2024年 4月 27日 (土)

水際対策では防げないエボラ日本侵入!感染疑われた男性「防疫官から何も注意なかった」

   日本への帰国・入国者がもしエボラ患者だったら...。西アフリカで発生しているエボラ出血熱は感染拡大が止まらず、WHO(世界保健機関)が今月1日(2014年12月)に更新したデータによると、感染者数は1万6933人、死者は6002人に達した。

   その脅威が先進国にも広がり、日本では10月以降、感染の疑いがある西アフリカからの帰国・入国者が3件相次いだ。いずれも陰性で感染の疑いは晴れたが、想定外の問題が次々と浮かび上がり、はからずも水際で防ぐための対策や情報提供での詰めの粗さが露呈した。

「熱が上がっただけという意識だったから主治医のところへ行った」

   日本では、空港で西アフリカからの帰国・入国者全員の健康状態をチェックし、発熱があった場合は一般の医療機関には行かせず専門の病院に入院させる体制をとっている。ところが、先月7日にリベリアから帰国した60代の男性のときは、この水際対策がうまく機能しなかった。羽田空港で検疫官から健康状態のチェックを受け自宅に帰った男性が、発熱の症状を感じて自宅近くの診療所を受診してしまったのだ。

   当時、診療所の待合室には風邪の症状を訴える高齢者など10人ほどがいた。診察に当たった医師は男性がリベリア帰りとは知らなかった。当時を振り返りながら医師は、「強烈な伝染病の発熱疾患が町医者に来るわけがないと思ってましたから。男性との間は至近距離ですよね。口の中も診察しますし、(私が)感染した可能性があった」と顔をこわばらせる。

   なぜ男性はエボラ感染を広げたかもしれない行動をとったのか。実は、男性もエボラ感染が疑われていると認識していなかったようだ。「熱が上がっただけという意識だったものですから主治医のところへ行った。(検疫官から)感染の疑いがもたれていると説明があればこういうことは起きなかった」と話している。

   男性は仕事のため1か月間リベリアに滞在し羽田空港に到着した。入国時に渡航歴を申告すると健康相談室に通され、検疫官から健康状態のチェックを受けた。その時の様子をこう話す。

「一般の病院へは行かないでとかまったく説明はありませんでした。ドクター(検疫官)が出てきて、『マスクをしてください』『体温を測ってください』『じゃあ、この紙を持って行ってください』というレベルで終わりでした」

   男性が受け取った紙には「エボラ出血熱の流行国で患者等との接触歴があった方へ」というタイトルで、「発熱などの症状が出た場合、直ちに検疫所に連絡する」とだけ書かれていた。男性はリベリア滞在中にエボラ患者と接触した記憶はなく、自分は無関係と考えていたという。国はこのケースをふまえて、文書に「絶対に直接医療機関に行かないように」という文言を入れた。

福岡ではパニック発生!リベリアから帰国の発熱男性と飛行機乗り合わせ

   10月下旬には、リベリアから帰国し発熱を訴えた40代の男性と同じ飛行機に乗り合わせた修学旅行帰りの中学生が、ツイッターで二次感染の不安を訴え、パニックが起きた。ネット上では福岡県内の中学校の名前が明かされ、「一気に九州まで飛び火」「国や福岡県は把握できているのか」「生徒が感染しているのではないか」などウワサが飛び交った。

   中学校の教頭の元に保護者から「子どもを通常通り登校させてよいか」という問い合わせが多数寄せられた。教頭は男性が座っていた座席の位置を航空会社に問い合わせたが、「プライバシーの問題があるから」と情報提供を拒否された。教頭はツテを頼って生徒たちは男性とは離れた座席にいたことを知ったという。教頭は「国から積極的な形で情報提供や助言、指導をもう少し早い段階でいただいていれば、ここまで混乱しなかったと感じています」と訴えている。

   真下貴キャスター「日本の水際対策の課題はどこにあるのでしょうか」

   感染症対策に詳しい東北大大学院の賀来満夫教授はこう話す。「まずエボラ出血熱のことをより詳しく説明していくことがとても大切です。当事者は熱が出ただけだと思ったといっていますが、エボラはまず熱が出る。そのあと嘔吐、下痢の症状に繋がっていくという細やかな説明を(検疫官から)ぜひしていただきたかったですね」

   真下「同じ飛行機に乗り合わせた方への対策はありますか」

   賀来教授「席が離れていたとしても不安は強いと思います。これだけ致死率の高い感染症を日本では経験したことがないのですから。感染症は個人の疾患ですが、社会性のある疾患でもあります。ということは、プライバシーを超えると考えて頂いていいと思いますね。もっと細やかな、直接的な情報提供が必要になってくるのではないでしょうか」

   政府の感染症対策に関わる人たちは、理屈では水際による初期対応の必要性を十分わかっているだろう。ただ、実際に現場で関わっている関係者の受け止め方はバラバラで、感染拡大を防ぐキメの細かい備えとなると十分とは言えない。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2014年12月3日放送「終わらないエボラ~備えは大丈夫か~」)

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中