2024年 4月 29日 (月)

米国「新聞の危機」下
多角化した事業の稼ぎが新聞支える ワシントン・ポスト

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   本業に専心するニューヨーク・タイムズと対照的に、ワシントン・ポストは、事業の多角化で経営基盤を固め、新聞部門が不振になっても支えられる企業体質を備えている。実際、2008年と09年に2年連続で新聞が赤字に陥った際にも、親会社であるワシントン・ポストカンパニーは黒字を維持した。教育事業のカプランが総利益の6割以上を稼ぎ出すからだ。その他、ケーブルTVやテレビ局も傘下に抱え、それぞれが黒字経営になっている。

   影響力という意味でも、ニューヨーク・タイムズの宿命のライバルがワシントン・ポストだ。首都ワシントンの地方紙(発行部数は平日版で約55万部)なのだが、議会やホワイトハウスのお膝元ということで国政関連の報道がワシントン・ポストの看板になっている。それでも70年代までは読者の大半はワ シントンやその近郊に住む人たちに限られていた。

「投資の神様」ウォーレン・バフェット氏に学ぶ

   同紙が超一流のエリート紙へと飛躍したのは、ウォーターゲート事件(1972-74年)がきっかけだった。米民主党本部に盗聴器を設置しようとした疑いで5人組が逮捕された事件を、「メトロ」と呼ばれる社会部の記者二人が執拗に取材し、最終的にホワイトハウスの関与を暴いた。その結果、ニクソン 大統領(当時)は辞任に追い込まれ、権力の「お目付け役」としてのマスコミの金字塔ともいえる世紀の大スクープになった。もちろんワシントン・ポストは米国内だけでなく世界的にも超一流の新聞という評価をうけたが、「偉大な地元紙」という方針に変更はなかった。

   ワシントン・ポストの経営は極めてユニークである。ワシントン・ポストカンパニーのドナルド・グラハム会長兼最高経営責任者(CEO)は、30代のときに「投資の神様」と称されるウォーレン・バフェット氏から経営学の個人教授を受け、トップになってからも「重要な案件ではバフェット氏に相談する のが常だ」と語る。

   グラハム氏の母親キャサリン・グラハム会長(01年に死去)は、ワシントンで最も影響力のある女性として知られていたが、その経営の指南役になっていたのがバフェット氏であった。同氏はワシントン・ポストカンパニーの大株主かつ取締役会の重鎮でもあったので、跡継ぎグラハム氏の家庭教師役を 買って出たわけだ。

報道は慈善事業ではなく、あくまで営利事業だ

   グラハム親子に共通する企業哲学は、報道は慈善事業ではなく、あくまで営利事業でなければならないということだ。そのために新聞が好調な時期に余剰資金をM&Aに力を注ぎ、現在の多角化した事業形態を築き上げたわけだ。カプランは84年に買収したが、90年代後半に大規模な投資を実行し、その効 果が表面化したのは00年以降である。

   現在、ワシントン・ポストの新聞部門を仕切っているのは会長の姪にあたるキャサリン・ワイマス氏である。思い切ったリストラや人事で経営者としての手腕を発揮しているが、新聞不振の即効薬はないと主張する。プラットフォーム・アグノスチズムを含めて試行錯誤する以外に方法はないということなのだろう。その意味で、ワシントン・ポストカンパニーという優良企業を親会社にもつワシントン・ポスト紙は、他紙よりも恵まれている。じっくり腰をすえて21 世紀の報道のあり方を追求できるからだ。

   「新聞業界のアマゾンはまだ出現していない」とグラハム会長は語る。それだけにワシントン・ポストにもチャンスがあるわけだ。「わが社にはワシントン・ポストに関連して特別なミッションがある。ワシントン・ポストが卓越した新聞であり続けることです。そのためにポストはビジネスとして成立しなければならない。母もそう思ったし、私も確信している。利益を出さなければ駄目だ。そうすれば記者や編集者を雇える金が出てくる」と同会長は筆者に語った。

(在米ジャーナリスト 石川 幸憲)

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