2024年 4月 18日 (木)

電子書籍はいまだに「マイナー」 アマゾンは「黒船」ではない
野村総合研究所上級コンサルタント・前原孝章氏に聞く

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「端末販売ビジネス」に走れば利害がぶつかる恐れ

――とは言え、米国で電子書籍事業を成功させているアマゾンのインパクトは大きいと思います。紙版より安価で、充実したラインアップを期待する人は多いのではないでしょうか。

前原 アマゾンの参入などにより電子書籍市場拡大の期待が高まっていることもあり、今後新たに刊行される書籍は、紙版と同時に電子版が発行されるケースが増えるでしょう。旧刊本は、米国でも事情は同じですが、出版社側でどこまでを電子化するかは議論があるところです。例えば、既に誰も使っていない十数年前のパソコンソフトのマニュアル本を電子化する意味があるでしょうか。つまり、ある程度の需要が見込めないと電子書籍にしないという判断が出てくると思います。
   価格に関して米出版社の人に話を聞きましたが、米国の出版社の間でも価格の付け方に関しては、試行錯誤が続いているようです。安くすれば売れる本もあれば、コアなファンがついているような書籍においては、電子書籍と動画を組み合わせて「付加価値」を上げ、高めの値段設定をするケースもあります。どのような値付けにすれば売れるのかということを見極めるノウハウを、これから蓄積していく必要があると考えます。
   「アマゾンが来たから値段が安くなる」というような議論には少々違和感を覚えます。アマゾンの参入以前から、売れている作品も含めて、コミックの1巻を無料にしたり、紙の本よりも安く提供したりするなど、値下げを実行しているストアはありました。
   しかし、問題はその事実が消費者に届いていない点です。認知度が低く、利用者が3%しかいない状況で値下げをしても、あまり効果はありません。大勢の顧客が日常的に電子書籍ストアに訪れる環境が整ったときに、真の値下げ効果が現れるのです。また、品ぞろえが少ない状況でやみくもに値下げを行うだけでは、関心を引かないばかりか、そのサービスがずっと続くかどうか懸念される恐れもあります。電子書籍ストアは今、「消費者が欲しい本が買える」「ずっと続くサービスである」という点を消費者に示すことが重要でしょう。

――では国内出版社にとってアマゾンは、どんな存在となるのでしょうか。

前原 「電子書籍を売る」という点では、アマゾンも出版社も方向性が共通しています。ただ、アマゾンが「キンドル」端末を一気に普及させるために電子書籍を安売りするような「端末販売ビジネス」に走れば、利害がぶつかる恐れはあります。他社がアマゾンとの対抗上、同様のことを行う懸念も、出版社側にはあるでしょう。
   しかし、長期的なビジネスの継続を考えると、アマゾンと出版社サイドの双方にメリットがないと成り立ちません。キンドル発売時には、タブレットやスマホがなく、電子書籍を読める端末が電子書籍専用端末しかなかったことも併せて考えると、このような形にはなりにくいのではないかと思います。起爆剤になるという意味ではアマゾン登場のインパクトはありますが、強引に市場を開かせるような「黒船」という存在ではないと思います。
   繰り返しになりますが、アマゾンや楽天という大手が参入したことで、出版社の期待が高まることにより、コンテンツの充実が促されることや、結果としてより多くの消費者の関心をひきつけ、配信サービスの理解が進むきっかけになることが、現時点では最も大きな効果ではないでしょうか。
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