2024年 5月 3日 (金)

「自動車業界2013」BNPパリバ証券・杉本浩一氏に聞く(中)
 復活トヨタ、「世界一」に課題あり 「エポックメイキング・カー」をつくれるか

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   2013年のトヨタ自動車は、世界の自動車メーカーで初めての世界生産台数「1000万台」の快挙を視野に入れそうだ。

   2012年12月26日には、ダイハツ工業と日野自動車を含むトヨタグループの13年(1~12月)の世界生産台数を発表。12年見込み(992万台)と比べて微増の994万台とした。グループの13年の世界販売台数は、12年見込み比2%増の991万台とする計画だ。

   当初は12年の生産計画で1005万台を見込んでいたが、東日本大震災やタイの洪水被害の影響や、尖閣問題にきっかけとした大規模な反日デモによって、その目標が霞んできた。13年は、好調な北米や東南アジアでの生産能力を増強して、大目標の達成に向けて突っ走る。

   日本の自動車業界のリーダーでもある、好調なトヨタに課題があるとしたら、それはなんなのか――。BNPパリバ証券で自動車セクターを担当するシニアアナリスト、杉本浩一氏に聞いた。

「プリウス」が売れている

トヨタは「ブーム」をつくれるのか?(写真は、BNPパリバ証券の杉本浩一氏)
トヨタは「ブーム」をつくれるのか?(写真は、BNPパリバ証券の杉本浩一氏)

―― 2012年に世界販売台数で、トヨタは約970万台。11年に首位だった米ゼネラル・モーターズ(GM)と2位の独フォルクスワーゲン(VW)を抜いて首位に立ち、「世界一」に返り咲きます。

杉本 実現すれば、トヨタの首位は2年ぶりになります。トヨタは、12年上期は東日本大震災やタイの洪水被害の影響が残るなか、エコカー減税が追い風となったこともあって国内市場で好調でしたが、下期は反日デモが起きた中国での販売不振を受けて、従来の販売計画を見直すなど心配されました。それを海外市場での踏ん張りで、明るさを取り戻しました。
   ただ、一方のGMやVWも、主要市場の欧州地域が債務問題の深刻化で経済が低迷。トヨタより伸びが鈍化したこともあります。

―― トヨタの2013年3月期の連結業績予想は営業利益で前期比3倍増の1兆500億円と好調です。なぜでしょう。

杉本 やはり北米市場と東南アジアの販売増があります。それと経費削減に取り組みました。トヨタは2013年3月期の業績を上方修正しましたが、注目してほしいのは、未定としていた中間配当を1株当たり30円とし、前期の20円から増配したことにあります。これはトヨタの業績が回復基調に乗ったことを強く印象づけました。
   海外では北米市場が拡大していて、トヨタは現地工場の稼働率を高め、主力セダン「カムリ」や小型SUVの「RAV4」などの生産を増やすことにしています。また、高いシェアを握る東南アジアでは2013年にタイ工場の生産能力を67万台から76万台に増強。インドネシアも11万台から20万台に増やします。

王者に欠ける強烈な「個性」

トヨタのハイブリッドカー、「プリウス」は売れている。
トヨタのハイブリッドカー、「プリウス」は売れている。

―― トヨタの課題はなんでしょうか。

杉本 ひと言でいえば、ブームをつくれるクルマがないことです。

―― ハイブリッド(HV)カーの代表格である「プリウス」が売れていますが。

杉本 たしかに「プリウス」は売れていますし、HVでは小型車の「AQUA」も好調です。しかし、経営を大きく転換できるほどの、強烈な「個性」には至りませんでした。それは収益性が低かったためです。もちろん、円高の影響があることは否定しません。プリウスは日本で生産しているので、海外で売れても利益があまり出ませんでした。ブームをつくれそうで、つくれなかったのです。
   厳しい見方かもしれませんが、トヨタにはそれほど大きな期待がかかっているという表れでもあります。

―― ブームをつくれるクルマとは、どんなクルマなのでしょう。

杉本 たとえば、90年代に一世を風靡したホンダの「オデッセイ」は、ホンダの危機的状況を立て直しました。いまではめずらしくありませんが、当時ワンボックスタイプの乗用車は「こんなに(車両が)大きく、1台300万円もするクルマが売れるの」、といわれたほどです。ところが、それが爆発的に売れました。
   日産の小型SUV、「ROGUE(ローグ)」(2007年9月北米発売)もその一つでしょう。当初は欧州で火がつきましたが、それが北米でも人気となり、さらに国内でも「キモかわいい」と評判になってヒットしました。小型SUVの先がけ的な存在といえます。

―― そのクラスには、トヨタも「RAV4」があります。

杉本 初代RAV4は日本でいう「5ナンバー」サイズに収まるコンパクトなSUVだったのですが、北米市場ではモデルチェンジのたびにボディサイズが大きくなり、2代目以降は日本の「3ナンバー」サイズになってしまいました。
   いまでは小型SUVというカテゴリーが認知されたことで、RAV4も欧州全域や北米、中国・東南アジアなど世界200か国以上で販売する世界戦略車として販売を伸ばしていますが、「ローグ」にあたるクラスでは出遅れ感が否めません。
   いわば、日産は小型SUVという「すき間」を見つけ、これが的中したわけです。残念ながら、トヨタにはそういったエポックメイキングなクルマがないんです。

杉本 浩一(シニアアナリスト)

すぎもと・こういち 京都大学を卒業後、1994年に野村総合研究所に入社。自動車部品、米国自動車、自動車各セクターを野村證券金融経済研究所、米国野村證券などで担当する。その後2006年にメリルリンチ日本証券の自動車担当のディレクター・シニアアナリストとして勤務。2011年5月にBNPパリバ証券入社。自動車アナリストの経験は通算17年を超える。

投資情報のInstitutional Investors誌ランキングでは、自動車部品部門で1999年と2000年に1位。自動車部門2011年4位。


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