2024年 4月 19日 (金)

三菱重工で相次ぐ大型案件「納入延期」 巨大製造業に何が起きているのか

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   国産ジェットMRJの初飛行に沸いたばかりの三菱重工業で、2015年末にかけて異変が相次いだ。

   子会社の三菱航空機が開発する国産初の小型ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の納期を延期すると思えば、長崎造船所で建造中の豪華客船の納入が大幅に遅れ、巨額の損失を出している。提携するフランス原子力大手の経営不振を巡っては、支援要請を受けてハムレットのように悩む......といった具合だ。日本を代表するハイテク製造業で何が起きているのか。

  • MRJの初納入は2018年半ばに延期された
    MRJの初納入は2018年半ばに延期された
  • MRJの初納入は2018年半ばに延期された

MRJ初飛行成功後に4度目の納入延期

   MRJは当初、2011年の初飛行、2013年の1号機納入を計画していたが、設計の見直しなどで初飛行が5回延期され、2015年11月11日にようやく初飛行に成功、日本初のジェット旅客機ということで大いに注目された。

   それからわずか1か月半。三菱航空機は15年12月24日に、2017年4~6月としていた初納入を1年程度延ばし、2018年半ばとすると発表した。国土交通省から安全性の証明を得るための主翼の強度不足がわかり、全体の計画を見直し、強度を測る地上試験の数や、今後の改修時間を確保する必要があると判断した。納期延期は4度目。

   MRJの製造を担当する三菱重工は「2020年に月産10機を目指す計画にほとんど影響はない」と強調。これまでに日米を中心に407機(キャンセル可能な184機を含む)を受注しており、現時点で納期の遅れによるキャンセルはないという。初納入先の全日本空輸も「納期の遅れは残念だが、完成度の高い安全な機体を納入してほしい」と、25機の発注契約に変更の予定はないとしている。

   問題は、競合する海外勢と比べ優位性が確保できるかだ。このクラスの航空機では、ブラジル・エンブラエルとカナダ・ボンバルディアの両社が2強。エンブラエル社はMRJと同じ最新鋭エンジンを搭載した新型機を2018年以降に販売する計画で、米航空大手と大量納入の契約を交わしたと伝えられる。今のところMRJの開発が先行しているとはいえ、今後、MRJに、さらに想定外の不具合が出ないとも限らないだけに、「優位性が揺らぐリスクは残る」(業界関係者)との声がある。

大型客船では1600億円の特別損失

   一方、三菱重工が客船世界最大手米カーニバル傘下の「アイーダ・クルーズ」向けに長崎造船所(長崎市)で建造中の大型客船は、2015年12月の納入予定に間に合わなくなった。2011年にアイーダ向け大型客船2隻(いずれも約12万5000総トン、3250人乗り)を受注し、1番船は2015年3月に納入予定だったが、設計や資材の変更などで2度延期し、12月にずれ込んだ挙句、さらに年を越した。内装の仕様変更などへの対応が理由という。

   受注額は2隻で1000億円とみられ、収益どころか、既に累計1600億円超の特別損失を計上した。3度目の延期に加え、2番船についても納期の2016年3月から遅れる見通しといい、さらに損失が膨らむ恐れもある。

   一般商船では、中国や韓国などとの価格競争が激化して採算の悪化が続き、付加価値が高い客船で造船事業の収益力を上げる戦略だが、第1弾のもたつきとあって、今後の事業展開を危ぶむ声が業界ではささやかれている。

   さらに、フランス原子力大手アレバと、その中核子会社で原子炉製造を手掛けるアレバNPへの出資問題もくすぶる。アレバとは2006年に原子力機器事業で提携し、トルコやベトナムなどへの原発売込みで協力している。しかし、アレバは2014年12月期まで4期連続の最終赤字を計上していることから、同じ加圧水型原子炉(PWR)技術を持つ三菱重工にアレバNPへの出資を要請してきている。世界の原発売込みでの協力に加え、原子力大国フランスでのビジネスチャンス拡大の期待がある半面、アレバ再建には時間がかかるとみられることがネックになっている。また、アレバは中国の原発関連企業にも出資を求めており、双方が出資となれば、「中国への技術流出懸念も出てくる」(大手紙経済部デスク)など、出資をためらう理由にも事欠かない。

   いまのところ、こうしたマイナス面がにわかに経営の屋台骨を揺るがすことはないと見られる。2016年3月期の売上高見込みは前期比5%増の4兆2000億円と巨額で、経常利益も9%増の3000億円と従来からの予想を維持している。上半期は交通・輸送部門の利益が拡大し、防衛省向けの航空機などを手掛ける防衛・宇宙部門も増収増益、米ボーイング向けの航空機部材の販売増や円安効果も利益を押し上げてはいる。

   しかし、日本を代表する製造業の苦境が相次ぐ中、三菱重工にも死角が全くないとは言い切れない。

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