JR福知山線事故10年―遺族と加害企業が続けた異例の対話「責任追及より息子はなぜ死んだのか知りたい」

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   JR西日本の福知山線脱線事故から10年がたつ。この間、JR西日本と遺族の間で「異例の対話」が重ねられてきた。遺族とJR西日本が同じテーブルにつき、事故の原因究明のためにこれまで27回、去年の春まで4年間続けられた。

   そもそものきっかけは国の事故調査委員会の報告だった。事故調が指摘したおもな事故原因は、(1)運転士のブレーキ操作の遅れ(2)懲罰的な日勤教育(3)余裕のないダイヤ(4)自動列車停止装置ATSの遅れの4点だった。このうち「直接的な原因」として(1)(2)は指摘されたが、(3)と(4)は間接的として重要視されなかった。

   事故で息子を亡くした木下廣史さんはこれに疑問を感じた。事故後2年間の出発時刻と到着時刻を記録した。すると、事故後にダイヤが改正されたても到着・出発に遅れのあることが分かった。「JR西日本は反省してないのではないか。どうすれば向き合わせられるか」と考え、同じ遺族の淺野弥三一さんに相談した。淺野さんが考えたのは、責任追及しないことを前提とした遺族とJR西日本の共同作業だった。「責めやしない、責任をどうのこうの言わないとしました。冷静に話をしようよということで始めたのです」

「安全というのは99点じゃためだ。100点じゃないと・・・」

   共同作業に参加したのは7人の遺族と、JR西日本の安全に関する部門の責任者だった。JR西側は初めから驚かされることになる。遺族側の態度があまりに冷静だったからだ。JR西日本技術企画部長の平野賀久さんこう語る。

「事故を起こした責任者が目の前にいるんです。私が逆の立場だったら憎くないわけがない。しかし、(遺族の方たちは)憎いという感情を乗り越え、なぜ死んだのか知りたいということでした。凄いことだと思いました」

   しかし、同じテーブルについたものの、安全に対する考え方は大きく違っていた。転機になったのは運転士30人へのアンケートだった。運転士たちに「列車遅延をストレスと感じるか」と問うたところ、「かなり感じる」「非常に感じる」は3人で、1割に過ぎなかった。間崎光一郎運転士課長は「大多数が大丈夫ということで、やっぱりと安心しました」

   ところが、遺族の捉え方は逆だった。「データの見方が逆だろうと思いました。10分の1だろうと100分の1だろうと、巻き込まれた側はそれがすべてなんです。命を奪われているんです」

   間崎さんは「言われた瞬間、恥ずかしいと思いました。安全というのは99点じゃためだ、100点じゃないとと、ものの見事にご指摘を受けたという状況でした」という。

スピードアップ「速達化」には邪魔だったATS整備

   検証は組織の問題にも踏み込んだ。着目したのはATS(自動列車停止装置)。浮かび上がってきたのは、社内の相反する2つの動きだった。福知山線ではダイヤ改正のたびに所要時間を短縮する「速達化」が繰り返された。一方でATSについては整備を遅らせる判断が繰り返された。木下さんは「普通ですと、安全対策ができてからスピードアップするものでしょう。組織的に連携されてないのが明らかになった」

   対話の成果が2冊の報告書にまとめられた。その中でJR西は「巨大なシステムを動かす際の相互の連携がかけていた」と組織の問題を認めるに至った。木下さんは「やっとなんとなく直接原因、間接原因もわかってきたかなという思いです」と語る。

   大規模事故を長年研究してきた作家の柳田邦男さん「これまでの原因究明は責任追及が重視されました。すると、組織は自己防衛に走ってしまう。ところが今回は責任追及を横に置くことで合意した。今回の取り組みはとても重要な前例になると思いますね」

   こうしたことが行われるためには企業側の真摯な経営姿勢や安全対策、事故への反省が欠かせないが、日本の企業に期待できるだろうか。原発事故や再稼働問題への対応を見ると、大きい企業ほどダメだと分かる。

ビレッジマン

NHKクローズアップ現代(2015年4月20日放送「いのちをめぐる対話~遺族とJR西日本の10年~」)

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