2024年 4月 19日 (金)

「怪談」
黒木瞳の「幽霊」 メイクも演技も怖くない

   円朝の「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)」の落語を原作とした「怪談」。累ケ淵という深い川に絡め捕られる女の悲しい物語だ。Jホラーの旗手として日本の「リング」や「仄暗い水の底から」「呪怨」などをハリウッドで製作しヒットさせた一瀬隆重プロデューサーに、「リング」で注目された中田秀一監督のコンビ。映画初主演の歌舞伎界の御曹子、尾上菊之助と、TV・映画に売れっ子の黒木瞳の主演とスタッフ・キャストは豪華だ。

(c)2007 「怪談」製作委員会
(c)2007 「怪談」製作委員会

   粋でハンサム、優しい煙草売りの新吉(菊之助)は、三味線の師匠、豊志賀(黒木)と深川の街筋で出会う。艶やかな豊志賀は男嫌いで通していたが、年下の新吉に出会ってビビビッと一目惚れ。新吉も豊志賀に魅かれて煙草を口実に毎日のように稽古場へ通い、いつしか男女の仲になってしまう。しかし豊志賀の悋気(りんき)は相当なもの。弟子のお久(井上真央)が新吉に会釈したと怒り出す。変わってしまった師匠に愛想を尽かして弟子たちも一人、二人と去って行く。新吉も心配し、別れた方が良いと切り出すと大喧嘩。揉めたはずみで三味線のバチが豊志賀の顔を傷つける。

   こういう話の裏には大抵、親同士の因縁があるものだ。二人は親たちの忌まわしい縁で繋がっているというプロローグがある。美貌のヒロインが幽霊になる時は「四谷怪談」のお岩さんを始めとして「目」が腫れただれて、二目と見られない顔になるのが定石だ。黒木のメイクは遠慮がちに目の辺りを膨らましているが、これでは怖く無い。苦しんで死んだ豊志賀の遺書にある「この後、女房を持てば必ずやとり殺すから然う思へ」の文句が恐ろしい。物語の展開はこの手紙が起点となる。

   菊之助は、年上の女性に憧れる純粋な青年が、歌舞伎で言う「色悪」になって行く過程を好演している。歳で美貌に翳りが見えるが黒木は、化け猫に徹した美人女優、入江たか子の境地にはまだ届かない。メイクも演技も怖くないので、映画に迫力が出ない。一方、新吉と下総で結婚するお累を演じる麻生久美子が良い。生まれた赤子が泣き声も立てず暗い目をして見つめてくる恐怖を演じている。

   出来はそれほど悪くないが、映画が狙う怖さが無いのが欠点。市瀬も中田も語っているが、Jホラーでは大体やることはやった。時代劇で新たな天地を切り開こうとする目論見は良い。しかし原作の落語で聞くような怖さも感じないようではどうか。中田の秀作「リング」「仄暗き~」は現代日常でのホラーだが、時代劇になると身近に感じないのが一因か。それに奥寺佐渡子の脚本が冗漫。2時間もかける内容じゃない。中田も日活ポルノで修業を積んだのだから、美人女優をこれだけ揃えたベッドシーンは手を抜かずにキチンと描写して欲しい。

恵介
★★☆☆☆
怪談
2007年日本映画、松竹・ザナドゥー配給、1時間59分、2007年8月4日公開
監督:中田秀夫
出演:尾上菊之助 / 黒木瞳 / 井上真央
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