2024年 4月 23日 (火)

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ
消費再増税「見送りのリスク」のウソ 「福祉・介護に支障」は単なる恫喝だ

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   最近、谷垣禎一・自民党幹事長などの政治家らから、「消費税増税見送りのリスク」という言葉がよく聞かれる。この表現はわかりにくい。政治家は言葉が命なのだが、何を言っているのか分からないようでは、国民から信頼されないだろう。そもそもリスクとは何か、具体的には何を言っているのだろうか。

   経済学では、しばしばリスクと不確実性を使い分けることが多い。リスクは過去のデータなどから予測可能である場合にリスク、さっぱり予測できない場合に不確実性という。

財政への信認が失われる?

   少なくともリスクという以上、ちょっと具体的に語ってもらいたいものだ。あまりに漠としていると、再増税しないと「酷い目に遭うぞ」という脅しにも聞こえてくる。さすがに、国会などで具体的なリスクの話がちらほら出始めた。

   黒田日銀総裁は、消費税の引き上げについて、「万が一先送りされ、確率は低いが財政への信認が失われれば対応が極めて困難」としている。

   財政の信認が失われると、国債金利の暴騰つまり国債暴落である。このとき、同時に通貨の信認も失われると考えたほうがいい。というのは、日銀は政府の「子会社」であるので、政府の信認が失われれば、その子会社の信認も失われるからだ。これはハイパーインフレとなるはずだ。しかし、黒田総裁は、同じ国会でハイパーインフレにはならないと発言している。これはおかしいだろう。

   財務省サイドからは、もっと具体的なリスクの話がでているようだ。テレビ報道によると、消費税増税を見送ると、社会保障の充実に使う予算が減少し、待機児童解消プラン、学童クラブ受け皿拡大、医療・介護予算や低所得の年金生活者への給付金に支障が出ると、財務省は安倍首相周辺に伝えたというのだ。

「最近の景気低迷は天候不順のせい、もウソだ」

   ちょっと予算を知っている者からみれば、まったく拙い言い訳で笑ってしまう。歳入に歳出が自動的にリンクするなら、財務省は無用である。

   この説明がもし本当なら、「消費増税しないなら、覚悟しておけ、予算をカットするぞ」という財務省の「恫喝」である。これに対して、政治家なら、「そのような無慈悲な案を作る官僚は要らない。予算案は国会議決で決まるのだから、政治家が判断する」と言えばいい。

   実際の手順としても、社会保障予算歳出額はそのままにして歳入は国債発行によって予算案を作り、後で景気回復による自然増収が出た段階で剰余金処理すればいいだけだ。筆者としては、財務省が報道にあるような稚拙な説明を首相周辺にしているとは、とても思えない。

   消費増税は、国際公約という従来の説明も、米財務省から増税先送りの発言(「財政再建ペースは慎重に」)が出てくるなど、わかりやすい形でウソがばれてきた。

   最近の景気低迷は、消費増税のためではなく天候不順のせいだというのも、素人目にもわかるウソだ。わけのわからない「消費税増税見送りのリスク」も上に書いたようにウソだ。

   ただし、消費増税についてはウソばかりなのに、軽減税率をあきらめきれない新聞が、その本当の姿を報道する記事は目にしない。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。


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