2024年 5月 4日 (土)

年功序列賃金「見直し論」急浮上 安倍首相が提起、連合は反発

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   年齢とともに賃金が上がる「年功序列賃金」の見直し論が急浮上している。政府と経済界、労働界の代表が賃上げや労働環境などについて協議する「政労使会議」(2014年9月29日)で、安倍晋三首相が問題提起したもの。

   労働側は「年功序列だけを見て解消すべきだと言うのはちょっと乱暴だ」(連合の古賀伸明会長)と反発しており、来年の春闘に向け、賃上げとともに賃金体系見直しの議論がどう進むか、注目される。

日本型雇用システムの特徴

揺らぐ「日本型雇用システム」(画像はイメージ)
揺らぐ「日本型雇用システム」(画像はイメージ)

   「政労使会議」で安倍首相は、政府が強力に賃上げをプッシュした今年の春闘を自賛した上で、「労働生産性の向上を図り、企業収益を拡大させ、それを賃金上昇や雇用拡大につなげていくことが重要だ」と、賃上げの条件を整える必要を強調。特に、「子育て世代の処遇を改善するためにも、年功序列の賃金体系を見直し、労働生産性に見合った賃金体系に移行することが大切だ」と、年功賃金体系の見直しの検討を求めた。

   経団連の榊原定征会長は「当面の課題は企業収益の拡大を図り、来春の期末手当を含め賃上げができる環境づくりをすることだ」と指摘するにとどまった。

   一方、連合の古賀会長は「デフレ脱却には個人消費の喚起が不可欠だ。中小企業や非正規労働者の底上げがカギで、物価上昇に国民所得が追いついていない」と語り、賃上げを優先させるべきだと主張。会議後、記者団に「今の賃金体系は賃金や処遇に関し、労使で議論して決めたものだ」と、年功序列賃金見直し論に反論した。

   若い世代の給与水準を抑え、中高年以降に増やす年功賃金は終身雇用とともに日本型雇用の特徴となってきた。企業は新卒を一括採用して仕事を覚えさせ、長く働き続けるほど賃金を上げていく。これが、多額の退職金制度と相まって、会社への帰属意識を高め、教育コストをかけて育てた社員を流出させない終身雇用を形成してきた。労働者側にとっては、将来の生活設計を描けることから、配置転換や異動を受け入れてでも働き続ける誘因になってきた。

日立の新制度が話題に

   ところが、バブル崩壊の1990年代以後、新卒の採用を抑えた結果、中高年社員の比率が高まり、その「割高」な賃金が企業の負担になった。中高年狙い撃ちのリストラなどが広がるとともに、労働規制緩和で非正規社員を増やしたり、会社の業務の一部を外部に出すアウトソーシングも拡大したりするなどし、若者の非正社員化が拡大。特に、卒業時の景気が悪いと若者の正社員としての就職が難しくなることが社会問題化した。

   正規・非正規などの人員構成の問題だけでなく、グローバル化や技術革新が進む中で競争力を高めるために中途採用の必要が高まったという問題もある。年功賃金が、外国人を含め多様な人材を取り込む上で妨げになるという問題も意識されるようになったのだ。

   実際に、世界展開するグローバル企業を中心に、賃金体系の見直しは既に進んでいる。日立製作所が10月から、国内の課長相当職以上の管理職約1万1000人を対象に、年功の要素をなくし、管理職の等級を4段階から7段階に再編して成果を加味して賃金を決める新制度を導入したというニュースは記憶に新しいところ。他にも日産自動車はいち早く2000年度から課長級以上の管理職で、2004年度から一般社員で年功序列を廃止済み。ソニーは2015年度をめどに、全社員を対象に、年齢に関係なく、担当する仕事の内容で給与が決まる制度を導入する方針。パナソニックも10月から管理職を対象に、ポストに応じて給与が決まる制度に変更――といった具合だ。

景気対策と少子化対策がセットに

   こうした流れがあるとはいえ、安倍内閣はなぜ今、「年功見直し」をことさら取り上げるのか。

   根底には、今後の人口減少をにらんで、企業の生産性を上げ、成長力を高めることが不可欠という基本認識がある。これは中長期の課題ではあるとともに、来春の賃上げの条件整備になる。また、安倍首相が「子育て世代の処遇を改善するため」にも年功賃金見直しが必要との認識を示しているのは、賃金が貯蓄に向かいがちな高齢層から、お金が多く必要な子育て世代へ回るようにして、個人消費底上げという景気対策と、少子化対策の一石二鳥が狙いとされる。

   さらに、「昨年のように企業業績の急回復が期待できないため、賃上げ一辺倒では政労使会議の成果を打ち出せない。12月の報告に中長期の課題を書きこみたいのでは」(大手紙経済部デスク)という見方もある。

   成果重視の賃金体系には、①長時間労働を招く、②業績が悪化した時に賃下げしやすい――といった批判もついて回る。そもそも、どんな賃金体系をとるかは、企業ごとに労使で協議して決めるのが筋だ。それでも、グローバル化の時代に現行の仕組みが制度疲労を起こしているのも確かで、どのような雇用制度が望ましいか、政労使が議論することには意味がありそうだ。

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