2024年 4月 27日 (土)

動き出した「1億総活躍社会」に役所は予算分捕り合戦 テーマ重なる政策会議の乱立で「司令塔」の奪い合い

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   第3次安倍改造内閣が掲げる「1億総活躍社会」が実現に向けて動き出した。安保法制強行で低下した内閣支持率を、「経済優先」で回復させようという戦略の看板政策だが、構想表明当初は、イメージがわかない上に、戦前の「一億火の玉」「一億一心」などが戦前の全体主義を連想させることもあって、冷ややかな声も目立った。

   政権が命運をかけて打ち出した以上、霞が関の組織は動き始めた。とはいえ、目新しい政策がそうあるはずもいなく、一部の役所がこれを名目にした予算分捕りに血眼になっている。結局は予算配分でメリハリをつけ、それを「1億総活躍」の姿にしつらえて上手に見せるかがポイントになりそうだ。

  • 霞が関官僚からも「どこまでが『1億』関連か見えない」との声(画像はイメージ)
    霞が関官僚からも「どこまでが『1億』関連か見えない」との声(画像はイメージ)
  • 霞が関官僚からも「どこまでが『1億』関連か見えない」との声(画像はイメージ)

厚労省も文科省も内部に「1億本部」設置

   安倍首相は2015年10月14日、首相官邸の執務室に1億総活躍相や新たに設けた「1億総活躍推進室」の幹部を呼び、「自分たちで未来をつくるんだとの自覚をもって取り組んでほしい」と指示し、11月末までに緊急対策、2016年5月末までに2020年を見据えた「日本1億総活躍プラン」を作成する考えを示した。

   これを受けて19日に10府省庁の局長級幹部職員を集めた連絡会議を開催。加藤勝信担当相は「1億総活躍社会の実現に向け、全ての政策を総動員させていく。縦割りを排除し、政府の持てる力をしっかり発揮していきたい」と呼びかけた。23日には15人の国民会議メンバーを発表し、タレントの菊池桃子氏らが話題になった。

   すでに霞が関の各省の間では、内閣の看板政策にからめて政策を打ち出せば新たな財源を確保でき、省益拡大につながるのではないかとの思惑が渦巻く。中でも、関連施策を多く抱える厚生労働、文部科学両省の動きが目立つ。

   厚労省は、首相が1億総活躍に向けて掲げた「新3本の矢」(GDP=国内総生産600兆円、希望出生率1.8、介護離職ゼロ)のうち、少子化対策と介護問題を担う。早速、16日、省内に「1億総活躍社会実現本部」を設置し、保育所の整備や保育士の増員といった待機児童対策の拡充などへの取り組みを強める。塩崎恭久厚労相は本部立ち上げに際し、「わが省が先頭に立って取り組まなければいけない課題だ」と檄を飛ばした。

   同じく省内に推進本部を立ち上げたのが文科省。馳浩文科相が16日の経済財政諮問会議で「1億総活躍社会の実現に向けて」と題する資料を提示。出生率の向上▽貧困の連鎖を断つ▽特別な支援の充実の三つの目標を掲げ、「教育投資の効果」を強調した。厚労省が所管する保育を中心にした未就学児中心の議論が多かった「子育て支援」の幅を広げ、「教育費負担が少子化の最大の要因」(馳文科相)としている。馳文科相は17日の講演で、フリースクール義務教育化や夜間中学校の増設など具体的な政策に言及した。

   厚労省と並んで「推進室にエース級職員を5人送り込んだ」という経済産業省は全体の施策をにらんだ主導権獲得を目指しながら、「企業に対する働き方改革」などで具体策を詰める見込み。他にも、国交省は国土強靱(きょうじん)化のほか、「3世代の近居・同居」などが施策候補になりそうだ。

戸惑う石破地方創生相とはかみ合わず

   一方、昨秋の第2次改造内閣で、地方選をにらんでの看板政策「地方創生」の司令塔とされた石破茂地方創生相は戸惑いを隠さず、9日の会見で「国民には『何のことでございましょうか』といった戸惑いが、全くないとは、私は思っていない」と語った。19日に加藤担当相と会談し、地方創生との政策の仕分けなどについて協議したが、加藤氏も「お互いのイメージを確認した。具体的な作業はこれから」と言う程度で、石破氏は20日の会見で「加藤さんと一致したのは『これ(1億総活躍)って国民運動なんだよね』ということ」と述べるなど、いまのところ十分にかみ合っていない印象だ。

   霞が関でも、厚労省や文科省など一部を除くと、「どこまでが『1億』関連か、全体像が見えない」(ある省の幹部)と様子見の段階で、「基本的に概算要求の範囲内で対応することになる」(別の省関係者)との姿勢が目立つ。関連する既存の施策を「1億枠」として予算要求する、という、よくあるパターンだ。

   いずれの政策も、最終的には予算を伴うもので、「少子化も介護も、カネさえドーンと付けば、政策が大きく進む」(霞が関筋)。それを財政再建とどう並行して進めるか。一筋縄ではいかない日本の現状が、今回の会議の設置で変わるわけではない。予算を査定する財務省からは「中身があればいいが、ムダなものを認めない」とけん制球が飛ぶ。「間違っても参院選対策や目先の人気取りのためのバラマキ政策に矮小(わいしょう)化してはならない」(産経新聞20日「主張」)のは当然のことだ。

これまでの政策の焼き直しで終わるのか

   関連する各省の審議会や政策会議がすでに乱立気味で、これを加藤担当相がどうまとめていくかも大きな課題だ。男女共同参画会議、少子化社会対策会議は加藤氏の担当だが、甘利明経済財政担当相が所管する経済財政諮問会議、産業競争力会議、社会保障制度改革推進本部、河野太郎行革相の規制改革会議、馳文科相の教育再生実行会議、石破地方創生相の「まち・ひと・しごと創生会議」などがある。

   国民会議メンバーの人選も、民間議員15人のうち、榊原定征経団連会長と高橋進日本総合研究所理事長が経財諮問会議、三村明夫日本商工会議所会頭が競争力会議、増田寛也元総務相が「まち・ひと・しごと会議」との兼務で、政府税制調査会と財政制度審議会の委員を務める土居丈朗慶大経済学部教授、労働政策審議会委員の樋口美雄慶大商学部教授という「常連」も名を連ねる。現在は兼任のない8人の多くも省庁の審議会などに関わった経験があり、全体として「どの審議会でもお目にかかるメンバー」(霞が関関係者)という印象は否めないところ。

   この人選を、「議論が従来の政策の焼き直しにとどまる懸念はぬぐえない」(毎日新聞24日朝刊)ととるか、「既存の会議との連携を重視することを鮮明にした」(日経新聞24日朝刊)ととるかは、見方が分かれるところで、「司令塔機能をしっかり発揮し、各省の政策を横串で見て、うまく組み合わせていきたい」(23日のTV番組)と述べる加藤担当相の腕の見せ所になる。

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