2019年 12月 13日 (金)

対談「是枝裕和×ケン・ローチ」なぜ家族を撮り続けるのか・・・最新作「真実」「家族を想うとき」もテーマは家庭崩壊

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   今月(2019年9月)行われたベネチア映画祭で、是枝裕和監督の最新作「真実」がオープニング上映を飾った。カトリーヌ・ドヌーブが演じる仕事中心に生きてきた俳優の母と、その母の愛情を感じられずに生きてきた娘の物語だ。これまでも育児放棄された子どもや貧困に苦しむ人々など、揺らぐ家族の姿を描いてきた是枝監督は、最新作の完成直前に長年影響を受けてきたイギリスの巨匠、ケン・ローチ監督を訪ねていた。

   「監督デビューしたときに一番指針となった人で、憧れの存在」と是枝監督が言う。半世紀以上にわたり、社会の矛盾を告発する映画を作り続け、この冬に公開される新作「家族を想うとき」でも、劣悪な労働環境に引き裂かれる家族の姿を描いている。2人は、世界で進む「家族の崩壊」について語り合った。

社会矛盾のしわ寄せが家族に

   ローチ「いま労働者は力を失い、そのしわ寄せで、家庭の貧困化や家族の崩壊が起きています」

   是枝「『万引き家族』公開時には、"犯罪を擁護するのか""自己責任だろう"という意見がネットを中心に飛び交いました」

   ローチ「私も"お前は国の敵だ"と批判されました。それは、社会を支配している者たちにとって、自分たちの利益こそが国益だからです」

   スタジオで武田真一キャスターに、家族を描き続ける理由を問われた是枝監督はこう語った。「うーん、わからないから面白い。もっと知りたいと思っているからでしょう。家族とか母とか父、子どもを、"こうあるべき"と考えるべきではないと思っているので」

   「地域や学校、いろんな共同体が形を変えつつあります。そんなときに、人がすがる最後の共同体が、もしくは最初の共同体が、家族なのだと思います。しかし、そこにいろんなしわ寄せが来ています。だから、いろんな事件が家の中で起きているのでしょう」

80歳にして再びメガホンをとったローチの怒り

   12月に公開されるローチ監督の最新作で描いた主人公は、本社とフランチャイズ契約を結ぶ宅配ドライバーだ。個人事業主だが、過酷なノルマなど制約の中で働かされる。妻はパートタイムの介護士。過密なシフトに振り回され、満足な介護ができずにいる。そんななか、家族の絆が壊れていく。

   是枝「新作を拝見すると、登場人物たちは、なぜ自分が不幸な状態に置かれているかということには気づいていません。ただ幸せになりたい、家族と一緒に暮らしたいと思っているだけなのに」

   ローチ「多くの人々が不安定な雇用状態に置かれています。この映画で描こうとしたのは、こうした『労働者が本来持つべき力を失っている現実』と、それが『家族に与える壊滅的な影響』です」

   80歳を超え、一時は引退も考えたというケン・ローチ監督が、再びメガホンを手にしたのは、労働者が置かれた不安定な状況への怒りだった。制作にあたっては、現役のドライバーや介護士に綿密な取材を重ねた。

   ある宅配ドライバーは「1日15時間働く日もあり、休憩もとれない。平均時給は700円程度」と話した。ローチは「こんな社会になったのは、大企業の間の激しい競争が原因です。少しでも儲けようとすれば、安い労働力が必要で、そのために労働者の立場がますます弱くなってしまった」と話す。

   寂れた炭鉱の町で、未来に希望を持てずに生きる少年の姿を見つめた初期の名作「ケス」以降も、過酷な労働環境で働く日雇いの建設作業員など、社会的に弱い立場にある人々を描いてきた。3年前のカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した「わたしは、ダニエル・ブレイク」では、行政の冷たい対応が助けを必要とする人たち追い詰めていく姿を描いた。

「人々に力を与える物語を伝えていく使命があります」

   ローチは「映画監督として心がけているのは、『搾取や貧困を始めとする弱者が置かれた現実をどう伝えるか』です。映画を通して社会の構造的な問題を明らかにし、解決に導くべきだと考えています」と話す。

   是枝「日本はいま、実際に不正をして、搾取をしている人たちは誰なのかというところに、目が向きにくいようになっています。政府がメディアを巻き込んで、非常に上手に自分たちに批判が向かないようにしているからだと思います」

   ローチ「メディアにとって、国益とは富裕層や権力者の利益を意味しています。だから、何か問題があると、移民のせいだとか、労働者が怠け者だからだとか、さまざまな理由を示すのでしょう」

   社会に押しつぶされそうな、「声なき声」をリアルに伝えるための演出手法でも、ふたりには共通点がある。役者に台本を渡さず、そのつどセリフや状況を伝える。ローチのこの手法は是枝にも影響を与えてきた。現場の状況に応じて台本を柔軟に変え、より自然な演技を引き出すのだ。

   ローチ「私は、映画を通してごく普通の人たちが持つ力を示すことに努めてきました。弱い立場にいる人を、単なる被害者として描くことはしません。なぜなら、それこそ特権階級が望むことだからです。彼らが最も嫌うのは、弱者が力を持つこと。だからこそ、あなたが映画で示してきたことは、重要なのです。私たちには、人々に力を与える物語を伝えていく使命があります。自分たちに力があると信じられれば、社会を変えるかもしれない」

NHKクローズアップ現代+(2019年9月17日放送「是枝裕和×ケン・ローチ "家族"と"社会"を語る」)

文   バルバス
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