2024年 5月 1日 (水)

IP通信網で相次ぐ障害 意外なもろさが露呈

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   電話網から、インターネットの技術を利用したIP(インターネット・プロトコル)通信網への移行が急速に進むさなか、IP網では相次ぐ障害の発生、障害の広域化、復旧までの時間の長期化など――意外な「もろさ」が浮き彫りになっている。IP網が電話網に代わる社会インフラになるには、安全性と信頼性の向上が欠かせない。

   2007年5月15日と5月23日には、NTTグループのIP網で被害件数が数百万件にのぼる大規模障害が発生した。総務省は5月24日、NTT東西とNTTエムイーの3社にネットワークの事故・障害対策を総点検するよう文書で行政指導した。

ルーター1台のトラブルがネットで短時間に波及

NTT東日本管内のルーターから障害が波及した
NTT東日本管内のルーターから障害が波及した

   5月15日の障害は、NTT東日本管内のルーター1台にトラブルが起き、これがネットワークであっという間に広がり、光IP電話「ひかり電話」やネット接続サービス「フレッツ」の計239万件が約7時間不通となった。また5月23日午前には、NTT東西間のIP網をつなぐ機器で不具合が生じ、「ひかり電話」の東西間の通話(計316万件)が不通となった。

   国内のIP電話利用者数は、04年3月末の527万6000件から、07年3月末には1433万1000件に増えた。一方で、通信網のトラブルの件数は04年度の20件から05年度70件、06年度80件と急増した。このうちには影響数が100万件を超え、復旧までに数10時間かかるものがあって、障害の「広域化」「長期化」が顕著だ。

   電話は100年以上の歴史を持つ技術で、NTTなどの電話会社が交換機の開発の主導権を握ってきたため、運営や復旧のノウハウが電話会社に蓄積されている。これに対してIP網を支えているルーターなどの機器は、電話会社以外のメーカー主導で開発され、技術は今も日々進化している。しかも、ソフトの比重が高く、「バグ(プログラムの不具合や誤り)」による事故の危険性が増しているにもかかわらず、機器の内部は、電話会社には手が出せない「ブラックボックス」の要素が多い。

ネットは災害に強いはずだったが

   電話網の障害は、大地震などの大規模災害でも起きない限り、比較的小規模にとどまったのに対し、IP網の障害が広域化しやすいのは、ネットワークの構造の違いも大きい。

   電話網は基幹網から徐々に枝分かれして各世帯の電話機につながる「階層型」だが、IP網は各世帯のコンピューター同士が「くもの巣」のようにさまざまな経路でつながっているネットワークだ。

   電話網では、ある局舎の管内の電話線で生じたトラブルは、階層の上部への影響を簡単に遮断できるため、他の局舎の管内には影響を与えない。

   これに対し、クモの巣状のネットワークで情報をやり取りするIP網では、一つの機器の不具合がネットワーク上広範囲に短時間で波及する可能性がある。

   もっとも、これまでは、IP網のクモの巣状の構造は、ある経路で障害が起きても、迂回路で情報を届けられる「分散性」と「リダンダンシー(冗長性)」ゆえに、災害時にも強いとされていた。実際、阪神・淡路大震災時に、被災地と外部の情報伝達で活躍した。

   だが、5月15日の障害では、不具合の生じた場所を迂回させようとした際に、誤った情報が発信されたために引き起こされた。5月23日の障害では、一つの機器で情報を集中管理していて、バックアップ体制が十分機能していなかった。

   いずれも分散化の技術が未熟だったのが原因で、今後の改善の上で大きな教訓を残した。これらの教訓を活かしながら、分散化の利点を最大限に発揮できるような技術開発が求められている。

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