被害者19人の個性が見えるサイトが熱い ちがうことを受け入れる心を

印刷

   神奈川県相模原市の福祉施設で起きた障害者19人の殺害事件から7カ月。警察は被害者の名前を公表せず、NHKも年齢と性別だけを報じてきた。しかし、それで命の重さが伝えられるのか。一人ひとりの生きた足跡をたどろうとNHKが1月(2017年)に立ち上げたウエブサイト「19人のいのち」に16万のアクセスがあった。「人が生きたぬくもりに胸が熱くなりました」といった反響ばかりではないのだが、ホットな思いが交錯し、ともすれば過去の出来事に風化しかねない事件の波紋が広がる。

   サイトは「障害がある」という理由だけで殺された被害者がどんな人たちだったのかを語る記事が並ぶ。遺族の了解を得て生前の姿や好きだったものを描いたイラストも載せた。

   35歳の被害女性は、果物とコーヒーが大好きでした。家族の愛に包まれていました。

   67歳の男性被害者は、演歌が大好きで、北島三郎の歌をよく聞いていました。

   70歳の女性は、兄に教えてもらった唄を歌いながら、いつも手をつないでいた。

   パンが好きだった26歳女性の母からは「娘は一生懸命に生きていました。これを載せて」と自分で描いた娘の絵が送られてきた。

   こうしたサイトを見て、発達障害を持っていることを公表したモデルで俳優の栗原類さんは「どんな人たちだったのかがすごく伝わってきました」と言う。

   元施設職員の中川尚也さんが取材に応じた。中川さんは55歳の男性障害者を担当していた。「被告はコミュニケーションのとれない人を刺したと言ったが、ウソつくな、あの人はとれるぜと思った」「どんなことがあっても忘れない。忘れるはずがない」と話す。19人には19の個性があったのだ。

   映画監督の森達也氏は「この事件の報道は店じまいが非常に早かった」と指摘する。名前や写真が公表されなかったことのほかにも、10日後にリオオリンピックが始まったためメディアがそちらの方にいってしまったという意見だ。

   これだけではなんだか使い古されたメディア批判にも聞こえるが、NHK社会部の松井裕子記者は「個性とかけがいのない日常があったと感じます。どうすれば実像を伝えられるか、今も悩みながら取材しています」と打ち明けた。メディアも過去の話と切り捨てるばかりではないということか。

   サイトへの反響には、「犯人を許せない」(60代男性)と怒る声のほかに「私は障害者を差別はしないけど区別しています。あまり関わりたくない。なんの役にも立たないという気持ちはぬぐえません」(20代女性)というストレートな感想もあった。

   自身も障害者の熊谷晋一郎東大准教授は「意見は鋭い対立や、それぞれ矛盾していることもある。それを無理にまとめるのではなく、ただ並べていくことが事件の応答する一つのやり方です」と語る。

   森氏は「そうした矛盾を押し殺して、僕たちも生きてきた」「役に立たなくていいんです。僕だって役に立たないけど生きている。役に立つかどうかはどうでもいいという意識を持つ方がいい」と話した。

サイトにさまざまな反響があった

   サイトへの反響には、その人の人生が浮かぶこともある。

   「自分の生き方を見つめなおすきっかけになりました」というメッセージを寄せた福岡県の中本由美子さんには重度の知的障害を持つ18歳の息子、大智さんがいる。その暮らしは「母としての私の存在意義を問いつづける毎日」だったそうだが、大智さんは激しい行動をとることもあるため、人にケガをさせてはと施設に入れた。由美子さんは月2回かよい、意思を伝えるための訓練をいっしょにする。「19人のエピソードが私の励みになっています。小さなことで人は幸せになれる」と実感を語った。

   兵庫県の石川圭太さんは2年前、33歳のときに駅で突然倒れた。脳内出血で、右半身にマヒが残った。買い物にも以前の倍以上時間がかかる。そのもどかしさの中で出会ったのが19人の日常だ。「ゆっくり歩いていけばいいんだと思いました」という。

   サイトを見て覚悟を決めたというメッセージもあった。

   北海道の大竹康介さん(28)には自閉症と知的障害があり、バスで大声を出すといった行動をする。母の恵子さんは症状の特性や接し方を文書にまとめて、バス会社に提出した。運転手の一人は「最初はハラハラしたが、今は他の客と同じ感じ乗り降りしてもらっています」と思うようになったそうだ。大智さんは地域の人と接しようにと、図書館で本整理のボランティアとして働きだした。

   恵子さんは「社会を変えるのはむずかしい。コツコツと互いにわかりあえる努力を続ける覚悟に気づかせてくれました」とメッセージを寄せた。

   松井記者は「いかに表面的なことしか伝えてこなかったか。差別意識に目を向けてこなかったことを悔やむ」とつぶやいた。

   キャスターの伊東敏恵アナは「一人ひとりの心を考え、まずは知ることから始めていく」とまとめ、最後に「はっと気づかせられた」という30代女性の声を伝えた。

「ちがいとは何か。ちがうことを受け容れる心を持っているか。19の魂に、あなたはどういう人として生きているのかを問いかけられている気がします」

*NHKクローズアップ現代+(2017年2月27日放送「19のいのち~障害者殺傷事件・16万アクセスが語るもの~」)

あっちゃん

  • コメント・口コミ
  • Facebook
  • twitter
コメント・口コミを投稿する
コメント・口コミを入力
ハンドルネーム
コメント・口コミ
   

※誹謗中傷や差別的発言、不愉快にさせるようなコメント・口コミは掲載しない場合があります。
コメント・口コミの掲載基準については、コメント・口コミに関する諸注意をご一読ください。

注目情報PR
追悼
シニアの健康ライフ
Slownetからのおすすめ記事(提携)

お知らせ

電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中