ベルリンの壁崩壊から25年―右派排外主義台頭で崩れ始めたEU統合の理念

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   25年前(1989年)の11月9日、ベルリンの壁が崩壊し東西冷戦時代の終わりを告げた。この間、EU(欧州連合)は経済・政治統合を加速させ、加盟国を拡大してポスト冷戦時代を歩んできた。いまや加盟28か国、総人口5億人を超す巨大な共同体になった。

   その急拡大がいま加盟国間の格差拡大を生み、EU域内で不信が広がっている。統合よりも国家を重視する傾向が強まり、右派排他主義の政党が台頭し、ウクライナ問題をめぐってロシアとの軋轢で新たな冷戦が近づいているのではという指摘もされている。曲がり角にあるEUは新たな秩序を築くことができるのか。東西冷戦の象徴だったベルリンのブランデンブルグ門の前から、国谷裕子キャスターが2夜連続シリーズで伝えた。

加盟国間に大きな経済格差「EUの植民地みたいで失望」(ハンガリー)

   EUに対する不安は東西ドイツ統一のころからあった。統一ドイツは人口、経済規模ともにヨーロッパで突出した国家になるため、周辺国はドイツの力の拡大を抑えようとした。当時、フランスは東西ドイツ統一を認める一方で、基軸通貨だったマルクを放棄させユーロ導入を促した。同じ通貨を導入することで統合を深め、国同士の対立を防ぐ思惑があった。こうしてEUはポスト冷戦時代の先駆けとしての共通通貨の導入をはじめ、経済、政治統合による平和と安定した秩序作りを目指した。

   しかし、その理念は争いの中で頓挫する。共産主義が倒れ、空白が生じた地域で民族主義が台頭し、コソボ紛争は多くの市民が犠牲となった。この悲劇を繰り返さないために、EUは東ヨーロッパに民主主義の理念を広げ、EUに加盟させることで平和と安定した秩序が築けると考えた。04年に東ヨーロッパ10か国が加盟し東方拡大が実現する。

   東方拡大路線の立役者であるドイツの元EU副委員長、ギュンター・フェアホイゲンはこう語る。「反対はありましたが、私たちがやらねばならなかったことはヨーロッパにおける旧共産主義国の改革でした。市場経済を導入し、法の支配や人権が十分に尊重される活気ある国家に変える必要があったのです。ヨーロッパ統合にしっかり組み込むことで、改革を後戻りできないようにしたのです。

   それによってどの国も経済的に発展しました。とくにドイツやオランダはポーランドやハンガリーよりも大きな恩恵を受けていると思います。残念ながら格差の溝が埋めきれていないことは認めざるを得ませんが...」

   その東方拡大の優等生といわれたハンガリーでは、EUが最も重視している自由主義を真っ向から批判するオルバン首相が国民から圧倒的な支持を集めている。首相は「自由や民主主義の原理でできた社会はこれからの世界で競争力を維持できない。国際的に成功しているのは、シンガポール、中国、インド、ロシア、トルコだ」と主張する。

   EU加盟後のハンガリーは安い労働力を武器に西側からの投資で経済を成長させ、EUの手厚い支援でインフラ整備を進めて豊かさを手に入れたかに見えた。ところが、リーマンショックで打ち砕かれ、「EUの植民地みたいで、皆が失望している」状態が広がっている。

「平和は全てでないが、平和がなければ全てが無である」

   さらに、EUの統合理念そのものが今、問われている。今年(2014年)5月に行われた5年に1度の欧州議会選挙では、反EU、反ユーロ、反移民を掲げる政党が躍進した。フランスでは極右の国民戦線(FN)が国内で最多票を集め、イギリスではEUからの離脱を訴える政党が現れた。

   国谷「フェアホイゲンさんはこうした動きを懸念されていますか」

「とても危惧しています。ヨーロッパに何よりも必要な連帯感が失われつつあると感じます。元の民族ごとの国家に逆戻りすれば、各国の利害の衝突が起きて大変な事態になると思います。ヨーロッパ統合のモデルはこれまでのところもっとも進歩的で、最も成功を収めた概念のひとつです。自動車や飛行機よりも最も優れた輸出品になると思います。私が政治家として信念にしてきた言葉があります。『平和は全てでないが、平和がなければ全てが無である』。西ドイツのブラント首相が残した言葉です」

   厳しい内憂に苦悩するEUだが、さらに新たな外患に襲われている。ウクライナ問題を契機に軋轢が生じたロシアと今後どう向き合っていけばいいのか。どうすれば新たな秩序を築くことができるのか。フェアホイゲン元EU副委員長は「EU統合が冷戦の落とし子として生まれたことを忘れてはならない」と強調するが、具体的な方向はまだ見出していない。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2014年11月5日放送「ベルリンの壁崩壊から25年① 岐路に立つヨーロッパ統合」)

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