2024年 4月 24日 (水)

商業

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現状

商社、長い低迷期をようやく脱し、復活の兆し

首都東京の水産物をまかなう築地中央卸売市場
首都東京の水産物をまかなう築地中央卸売市場
 

   日本経済発展の象徴でもあった「商社」が、1990年代に入ってからの長い低迷期をようやく脱し、復活の兆しを見せている。2004年3月期の連結決算によると、三菱商事三井物産住友商事伊藤忠商事丸紅の大手5社のうち、赤字を記録した伊藤忠商事を除き、4社が過去最高の利益を計上した。世界的に資源・エネルギー価格が高騰したのに加え、株高で収益が改善した。

   各社は利幅の薄い貿易業務から、事業投資に力を入れ、投資した会社の配当やキャピタルゲインを収益の柱にするよう構造転換を進めている。05年3月期は5社ともに過去最高益を更新する見通しだ。

2000年以降、商社間の事業統合が急ピッチ

日本の貿易 総括表

   経済のグローバル化、金融ビッグバン、連結決算時代に入り、商社も事業の再編、統合を余儀なくされている。特に2000年以降、商社間の事業統合が急ピッチで進んだ。
   ルーツが同じ伊藤忠商事と丸紅は、01年10月に鉄鋼事業を統合して伊藤忠丸紅鉄鋼を設立した。三井物産と住友商事は02年2月、建材事業を統合して三井住商建材を設立している。三菱商事と日商岩井が03年1月に鉄鋼事業を統合してメタルワンを設立。
   一方で、流通事業への資本参加も相次いでいる。住友商事が西友へ、三菱商事がローソン、伊藤忠商事がファミリーマートへという具合だ。  またナノテクノロジーをはじめとする新技術にも着目し、将来の収益源に育てようと各社ともに投資に積極的だ。資源開発のビジネスにも前向きである。
   バブル崩壊後、大手商社は不動産や金融商品の投資損失処理と、低採算事業の整理に苦しんできたが、現在は新たな成長戦略の構築を模索している。手数料中心の「口銭」ビジネスから、成長性の豊かな分野に投資して配当や事業の売却益を得る事業投資へのビジネスモデルの転換を目指す動きである。

専門商社も合併や吸収合併が相次ぐ

東京・丸の内の三菱商事本社
東京・丸の内の三菱商事本社

   鉄鋼、機械、化学、繊維、医薬品、食品など特定分野に特化した専門商社も「冬の時代」を迎えて久しい。このため、合併や吸収合併が相次いでいる。
   2000年4月には、食品分野などに強みを持つ中堅商社の加商が、トヨタ自動車グループの商社である豊田通商に吸収合併された。医薬品分野ではクラヤ薬品、三星堂、東京医薬品の3社が合併してクラヤ三星堂になった。2002年にはクラヤ三星堂の誕生に危機感を募らせるライバルのスズケンが、オオモリ薬品と合併した。医薬品商社であるアズウェル(現在はアルフレッサ)、バイタルネットなども合併を繰り返している。
   今後は外資やベンチャー企業の参入で、業界の再編がさらに加速する可能性がある。
   保有する不動産や株式の損失が膨らんだ総合商社であるトーメンは2002年12月に、トヨタ自動車グループの商社である豊田通商との経営統合を前提とする再建計画を発表した。経営統合は2006年に実現する見込みだ。「トヨタ商事」誕生への大きな一歩と見るべきだろう。

歴史

総合商社は、日本だけに見られる特異な企業形態だ

   商社には幅広い分野の商品を手がける総合商社と、特定の分野に限定して、その分野の商品だけを取り扱う専門商社とに大別される。
   総合商社には、旧・財閥グループの商事部門が分離・独立してできた会社や、最初は繊維商社などの専門商社としてスタートし、やがて次第に取り扱い分野が拡大して、総合商社へと発展していった会社が含まれる。前者には三菱商事、三井物産、住友商事などであり、後者は伊藤忠商事、丸紅などだ。
   総合商社は、日本だけに見られる特異な企業形態だ。総合商社は、世界中から仕入れた原料や技術を鉄鋼や化学などの製造会社に提供し、その提供先が製造した製品を、今度は国内や海外の市場で売りさばく役割を担ってきた。日本経済の高成長の牽引役だった。
   世界の隅々まで営業拠点や情報拠点を持ち、巨額の資金、膨大な情報を武器に、利益が期待できそうなビジネスであれば何でも手がけてきた。石油や希少資源などの資源開発からバイオ、IT など、幅広い分野に進出する活力を持っている。

日本の輸出貿易急増国 2003年 日本の輸入貿易急増国 2003年

「ラーメンからミサイルまで」の総花経営が足を引っ張る

   総合商社の機能としては、次のようなものが挙げられる。
   貿易などの取引機能、保管などの在庫機能、情報収集などの情報機能、資金提供などの金融機能、マーケティング機能、オーガナイザー機能などだ。このため、メーカーや小売業者との関係においても、単に商品を右から左へ流す卸売り業者としての役割だけでなく、ビジネスに関連する情報を提供したり、いろんなビジネス上の提案を行ったり、連帯保証人になったりして、様々な面でビジネス・パートナーとしての役割を果たしている。

JR東京駅北側に建設された多目的複合商業施設の「丸の内オアゾ」 (エスペラント語でオアシスの意味)
JR東京駅北側に建設された多目的複合商業施設の「丸の内オアゾ」 (エスペラント語でオアシスの意味)

   日本経済が高成長を実現している時代は、「ラーメンからミサイルまで」を取り扱う総花経営が総合商社の強みと言われた。1990年代のデフレ経済下では、その強みであった総花経営が逆に足を引っ張る皮肉な結果となってしまった。総合商社は、これまで述べてきたように取り扱い品目が膨大な数に上るため、銀行からの借り入れを中心に巨額の有利子負債を抱えることになり、それがデフレ不況の中で大きな負担となってきたのだ。

インターネットで取引など「商社離れ」が広がる

   また小売業の中には商社を経由せず、メーカーから直接製品を仕入れるケースや、企業同士が商社を経由せずにインターネットで取引するケースが広がりを見せつつある。商社の役割が急速に低下し、商社はもはや必要ではない、という意見も聞かれるようになった。
   そこで総合商社は「選択と集中」を合言葉に、事業を再構築せざるを得なくなった。
   総合商社といえば、90年代半ばまでは三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事、丸紅、日商岩井、トーメン、ニチメン、兼松の9社を指していた。
   ところが、このうち兼松は不採算部門を切り離し、半導体などを専門に取り扱う専門商社として再出発を図ることになった。日商岩井とニチメンは03年4月にニチメン・日商岩井ホールディングス(現・双日ホールディングス)を設立して事業統合を行い、現在はメインバンクのUFJ銀行の支援で再建中だ。トーメンはメインバンクのUFJから2度の債務免除を受けた後、トヨタグループから追加支援を受けて、将来はトヨタグループの豊田通商との統合を目指している。

将来を展望するための3つのポイント

ポイント1
生き残れる総合商社はどこなのか

   総合商社の部門間の統合はこれからも進むことになろう。これまでは鉄鋼、金属などの素材や情報分野が先行したが、今後は流通やサービス分野で活発な統合を模索する動きが強まることになろう。そうした中で最終的に生き残れる商社はどこか。この点に、業界関係者の関心が集まるのも当然と言えば当然だ。

日本の商品別貿易 2003年

   現時点で、三菱商事と三井物産の2社は別格だ。伊藤忠商事は、丸紅と鉄鋼製品事業を統合し、住友商事とは生鮮食品の流通システムで提携している。流通戦略にも意欲的で、ファミリーマート買収によって川下産業への布石を打ち、旧セゾングループでは牛丼の吉野家ディー・アンド・シー西武百貨店に資本出資している。総合商社の残された“3番目の指定席”を求めて、伊藤忠商事の必死の生き残り戦略が業界再編の大きな目玉になろう。

ポイント2
「取りまとめ機能」をどれだけ発揮できるか

   日本経済において統合商社の地位の低下はさらに続くことになろう。それに歯止めをかける切り札として期待されているのが、オーガナイザー(取りまとめ)機能だ。これは、市場開拓、資源開発、情報提供、資金調達、人材提供、リスクマネジメント、法務アドバイスなど、新規事業の発掘や立ち上げに必要な知識や経験を総動員して、付加価値を生み出す能力を指す。

日本最大の広告代理店、電通本社(東京・汐留)"
日本最大の広告代理店、電通本社(東京・汐留)

   たとえば、ITやバイオなど最先端のハイテク分野、あるいは伝統的な流通分野でもスーパーやコンビニをどのように支援して、競争に打ち勝てるようにしていくのか。これまでの企業相手ではなく、一般の消費者相手にしたソフト面でのビジネスモデルをいかに確立できるか。あるいは、成長著しい中国市場において、欧米のライバル企業に負けないように橋頭堡を築くことができるのか。こうした成長戦略のカギをにぎるのは、総合商社独自のオーガナイズ機能をどのように発揮できるかにかかっている。こうしたオーガナーザー機能で力を発揮できるのは、三菱商事や三井物産など大手の一角に限られるとの見方が強い。

ポイント3
専門商社は外資との提携で活路を見出せるか

   国内の商社同士による合併で生き残りを図ろうとする動きがある一方で、専門商社の中では外資との提携や代理店契約で活路を見出そうという動きも広がりつつある。
   専門商社の東陽テクニカは第3世代携帯電話用の測定器メーカー、米国ディリシアム・ネットワークスが日本進出するのに伴い、独占代理店契約を結び販売活動を開始した。取り扱い測定器は、第3世代携帯電話の画像や音声データの送受信状況を調べる装置で、海外の携帯電話からかけられた通話データが正確に送受信できるかを測定する装置だ。第3世代携帯電話サービスが世界で普及する点に着目し、他社を一歩リードする狙いだ。
   こうした外資との提携事例はこれから大きく増えていくはずだ。

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