2020年 10月 25日 (日)

〈鵞鳥湖の夜〉
誤って警官を射殺した男と謎の娼婦の逃避行。裏切りが連鎖するなか、スタイリッシュとぎこちなさが絶妙なバランスで共存する切なさ

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   刑務所を出所して間もない裏社会の男チョウ・ザーノン(フー・ゴー)は、所属しているバイク窃盗団の縄張り争いのいざこざに巻き込まれた末、誤って警官を射殺してしまう。2日後、全国指名手配犯となっていたチョウは、苦労をかけてきた妻と子どもにせめて自分にかけられた多額の報奨金を与えたいと考え、郊外の駅で妻を待っていた。

   すると、そこに謎の女アイアイ(グイ・ルンメイ)が現れ、妻が病に倒れ来られなくなったことを告げられる。アイアイは自分が報奨金を受け取り、チョウの妻に渡すと提案する。

  • 「鵞鳥湖の夜」(公式サイト(http://wildgoose-movie.com/)より)
    「鵞鳥湖の夜」(公式サイト(http://wildgoose-movie.com/)より)
  • 「鵞鳥湖の夜」(公式サイト(http://wildgoose-movie.com/)より)

誰もが死と隣り合わせの男女のエロスを期待するが...

   しかし、駅構内にも捜査の手が及んだことを悟り、2人は一時別行動をとる。やがて、警官だけではなく裏社会の男たちからも追われ始めたチョウは、家族に報奨金が渡ることだけを望み、アイアイに指定された古びたアパートの一室へ向かった。

   映画の始まりは人影の消えた真夜中の駅。女が男に「火を貸して」と声をかける。降りしきる雨、タバコの紫煙、傷を負った男、謎の女。そんなノワール映画の王道的モチーフが散りばめられた画面の中で徐々に見えてくる違和感。タバコを親指と人差し指でつまんで吸う女の姿はとてもじゃないが優雅とはいえず、男は男で突如現れた謎の女に本気で狼狽している。

   一言でいえば、この2人どこかダサい。全編を貫く光と影を巧みに利用したスタイリッシュな画作りの中に際立つ、2人の行動からにじみ出る「抜け感」が本作の魅力だ。

   謎の女アイアイを演じるのは、ディアオ・イーナン監督の前作『薄氷の殺人』で妖艶な魅力から男を狂わせる女性を演じたグイ・ルンメイ。本作では、より人間的な魅力に満ちたファムファタールを見事に演じ切った。彼女の職業である「水浴嬢(=ボートの上で体を売る娼婦)」という設定は2人の関係性の微妙な変化を表現するのに巧みに用いられた。

   映画の中盤、チョウとアイアイは潜伏先の夜の鷲鳥湖でボートに乗る。追っ手の目から離れた束の間の安住の地。誰もが死と隣り合わせの男女ならではのエロスを期待するシーンだが、湿り気を帯びた画面とは対照的に2人の関係はどこまでもドライだ。アイアイは仕事の延長としてチョウの性欲を処理することだけに専念し、行為自体にロマンティックなムードなど一欠けらもない。

   しかし、行為後、2本分のタバコに火をつけてチョウに手渡す仕草や、その後の「逃げるつもりはないの?」という問いかけからは、アイアイが初めて能動的にチョウの人生に関与する姿勢がうかがえる。そして、ここでの関係の変化はクライマックスに向かう大きな転換点と作用する。行為の激しさで見せるのではなく、ドライな行為を通して際立つ刹那的な2人の関係の変化が浮かび上がる素晴らしいシーンだ。

   裏切りが連鎖するノワールの王道的プロットの中で、スタイリッシュとぎこちなさが絶妙なバランスで共存する才気あふれる作品。そのオフビートな魅力は映画館でこそ花開く。

☆☆☆ シャーク野崎

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