ナオジン

NHKクローズアップ現代(2014年6月2日放送「いま福島を描くこと~漫画家たちの模索~」)

文   ナオジン
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