2024年 4月 26日 (金)

延命措置しないケース増える医療現場 本人の意思尊重

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   人間の命をのばす使命を担ってきた医療現場が今、大きく変わってきた。延命治療に新しいガイドラインが作られたのは、高齢化の急速な進展のためか。患者や家族の希望にそって人工呼吸器の管を医師が抜くこともある。「これがベストかわかりません」という最先端からの報告だ。

   人工呼吸器をはずせば、かつては殺人罪に問われかねなかった。2004年に北海道で90代の男性から呼吸器の管を抜いた医師は殺人罪に問われ、2006年に富山県で複数患者の延命を中止した医師は殺人容疑で書類送検された。

   どちらも不起訴になり、今年(2017年)4月からは本人やかかりつけ医の了解が確認されれば、救急隊員が蘇生措置を中止することも認める新ガイドラインができた。そこには医療技術は進歩しても、患者と家族には治療の負担、国には治療費の急増という実状がある。

   帝京大学病院は、年間2500人の重症患者を受け入れるうちの半数以上が高齢者だ。衰弱が進んで「助けるのはむずかしい」ことも少なくない。心肺停止で搬送されてきた患者の映像が流れた。心拍は再開したが、意識は戻らない。命をつないでも、元の生活は遠い。長期入院も増える。

   高度救命救急センターの安心院康彦医師が「命をのばすことで、本人や家族が望まない状況が生まれるのではないか。私たちのジレンマです」と話す。

   病院に運び込まれた小澤敏夫さんには人工呼吸器で延命措置がとられたものの、意識は戻らなかった。CT検査をして「意識が戻る可能性は小さい」とわかった。

   小澤さんは日ごろから妻に「延命治療を望まない」と伝えていた。家族との話し合いの中で神田潤医師は「ご本人の生命力にゆだねるということです。人工呼吸器の管を抜くと窒息とかの危険があることを十分ご理解いただきたい。いちど持ちかえってご検討いただくのはいかがですか」と語りかけた。

   2日後に家族は受け入れた。「管をはずしてよろしいですか」「はい」のやり取りが重い。

   1時間後、小沢さんは静かに息を引きとった。

   三宅康史センター長は「昔はなんでもかんでも助けていた。それで本人が納得するか、家族がどう感じるか」と問いかける。「先延ばしはやめて、われわれはできる範囲で責任をまっとうしたい」

   武田真一キャスター「もし自分だったらどういうことが言えるかわからないですが、背景には何が?」

延命中止のガイドライン広がる

   東大大学院の会田薫子特任教授は「ご本人の気持ちを尊重する時代になった」という。

   鎌倉千秋アナによると、延命中止のガイドラインは2007年に国が初めて示してから、自力で食事できずに胃ろうで人工栄養を取る状態、人工呼吸器の段階......と選択肢が徐々に広がってきた。中止で刑事訴追された事例は、この10年間にない。

   会田教授は「一般の医療現場は戸惑いが大きい。命を延ばすのが使命という教育を長く受けてきたので、ドクターとしてやっていいか迷ってしまう」と話す。

   平均年齢80歳の重い腎臓病患者70人が常時人工透析を受ける長崎腎病院では、透析中止の選択を家族に示す取り組みを行っている。患者が深刻な病状になるまえに「事前指示書」を書いてもらい、意思を確認する。これは何度でも書きなおせる。船越哲理事長は「気持ちの機微によりどちらでも選べる。どちらを選んでも間違いではない」と語る。

   享年87で逝った祖父をかかえていた宮田純子さんは7年間透析を受けた祖父が治療の負担を訴えるようになり、本人と話し合って「自然な形で」と透析中止を決めた。2週間後に亡くなったが、「この2週間が一番おじいちゃんのことを考えました。本人が望んでもいないのに延命しなくてよかったんじゃないかと思います」

   家族がゆれる現実もある。

   成富義孝さん(76)は、延命継続は希望しないと答えていたが、胃ろう治療を勧められた時に2日考えて、継続希望を選んだ。妻の五枝さんは「私はうれしかった。たとえ元気に戻れなくても、一日でも長く生きてほしい」と言う。これもまた荘厳な選択だ。

   会田教授は「治療を受けたいと思える社会であってほしい。家族から出される疑問に丁寧に『答える』(アンサー)でなく『応える』(レスポンス)。病院、医療の態勢をととのえて、考えるプロセスを共有することが大事です」

   いまACP(アドバンス・ケア・プランニング)が欧米で広がっている。専門スタッフが本人や家族の細かい相談にのりながら変化に対応していくシステムだ。

   「延命治療は大事だが、患者や家族といっしょに考えていく、そういう医療者が求められている。市民の側も、良く生きるために、生き終わりも考えて」と、会田教授は強調する。

   「人生の最期に医療とどう向き合うのがいいのか」という武田キャスターの疑問に、共通する答えはないが、延命治療をめぐる環境が大きく変わったことだけはよくわかった。模索するしかない。

クローズアップ現代+(2017年6月5日放送「人口呼吸器を外すとき ~医療現場 新たな選択~」)

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