2024年 4月 20日 (土)

ウィキペディア「信憑性に疑問」 教科書会社が使用中止検討明かす

   高校の英語教科書にウィキペディア出典の図を使う予定だった出版社が、J-CASTニュースの取材に、出典先を変えることを検討していることを明らかにした。誰でも編集でき正確さが保証されないウィキペディアについて、生徒にその信憑性が誤解されかねないことから判断したという。

文部科学省は出典として認める

「死刑制度の世界地図」が載っているウィキペディアの項目
「死刑制度の世界地図」が載っているウィキペディアの項目

   教科書を編集したのは、大阪市の出版社「増進堂」で、2009年度からの使用を目指し、文部科学省に検定を申請した。同省は08年3月25日、ウィキペディアの「死刑」項目にある「死刑制度の世界地図」の教科書掲載について、「国境線が不正確」との検定意見を付けた。しかし、ウィキペディアからの出典そのものについては認めた。同省教科書課では、その理由について、J-CASTニュースの取材に対し、「英語のリーディング教材で、資料そのものを学習するのではない。また、内容についても(人権団体の)アムネスティ・インターナショナルで確認している」と説明した。この世界地図では、死刑制度のある国や廃止した国などが色分けされている。

   ところが、毎日新聞が26日付記事で、ウィキペディアの出典について「安易な引用」との指摘があるとして、「文科省の判断が議論を呼びそうだ」と報じた。また、産経新聞は、25日のネットニュースで、「ウィキペディアは最新情報が豊富な半面、正確性については『一切保証できない』とされている」と紹介した(記事はその後削除)。

   千葉大の藤川大祐准教授(教育方法学)は、こう語る。

「教育現場では、情報を鵜呑みにしたり、コピー・アンド・ペーストでリポートを書いたりすることが問題になっています。ウィキペディアの図を慎重に見るようにという注釈抜きに載せるのであれば、ネット上の情報を安易に使ってもいいという誤ったメッセージになります」

「活用した方がいい」という専門家も

   そこで、J-CASTニュースでは、教科書に載ることでウィキペディアの信頼性について生徒に誤解を与えないかどうか、増進堂側に聞いた。

   これに対し、同社教科書課では、ウィキペディアの出典を止めることも検討していることを明らかにしたのだ。担当者は、「現場の先生が図を見たとき、信憑性が問題になる可能性があります。止めるかどうかは、文科省の意見とは別に、出版社の良識で判断します」と話している。出典中止の場合、「図そのものを外すと内容が変わって文科省が許可しない可能性があるため、参考資料を挙げながらもうち独自のものを作りたい」という。

   ただ、確認先が死刑廃止を唱える一NGOのアムネスティだけで偏らないのか。

   これに対し、増進堂教科書課では、「アムネスティの情報リストは、一番正確で詳しいと判断しました。(偏りの可能性については)そのときは考えませんでしたが、今後は検討します。確認先もいくつか示すことを考えており、さらに研究して正確なものにしたい」と話す。

   一方、英語という教科からウィキペディアを柔軟に使えばよいと考えるのが、 前出の藤川准教授だ。

「批判的に情報の裏を取るのは必要だと思いますが、私はウィキペディアを基本的に活用した方がいいと思っています。インターネットの英語を読むという点でウィキペディアが出てくることに問題はありません。一般論としては、死刑のような意見対立のある問題はバランスを持って扱うべきですが、例えば、一つの資料を示して他のことは調べさせるという文脈であれば、特に両論併記する必要はないでしょう」
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