「職務発明」もっと評価して!まだまだ低いヒット商品の開発報奨

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   青色発光ダイオード(LED)の発明でノーベル物理学賞を受けた中村修二カルフォルニア大サンタバーバラ校教授は、かつて発明の報酬が低いと会社と裁判で争った。いまも「(社内発明を)もっと正当に評価すべきだ」という。特許法の改正も論議されるなか、会社も従業員も納得する方策を模索している。

   30年前、酒井隆司さんが発明した「ラベルメーカー」は大ヒット商品となった。会社は巨額の利益を得たが、報奨金は13万円だった。酒井さんは裁判を起こして約3000万円の和解金を得たが、本当に訴えたかったのは会社の姿勢だった。「基本技術と特許を周辺技術扱いされたらモチベーション下がりますよ」

「社内発明の特許」会社のものか従業員のものか

   特許の出願は年間約30万件。その97%が企業の従業員による「職務発明」だ。1990年代、従業員の訴えで多額の報奨金判決や和解が相次いだ。政府は2004年に特許法を改正して、企業は社内発明への対価の支払い方法を定めるよう規定した。

   現行法では職務発明も個人のものだ。多くの会社は発明者に「譲渡対価」を払って特許の権利を譲り受け、商品の売り上げに応じて「実績報奨」を払い続けるのが慣例だった。その支払い方法を決めたことで訴訟の数は減ったが、発明の貢献度の算定はなお課題だ。

   印刷大手の凸版印刷では専門チーム70人が審査にあたる。たとえば、ICカードには500件もの特許が関わる。そのどれがどれだけ売り上げに貢献しているかを算定する。1年に1万4000件。「ものすごい負担ですが、万が一、訴訟になると大変だから」と会社はいう。

   支払い方によっても不公平は起こりうる。製薬会社の新薬は基礎研究、開発研究、臨床試験を経て商品となる。関わるのは数十人から数百人だが、発明者として報奨を受け取るのは基礎開発の数人に限られる。

   知的財産戦略研究所の澤井敬史理事長は、「プリンターも3000件近い特許があります。これを誰の発明とするのか。公平感とやる気の担保にどこの企業も 苦労してます」という。

「ファスナーのYKK」営業担当にも報奨!取引先ニーズ伝え生まれた人気商品

   いま論議されている特許法35条の改正は、特許権を「従業員」から「法人」に移し、「対価」を「報奨」にするというのが眼目だ。それで従業員は納得できるか。

   東大政策ビジョン研究センターの渡部俊也教授は、「現行法は特許の1件1件の対価を考えるという前提です。しかし、いまの特許は組織的で、多くの人が関わり使い方もいろいろです。『報奨』には、努力に報い、さらに励ますという意味合いがあります。適切なガイドラインを考え、それを法律で守るという考え方が必要になっています」と話す。

   独自の報奨制度をもつ企業は多い。富山のファスナー大手YKKは発明者以外も対象とする。2年前に開発した自動車シート用のファスナーは、閉じるとファスナーが完全に見えなくなる人気商品だ。説明する山崎誠さんは営業担当だが、この発明で報奨を受けた。取引先から「こういうものを作ってくれ」というニーズを聞いたのが開発につながったからだ。

   特許だけでなく、開発に関わるノウハウを公にできない新技術も公平に評価する。特許申請せずに秘匿するものは「社内認定特許」と呼ぶ。「努力する社員1人ひとりをしっかり見つめる経営・管理職の目です」とYKKはいう。

   東京・三鷹の精密機器メーカー三鷹光器は150以上の特許をもつ。社員70人の半数近くが特許出願経験者だ。富田和江さんはアルバイト時代、 工作機械の使いにくさを改良するアイデアで特許をとった。工作機械だから直接売り上げにはつながらないが、中村勝重社長は富田さんを正社員にし、製造から開発部門へ配置換えした。

   三鷹光器には自由に社内の設備を使える制度や海外研修など、独自の報奨制度があり、次へのモチベーションになっている。中村社長は「会社は社員の能力の積み重ねですから」という。

   革新技術は発明・特許の塊だ。それを生み出す人間を企業がどう扱うかは、次なるイノベーションを生み出す環境を考えることでもある。いい話だった。いい企業は輝いている。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2014年12月11日放送「『社内発明』どう増やす?~やる気引き出すルール作り~」)

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