2024年 4月 19日 (金)

日本は守備型執着やめ 勇気持って攻撃的パスサッカーを
木崎伸也さんに聞く「日本サッカーの未来」/創刊4周年記念インタビュー第2回

   2010年のサッカーワールドカップで日本がベスト16に進出し、だれもが日本サッカー界の歴史が塗り替わったことに興奮した。日本は変わったのだろうか。そして未来を見出せたのだろうか――。スポーツジャーナリストの木崎伸也さんに聞いた。

――世界は日本をどう評価したのでしょうか。

木崎 カメルーン戦、オランダ戦、パラグアイ戦はさっぱりでした。例えば、カメルーン戦におけるドイツの実況は、「ひどい内容」「ミスだらけ」「アイデアがない」と厳しい調子でした。守備ばかりに徹し、臆病なサッカーだったからです。

岡田監督が採用したのは弱者の戦術だった

日本サッカーの未来を語る木崎伸也さん
日本サッカーの未来を語る木崎伸也さん
   ところがデンマーク戦だけは違います。スペインの解説者は「日本は良いプレーをしている。ブラジルのようだ」と絶賛し、ブラジル紙は「サッカーの国になった」とたたえています。デンマーク戦は積極的な攻めが指示され、選手は前へ前へと攻め上がり、自分の良さを出そうとプレーしていました。

――ほめられたのはデンマーク戦だけだったのですね。

木崎 岡田武史監督がとった戦法は、守備を固め、相手のミスを待つカウンター狙いでした。いわば弱者の戦い方です。直前の親善試合で負けが続き、それでもW杯を勝ち抜くため、本来目指していたパスをつなぐ攻撃的なサッカーから失点しないことを重視する守備サッカーへ切り替えました。
   大会の1か月前に戦術を変えるのは非常に稀です。準備期間は短かったし、ふつうはうまくいきませんが、今大会は非常に守備が機能していました。これは選手たちがJリーグで鍛えられているから。ふだんから守備の組織を意識し、緻密な戦術に取り組んできた成果です。Jリーグのレベルがあがっていたと感じました。

――日本の戦いぶりをどう見ましたか。

木崎 守備の対応力には目を見張るものがありましたが、攻撃の組織には課題が残ったと思います。14年前、アトランタ五輪のグループリーグ初戦で日本がブラジルを倒した試合(=マイアミの奇跡)がありました。実はこの時も、守りを固め、相手のミスを待つサッカーでした。
   だから、14年前にもできた戦い方を今回も繰り返したと思うと、正直なところ、14年間の日本の積み重ねはなんだったのか、とも思いました。欲を言えば、もう少しいいサッカーができたのではないか、と。現地で会った日本サッカーの関係者の中にも少なからず、日本サッカーはもっとできるはずなのにもったいない、といった悔しい声は聞いています。

将来は世界のスタンダードがパスサッカーになる

――日本が今後、W杯ベスト16以上を目指すにはどうすべきでしょうか。

木崎 オランダ出身の指導者フース・ヒディンク監督や現在はスペインリーグで指揮を執るジョゼ・モウリーニョ監督に代表される、勝つ確率を高める戦術志向のサッカーを目指すべきだと思います。実現するにはまず、明確なビジョンを持つべきです。どうやって勝ちたいかを考える。守備固めのカウンター戦術はたしかに、日本人向きと言えるかもしれませんが、私は、優勝国のスペインが見せた攻撃的なパスサッカーに挑戦していくべきだと思います。

――日本の長所を生かし、カウンターサッカーを極める戦略もあるのでは。

木崎 世界のトップクラスの国はパスサッカーを志向しています。優勝国のスペインをはじめ、今大会ではドイツ、オランダが同様の戦い方をしました。将来的には世界のスタンダードがパスサッカーになるのは間違いないのに、日本が守備型に執着するのは、長い目で見てよくない。日本は攻撃面でももっと緻密にプレーできる可能性は十分あります。日本人的と言うべきか、監督の指示を、規律を守り、一生懸命にやろうとするところがある。難しい要求でもできるようになると思います。

――パスサッカーにはどんな技術が求められますか。

木崎 標準レベルのサッカーはボールをスペースに出し、選手が追いかけ、それを拾って攻めていきます。それよりも一段上のパスサッカーは、走っている選手の足下に「点」であわせていく。選手の動きに合わせた、正確なタイミングで出せるパスが必要。技術的にはスペインのイニエスタやシャビが見せたように、敵が近くにいようとも遠くを見ながら足下のボールを操れる視野の広さとボールキープ力、確実なパスを出せるテクニックが求められます。
   日本では今、遠藤保仁選手(ガンバ大阪)がそれに近いことができますし、長谷部誠選手(ウォルフスブルク)も意識次第ではできるはず。正確なパスを出せる選手が多ければ、ゲームをもっと緻密に展開できる。もっとも、前線でいい動きをしてパスを受ける選手も必要です。パスを狙っても、マークを外せる選手がいなければ意味がないからです。チームとしての課題にもなるでしょう。

本田選手は本来プレーしているトップ下の方が生かせる

――FWはどんな選手がいいでしょうか。

木崎 FWはメンタリティーにも関わる非常に難しいポジションです。一般的に心拍数が上がるとキックの正確性は落ちると言われています。また、足の振りが骨格、筋力により生理学的に優れている人もいます。度胸という言葉になるのかもしれませんが、プレッシャーのない場面で正確に打てる選手は多いことを考えれば、才能と言える部分があります。
   訓練によって育てていくこともできるかもしれませんが、限界もあるでしょう。たとえば自信がなくて心拍数が上がるのなら、技術を高めればよい。でも、ゴール前のコンマ何秒の世界で力を発揮するには、FW向きだと思う選手を前線で使ったり、FWは専門職だと理解して、探し出したりすることも必要ではないでしょうか。

――今大会同様、本田圭佑選手(CSKAモスクワ)をFWにするのはどうでしょうか。

木崎 本田選手のワントップが急造にも関わらず機能したのは、ボールキープ力が優れていたからです。ぶつかってもびくともしないたくましい骨格、筋力を持ち、チャンスにおける冷静さと判断力、シュートの正確さは、結果としてFW向きでした。彼は本来、ボールを受けてからのアイデアが豊富で、攻撃にメリハリをつけられる持ち味がある。攻撃に転じる時に一瞬の判断ができるのが魅力です。本田選手は本来プレーしているトップ下の方が生かせるのではないかと思っています。

――日本サッカーに期待することは。

木崎 今大会を客観的に振り返ると、勇気が感じられなかったと言えると思います。元日本代表で解説者の風間八宏さんは「サッカーは何をしなければいけないのではなく、何をやりたいのか」だとよく言っていますが、今大会ではデンマーク戦が唯一、「やりたいこと」を示せたと思います。義務感にかられたサッカーではなかったから、評価され、心に響き、結果にもつながりました。
   また、世界は日本がいいプレーをすれば絶賛し、ダメなプレーには厳しかったように、W杯で世界中の人は、この国はどんなサッカーをするのか、を楽しみにしています。さらに上のレベルに行くために、4年は短いのかもしれませんがビジョンを持って準備をするとともに、晴れの舞台では勇気をもったプレーをしてほしいと思います。

【プロフィール】
木崎伸也(きざき・しんや)
1975年生まれ、東京都出身。金子達人主宰のスポーツライター塾を経て、2002年日韓ワールドカップ後、スポーツ紙の通信員としてオランダに移住。2003年からはドイツに拠点を移し、2006年ドイツW杯では現地在住のスポーツライターとして記事を配信した。著書に『2010年南アフリカW杯が危ない!』(角川SSC新書)、『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、近著『世界は日本サッカーをどう報じたか「日本がサッカーの国になった日」』(ベスト新書)も好評。

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