2024年 4月 23日 (火)

「学歴は儲からない」 だから誰も勉強しなくなる
兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科助教授
中野雅至氏インタビュー(2)

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「学歴社会が崩壊したとき、日本人は『学ぶ』ことを放棄してしまう」と、「高学歴ノーリターン」の著者・中野雅至氏は憂う。米国流の投資社会、「拝金主義」の社会に日本が陥ったことは、ホリエモンや村上ファンドをみれば明らかだ。学歴と金儲けのミスマッチからくる閉塞感が漂うなかで、「学歴社会の行く末」を聞いた。

中野雅至・兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科助教授
中野雅至・兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科助教授

――一流大学卒が負け続ける「ギャンブル社会」とは、どんな社会でしょうか。

中野 『金儲け』が支配的な価値観にある社会では、東大を卒業して官僚や一流企業に就職しても、所得が低いので評価されません。つまり、彼らは報われないのです。そうなると、『ひと儲けしてみよう』と、金儲けのために起業する高学歴者が増えてきます。しかし、必ずしもそういった人が事業に成功するか、というとそうではありません。むしろ高卒や二流、三流の大卒経営者のほうが日本にはたくさんいますから、『学歴と金儲け』がまったく関係ないことに気づくことになります。起業に失敗した東大卒は深い挫折感と恐怖感を味わうことになり、学歴がまったく通用しないことに虚無感を抱きます。人は報われないとわかっている努力はしません。いまの日本はすでに、『すべてはおカネ』という風潮になりつつありますから、『学歴では儲からない』とわかったときから誰も勉強しなくなるのです。もちろん、そうなると子供までもが学歴を疑いだし、勉強しません。結果的に、誰もが努力することを放棄して一攫千金を求め、学歴に関係なく、運のいい人が勝つ社会になるのです。

――米国ではそれがうまくいっている?

中野 米国では、ちょっと妄想じみてはいるけれど、誰もが成功者になれると思っています。誰にもチャンスはあると。しかし、それは見せ方が上手なのです。米国は実学志向が強いですが、たとえばMBA(経営学修士)の資格者は相応の報酬を得ることができます。ところが、それはMBAの資格をもつ人がみんなで、その価値を維持していこう、高めていこうとしているのです。

――日本では社会に出て役に立つのは学歴ではなくて「人脈」との考えもあります。

中野 日本では、米国流の『儲けた人が勝ち』という価値観は理解しにくいと思います。それは、どのようすればそうなるのか、よくわからないからです。たとえば、フランスには料理人にも『一流』といわれる人がいます。どうすれば、その道で一流になれるのか、があらかじめわかるようになっています。ところが、日本ではトヨタに入るのに何が必要なのか、がわからない。だから、とりあえず学歴を身につけておこうという。しかし社会に出ると、実は学歴は役に立たない。出世するには学歴が必要なのか、その人の実力なのかも、よくわからないんです。そうなると、大事なのはコネクション(人脈)になる。卒業生や同窓生のつながりを大事にする。しかし、実はここも米国のほうがもっと強く、つながりを大事にしています。わたしは人脈が重視されることで、学歴の価値が高まればよいと考えています。

――揺り戻しがあって、「学歴」が再び重視される時期はくるのでしょうか。

中野 日本の構造改革のよくないところは、明確な揺り戻しが起こらない、反転しないところです。たとえば小さな政府を目指しているのはいいが、いつになればそれが実感できるのか。ソフトランディングの悪いところです。たとえば、日本は不況のあいだ多くの企業が倒産しましたが、それらは経営の失敗なのに、『従業員が働かないから』といったような批判があります。しかし、従業員がそのことに怒りません。ジワジワと苦しくなるから実感が湧かないんですね。慣れてしまう。最近、ようやく『ワーキング・プア』という言葉が出てきましたが、これが潮目が変わるきっかけになればと思います。

――基礎学力の低下が懸念されています。「学歴」はどうあるべきなのでしょう。

中野 『公』の教育レベルの維持は、ますますむずかしくなっています。フリーターやニートも、最初からそうなろうと思ったわけではなく、結果として何が『できる』のかがわからなかったわけです。しかも、そういう人のほうが多い。もはや学歴は豊かな生活を保障する切符ではないことは明確です。そこで大切なのは、大学あるいは大学院を卒業したり、資格を得ることでキャリアが拓けて、知的プロフェッショナルとして活躍するためのマーケットが見えてくることです。つまり、必要なのは『道しるべ』なのです。学歴が羅針盤の役割を果たし、プロフェッショナルが報われる社会をつくることです。そのために、もっと学歴を重視したほうがいいと考えます。たとえば米国では、わたしが通ったミシガン大学でも、ミュージカルを学ぶ学科がありました。日本にも音楽大学や芸術大学はありますが、それらは才能がある人のための学校です。そうではない、漫画とか観光とか、才能がある人のための芸術学校ではない学校教育の場を設けて、キャリアとリンケージすれば、もっと社会は変わるはずです。

【中野雅至氏プロフィール】
1964年奈良県大和郡山市生まれ。同志社大学文学部英文学科卒業後、90(平成2)年旧労働省入省。人事院長期在外研究員制度でThe School of Public Policy, The University of Michiganに留学、公共政策修士。労働省職業安定局高齢・障害者対策部企画課総括係長、厚生省生活衛生局指導課課長補佐(法令担当)を経て、2000(平成12)年から3年間新潟県総合政策部情報政策課長。厚生労働省大臣官房国際課課長補佐(ILO条約担当)を経て、04(平成16)年4月から現職。経済学博士。
主な著書に「間違いだらけの公務員制度改革」(日本経済新聞社)、「格差社会の結末」(ソフトバンククリエイティブ)、「ローカルIT革命と地方自治体」(日本評論社)、「高学歴ノーリターン」(光文社ペーパーバックス)、「はめられた公務員」(光文社ペーパーバックス)、「投稿論文でキャリアを売り込め」(日経BP社)がある。

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