<土曜ドラマ 夏目漱石の妻>(NHK総合)
芸達者オノマチ本領発揮!「DV夏目漱石」巧みに操るお嬢様妻お見事

印刷

   夏目漱石没後100年の今年(2016年)、朝日新聞は漱石の最初の小説「吾輩は猫である」を連載し、神奈川近代文学館で特別展「100年目に出会う 夏目漱石」が開催されるなど、全国でさまざまなメモリアルイベントが行われている。そんななかで、夏目夫妻を描くドラマが作られた。脚本は大御所の池端俊策が手掛け、妻の鏡子を尾野真千子、金之助(漱石)を長谷川博己が演じるのだからこんな楽しみなことはない。

   土曜ドラマ×池端俊策×尾野真千子(以下オノマチ)といえば、2014年の「足尾から来た女」が思い出される。明治時代、足尾銅山で起こった足尾鉱毒事件をテーマに描かれた骨太の作品は、文化庁芸術祭優秀賞をはじめギャラクシー賞、東京ドラマアウォード、放送人グランプリなど、多くの賞を受けた。そんな相性のいいチームが今度はどんなドラマを見せてくれるのかと期待は高まる。

「ながら視聴などさせてたまるか」伝わってくる作り手の気概

   第1回「夢見る夫婦」は2人の出会いから新婚生活までが描かれていたが、まずオノマチが裕福な家庭に育った深窓のお嬢様、しかも19歳にはとても見えなかったが、それを補ってもあまりある達者な演技で、時間が経つにつれ、19歳の鏡子にちゃんと見えてくるから凄い。金之助はお見合いの場で大口を開けて笑う鏡子を見初めるのだが、その屈託なさに、なるほど、これなら惚れてしまうやろうという感じだ。

   金之助の赴任先、熊本で新婚生活が始まるわけだが、深窓のお嬢様と、幼少時に養子に出され、親の愛情も家庭のぬくもりを知らない漱石とではうまくいくわけがない。しかも、漱石の気難しさは相当なもので、歩み寄る気などみじんもなく、夫婦はすれ違いを見せる。それでも鏡子は頑張るが、流産、そして夫の冷たい態度に川への飛び込み自殺を図るのだ。

   息の詰まるような場面が続き、ライトなドラマに慣れた視聴者には見続けるのがつらくなるかもしれない。会話は最小限、目線や仕草などですべてを表現する。画面を食い入るように見て、言葉を聞き洩らさないよう耳をそばだてる。正座をしろとは言わないが、スマホをいじりながらの、ながら視聴などさせてたまるかという作り手の気概を感じるドラマだ。

   衣装や持ち物はもちろん、家の内部から家具・調度品、生活用品、書架に並ぶ蔵書の1冊1冊に至るまで、明治の時代の雰囲気を見事に再現している。NHKが本気を出せばこんなもんだと言わんばかりである。

   鏡子が助かり、金之助が初めて心情を語り、夫婦の距離が縮まるシーンもよかった。

4回で終わらせるの惜しい秀抜ドラマ

   第2回「吾輩は猫である」では、ロンドンから帰国後、精神を病んだかのように変わり果て、さらに気難しくなり、暴力も振るう金之助と、そんなことにはめげず、精神的にも強くなる鏡子。夫婦げんかのシーンも迫力があった。

   そして、いよいよ夏目宅にのら猫がやってきて、金之助が初めて小説を書く。これが表題の「吾輩は猫である」で、高浜虚子にでき上がったばかりの小説を見せて、高浜が声を出して読み、それを戸の陰で聞きながら笑うチャーミングなこと! この回、猫が登場してからの猫目線のカメラワークも素晴らしい。

   漱石の妻といえば悪妻で知られていたが、とんでもない。なかなかに魅力的なお人だったようだ。もっとも、このドラマの原作は鏡子夫人の「漱石の思い出」だから、自分のことは贔屓目に書いてあるのかもしれないが・・・。

   わずか4回で終わらせるのはちと惜しい。オノマチもいいが、長谷川もいい。狂気を孕んだ目などぞっとするほど。父を演じていた舘ひろしを初めて巧いと思った。いいドラマは俳優も5割増に見えるから不思議なものだ。(毎週土曜よる9時)

くろうさぎ

  • コメント・口コミ
  • Facebook
  • twitter
コメント・口コミを投稿する
コメント・口コミを入力
ハンドルネーム
コメント・口コミ
   

※誹謗中傷や差別的発言、不愉快にさせるようなコメント・口コミは掲載しない場合があります。
コメント・口コミの掲載基準については、コメント・口コミに関する諸注意をご一読ください。

注目情報PR
追悼
シニアの健康ライフ
Slownetからのおすすめ記事(提携)

お知らせ

電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中