シリアで毒ガス被害受けた子どもたちの映像入手 アメリカの攻撃の引き金に

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   アメリカが先週(2017年4月)突然、シリアの空軍基地を攻撃した。引き金になったシリア市民の毒ガス被害、痙攣する子どもたちの痛ましい姿が「NHKが独自に入手した映像」として流された。「実態を知ってもらいたい。なぜ、だれが、何のために」と、武田真一キャスターが問いかける。「シリア軍は今も化学兵器を隠し持っている」と話す元シリア軍大佐、攻撃報告を受けるトランプ大統領。混迷が深まっている。

 

   映像は今月4日、シリア北西部にある反体制派の拠点都市イドリブで撮られたという。トラックの荷台で病院に運ばれる子どもたちは、上半身裸で震え、おう吐し、呼吸困難の症状だ。外傷はない。シリア軍の空爆で少なくとも72人が死亡、子どもの犠牲は27人。「病院の医師たちもばたばたと倒れた。猛毒のサリンの可能性が高い」と医療スタッフが語る。WHO(世界保健機関)も「化学兵器が使われた可能性が高い」と指摘している。

 

   この空爆で弟を亡くしたジハードさんは「弟は呼吸ができなくなった」「防空壕の中で人が倒れていった」という。妻と子ども3人は命をとりとめたが、今も病院にいる。

 

   シリアのアサド政権は、イスラム過激派のアルカイダ系との戦いを理由に空爆し、毒ガスは反体制派の兵器が破裂したためだと主張。「アルカイダの武器庫に化学兵器があった」とも言い逃れする。化学兵器の所有者を反体制派といったりアルカイダといったり、どうにも不自然すぎる。

 

   アメリカやイギリスはアサド政権の仕業と批判を強め、国連安保理事会に調査決議案を提出したが、ロシアが拒否権を使ったため採決されなかった。これもおかしいというより、アサド政権を支持するロシアの対応が国連を機能不全にしているというしかない。

 

   30年シリア軍に属して国外に逃れたファイエス・アスマール元大佐は「シリア内には化学兵器の研究所が2カ所ある。アサド政権は情報を開示していない」と証言した。

 

   アメリカのトランプ大統領は「アサド政権は恐ろしい化学兵器の野蛮な攻撃によって罪のない市民を長時間かけて殺した。かわいい赤ちゃんさえ殺された」と激怒、アサド政権の化学兵器拠点を狙ったと公言した。

 

   東京外国語大学の青山弘之教授は「仮にアサド政権が使ったとすれば、アメリカが何もしないことを示して反体制派の士気を削ごうとした。反体制派なら、アメリカの支援をとろうとした可能性がある」と分析する。冷静な指摘ではあるが、両者五分五分の立場から中立的にものを言ってすませられる状態ではすでにない。

 

   就任以来ロシアとの協調を打ち出してきたトランプ大統領が攻撃に踏み切ったのは「アサド政権が越えてはならない、いくつもの線を越えた」と見なしたからだ。日英仏が支持や理解、中国やボリビアがイラク戦争を引き合いに出して批判の立場をとった。

 

   ロシアは「シリアが化学兵器を使った証拠はあるのか」と反発、テロとの戦いに悪影響も主張する。だからといって、毒ガス使用が限りなくクロに近いアサド政権を放置していいのかの問題がつきまとう。

 

   アサド政権の毒ガス疑惑は2013年からすでにあった。当時アメリカのオバマ政権は「武力行使も辞さない」と警告したが、踏みきらなかった。数カ月後には化学兵器が再び使われ、数百人が殺されたという。それでも、オバマ政権はロシアの廃棄提案を受け入れて、武力行使をしなかった。その後も毒ガス・化学兵器使用疑惑がたびたび持ちあがっていた。

 

   今回のアメリカの攻撃について、笹川平和財団の渡辺恒雄・特任研究員は、アサド政権への懲罰とアメリカ国内のロシア寄りとの批判をかわすため、さらに北朝鮮や中国などにアメリカは軍事力を使わないと思われないための措置、の3点をあげる。「アメリカの求心力、圧力を取り戻す」というのだ。

 

   これに対して、青山教授は「オバマ大統領は躊躇してアメリカの威信を低下させたが、トランプ大統領は攻撃しても体制転換まではできない。力は限定的だ」と疑問を投げた。

 

   ここで「世界への影響を見たい」と、鎌倉千秋アナが話を切り換えた。トランプ大統領は習近平主席との米中会談の最中というタイミングでシリア攻撃に踏み切った。

   「中国は大きな衝撃を受けたろう。アメリカと取り引きしなければならなくなる」(小原凡司・東京財団研究員)

   「トランプ政権は軍事力を行使するとの認識が、ある種の恐怖感を与えた」(平岩俊司・南山大学教授)

 

   武田キャスターは日本について「対応がむずかしい」と触れた。この点は十分な議論にならず、消化不良で終わった。

 

   青山教授は「シリアではすべての当事者が非道の限りをつくしていることを再確認する機会に(今回の攻撃が)なった」と話した。これでは反体制派までがアサド政権やIS(イスラム国)と同じという言い方にもとれる。あっちもこっちも悪いと言われも、どうも違和感がある。それとも言葉不足か。少なくとも、番組の性格を弱めた。

 

   武田キャスターは「大国の思惑が浮き彫りになりました。私たちが目を向けなければいけないのは、今この瞬間も多くの市民が危険と恐怖にさらされているということです」と常識的にまとめた。そのとおりだが、だからどうすべきなのか、トランプ大統領の行動評価がぼやけては、せっかく独自に入手した映像の価値が半減してしまう。

あっちゃん

   *クローズアップ現代+(2017年4月10日放送「シリア攻撃 広がる衝撃 ~アメリカの真意はどこに~」)

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