あおりネットに乗せられて大量の弁護士懲戒請求 弁護士が猛反撃、請求者が損害賠償を支払うケースが続々
「匿名だから」とだまされて40万円の和解金支払い
弁護士側との和解を申し出た人もいた。
中部地方の50代男性は、全国の弁護士複数から「裁判か和解か」と問われ、あわてて和解を選んだ。現金を家族に内緒で集め、7人に40万円を支払った。「冷静なら調べることなのに、あおられてしまった」と反省しきりだ。これまでに裁判になった27件中20人が和解を申し出ているという。
ブログの呼びかけにあおられた人に共通するのは、「日本をよくしたい」「制度を理解せず、気軽に行動した」「匿名だからいいと思った」などだ。
大阪大学の辻大介准教授(社会学)は「思いとどまらせる意見が通りにくい情報環境ができている」と、自分好みの情報が自動的に提示されるネットの仕組みを解説する。
過去の閲覧歴から自分で検索しなくても情報が選びだされ、反論や異見はさえぎられる「フィルターバブル」だ。これにより、積極的に同意見だけを集める「エコーチェンバー」(共鳴室)という状態になる。
穏やかに「自分とちがう意見も聞こう」とよく言っていた70代の父親が急変した体験を持つ女性がいる。父親は「ネットで中国の悪口をいう動画ばかりを朝から晩まで見るようになった」という。やがて「これが常識だ」「中国人が攻めてきても知らないぞ」などと言い始め、家族はもう話しかけるのも避けている。
辻准教授は「対話なら嫌な顔や反論も返ってくるが、ネットにはなく、抑制が効かない」「ネット世界の強硬な意見に引きずられ、極端な行動に出やすい」という集団極性の傾向に警鐘を鳴らす。
国際基督教大学の森本あんり副学長は「いまの政治やマスコミに任せることはしたくないとの欲求が隠れている。自分の存在意義を受け止めてくれるものがあれば、号令に染まってしまう」と、危険性を指摘する。
膨大な情報があふれながら、一人ひとりには極端なまでに偏ってしまうネット社会。「情報の海の中で、分断されかねない危うさを見つめるべきだ」と総括した武田真一キャスター。正論だが、漠然とした心がけだけでは現状は変わらない。
その点、攻撃された弁護士たちの、「やり放しにはさせないぞ」という反撃は有意義だった。発端を作ったあおり行為の発信者もこの際、野放しにすませてはいけない。具体的に責任を問わなければ、ネットの闇はいつまでも終わらない。
※NHKクローズアップ現代+(2018年10月29日「なぜ起きる弁護士の大量懲戒請求」)