「家族は血なのか、おカネなのか」 『万引き家族』カンヌ最優秀賞の快挙、是枝監督大いに語る
2018年5月20日にフランス・カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた是枝裕和監督がNHKに生出演し、受賞作『万引き家族』について「なかったことにされる存在をどう可視化するか、ドキュメンタリーで身についた作り方をした」と、映画の狙いや制作スタイルを語った。黒澤明や今村昌平監督らに続いて日本史上5度目、21年ぶりの快挙だ。
『万引き家族』は、生きるために万引きをし、祖母の年金をあてにして暮らす親子を描いた。日雇い労働者の父や女子高生を売りにする店に勤める娘。ある日、虐待を受けていた少女を連れ帰ったことで、やがて家族それぞれの秘密がわかってくる。
カンヌで上映後、盛大な拍手が鳴りやまなかった。「並外れた映画」「家族のきずなや人間模様を鋭くとらえた」と評価された。受賞した瞬間の気持ちを是枝監督は「ホッとしたのが一番で、皆が全力で作ったのが報われた」「つぎに恥ずかしくないものを作る覚悟をしなければ」と話した。主演のリリー・フランキーさんは「顔にジンマシンができるほどうれしかった」そうだ。
「日本社会で疎外された人々をたどった繊細なリアリティー」
映画の着想を、是枝監督は「家族は血なのか、おカネなのか」と問いかける。「血のつながりがない家族を掘り下げて、血縁以外でどう結びつくのか、そこからスタートしました」という。年金詐欺事件が全国ニュースになったことをきっかけに、「社会からギリギリのところでどうこぼれ落ちないようにしているのか」をとらえようとした。
リリー・フランキーさんは是枝監督を「ジャーナリストというか、ドキュメンタリー作家としていつも考え、憤ってきた人で、ああ是枝さんの映画が始まるんだなとすごく共鳴した。一般家庭でもわかるメッセージが入っている」と話し、武田真一キャスターは「一見普通だが、なにかおかしい」と感想をもらした。
是枝監督が意識したのは「ただの犯罪だけではなく、ある程度恣意的なものを入れ、家族から反対に僕たちが見返される形に後半は転じようかと思って作った」と自らの意図を解説した。
カンヌ映画祭のレッドカーペットを歩くとき、冬の撮影で夏のシーンを撮ってスタッフやキャストにつらい思いをさせたことを思い出した。子役には脚本をわたさず、その場でセリフを与えるやり方で通した。「いかにナチュラルな表情や言葉を引き出すか、それを皆が受け入れてくれた」と振り返る。
どこからがセリフで、どこからがアドリブなのか、観客にはわからない。「出演者が皆、相手の言葉を受けて投げ返すのが上手でした。アンサンブルが生まれました」
休憩中の会話も是枝監督は聞いていたそうで、リリー・フランキーさんは「どこまで撮っているかわからない空気を作ってくれた。監督はつねに人を見ている人」と受けとめた。
これが「日本社会で疎外された人々をたどった繊細なリアリティー」(フランスのフィガロ紙)と評された。
是枝監督は「この10年ぐらい試行錯誤した。一つの答えではなく、積み重ねたものを出せた」
今後について、是枝監督は「外国で撮ろうと思っています」という。スタッフと打ち合わせを始めたところだ。リリー・フランキーさんは「いつかパルムドールをとる人だとずっと思っていた。つぎはいろんな国でセッションして作る小さな社会を大きな舞台で見てみたい」と期待する。
是枝監督自身「新しいものにチャレンジして新しい監督としてまた登場したい」と決意を語った。
映画は6月8日(2018年)から国内公開される。
※NHKクローズアップ現代+(2018年5月22日放送「21年ぶりの快挙!カンヌ最優秀賞 生出演・是枝監督が語る」)