体幹トレーニングが桐生を変えた!10秒の壁を破った秘訣とは

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   陸上競技100メートルで桐生祥秀選手が日本人初の9秒台を達成した。9秒98。「やっと世界のスタートラインに立った」という桐生のこれまでを検証すると、体幹トレーニングの強化が効いていた。フィジカルが弱いと言われてきた日本人のスポーツ像が変わるかもしれない。

   桐生は滋賀県彦根市の小学生時代、サッカーのゴールキーパーをやっていた。コーチだった峯浩太郎さんは「出足が速く、守備範囲の広さが際立っていた」と振り返る。NHKでは触れなかったが、民放の番組では「足が速すぎて危ないのでゴールキーパーをさせた」という話もあるほどだ。

   中学からは陸上部。学校近くの坂で上り下りの走りを繰り返した。そこは今「桐生坂」とよばれるそうだ。「まじめにコツコツやっていました」と、顧問だった億田明彦さんは言う。高校3年で100メートル10秒01を出して、一躍全国に名前を知られる。9秒台が夢でなく、現実味を帯びた。桐生自身が「目標として考えたい」と話した。

   しかし、以後2年間は、記録が伸びなかった。日本選手権で10秒31だったときは男泣きして、悔しさをあらわにした。レースの中盤以降に体が反る癖がぬけず、気負うあまりに上体のバランスがくずれていた。ストライド(歩幅)、ピッチ(1秒間の回転数)ともに以前を下回った。

ハンマー投げの室伏広治さんが指導

   そこで取り入れたのが体幹回りのトレーニングだ。ハンマー投げの五輪金メダリスト、室伏広治さんの指導を仰いだ。桐生は「体の芯、見ためにはわからない部分をきたえた」と言い、室伏さんは「肉体改造、動きの改造で持ち味を出せるように取り組んだ」と話す。

   それでも、自己ベスト更新は容易ではなかった。世界選手権の国内選考レースは4位で、代表になれなかった。桐生は「一回やる気がなくなった。練習をやめたいと思った」という。

   今年は「ただがむしゃらに走ってみたら、一人で走るうちに原点の感覚を取り戻した」

   「走る楽しさをもう一度味わいたい」と、気づけば50メートルダッシュを70回繰り返していた。そして、9日(2017年9月)の日本学生対校選手権大会に、左足の違和感に迷いながらも出場し、「反対に肩の力が抜けて」9秒台で走り切った。

   五輪に3回出場した為末大さんは「ストライドとピッチが良くなった。彼ぐらいになると、参考になる人がいない。自分のスタイルを貫いたことがよかった」「トレーニングの成果が出るまでには1年ぐらいかかり、その中で一人で戦った」と評価する。

   桐生はいま1メートル76センチ、70キロ。ストライドは2・11メートル、ピッチは4.75。100メートルを47.3歩で走る。9秒98を8月の世界陸上にあてはめると、4位に入るタイムだ。

層が厚い日本陸上短距離界

   日本の陸上短距離界にはいま多田修平、山縣亮太、ケンブリッジ飛鳥、サニブラウンと、桐生のライバルたちもいる。史上かつてない層の厚さだ。

   これまで五輪で100メートル決勝に進出したのは85年前の吉岡隆徳さん一人しかいない。いまや9秒台が当たり前となった世界のトップレベルに追いくため、1990年に日本スプリント学会が結成され、最先端のトレーニング論を取り込もうとし始めた。2007年には全天候型ナショナルトレーニングセンターが完成し、桐生選手もトレーニングを積んだ。国立スポーツ科学センターでフォームの解析も可能になった。

   北京五輪の男子400メートルリレーで銅メダルをとり、陸上人気が盛り上がった。今月(2017年9月)来日したウサイン・ボルトが「日本選手はおそらく2年で10秒をきるだろう」と語った、その4日後に桐生がそれをやってのけた。

   桐生は「これを通過点として、大きい大会で記録を残したい、勝ちたい」という。

   為末さんは「すべてのスポーツで日本人はフィジカルが弱い、だから技術を磨けといわれてきました。これがすべての選手を変える可能性があります」と、今回の意義を指摘する。小さくて体力のない日本人というイメージは、もう神話なのだろうか。

   武田真一キャスターは「私たちが壁と思っていた壁を打ち破ってくれた」とうなずく。もちろん、だからといって、日本人のすぐれた技術や頭脳プレーを忘れたら何にもならない。スポーツはもちろん産業でも国作りでも、そこはしっかり踏まえておきたい。

*クローズアップ現代+(2017年9月11日放送「100m9秒台の世界へ ~日本選手初・桐生祥秀が語る~」

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