2024年 4月 29日 (月)

宇宙基本計画にも安保重視の 「安倍カラー」 軍事施設を監視する情報収集衛星の強化打ち出す

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   政府が新たな宇宙基本計画の素案をまとめた。パブリックコメントを経て2014年内に決定し、15年度からの実施を目指すが、ここでも「安倍カラー」を前面に出し、安全保障を重視しているのが最大の特徴で、賛否は分かれている。

   現行の宇宙基本計画は5年計画として13年1月に策定されたばかりだが、国家安全保障会議の発足や国家安全保障戦略の策定などを踏まえ、安倍晋三首相が9月、「政権の新たな安全保障政策を反映させるとともに、宇宙産業基盤を強化する」と、10年間の新計画作りを指示していた。

ミサイル発射の熱を感知する「早期警戒衛星」の研究も

「夢」を織り込めるか(画像はイメージ)
「夢」を織り込めるか(画像はイメージ)

   11月上旬に発表された素案は安保と産業育成を強く打ち出している。

   まず安保。「安全保障分野で宇宙を積極的に活用していくことが必要」とし、宇宙空間への進出を強める中国やミサイル開発を進める北朝鮮への対応を念頭に「日米宇宙協力の新しい時代」の到来を明記した。

   具体的には、軍事施設の動きを監視する事実上の偵察衛星である情報収集衛星の強化や、日本版GPS(全地球測位システム)である高精度の測位情報を地上へ送る準天頂衛星を、現在の4基から7基体制にすると記述したほか、ミサイル発射の熱を感知する「早期警戒衛星」の研究、不審船の監視なども挙げた。

   また、地球周辺に使用済み衛星やロケットの破片など10センチ以上のものが1万数千個浮遊しているとされるが、この「宇宙ごみ」について、監視情報の共有と施設整備を進めるとして、防衛省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)の連携強化も盛り込んだ。運用中の衛星に宇宙ごみが衝突して損傷させる懸念はもちろんだが、何より、中国が2007年に実施した衛星破壊実験を念頭に置いたもの。

   「衛星通信が使えなくなるなどで活動が制約されると影響が大きい」(防衛省筋)だけに、米国も神経をとがらせているとされる。見直し作業中の日米防衛協力の指針(ガイドライン)でも宇宙戦略での協力が重要な柱として盛り込まれる見通しといい、その流れで今回の素案に盛り込まれた。

宇宙探査衛星は今後10年間に8基打ち上げ

   産業育成については、企業が事業計画を立てやすい環境を整えるため、宇宙探査衛星は今後10年間に8基を打ち上げるとの計画を明示し、「いつ打ち上げるか一目で分かる工程表も作成する」。企業が独自に衛星などを打ち上げる際の賠償制度などを定める「宇宙活動法案」などを2016年の通常国会に提出することも打ち出した。さらに、ロケットや衛星などの輸出も増やし、官民の事業規模を10年間で現在の約1.6倍にあたる5兆円に引き上げることを目指すとした。これにより、現在、年3000億円程度で横ばい状態が続いてきた日本の宇宙機器産業の年間事業規模は、10年後に約7000億円になる。

   この産業育成も、現状の頭打ち状態のままでは安全保障に支障を生じかねないという安保上の要請が根底にある。

   マスコミ論調は、中国や北朝鮮の動向を踏まえて、読売が首相指示に先立つ8月22日の社説で「安全保障の強化へ改定を急げ」とハッパをかけた一方、素案発表後の社説で毎日が「あまりにも安全保障に偏りすぎていることに、危惧を抱かざるを得ない」(11月8日)、朝日も「宇宙政策を一気に安保主導に変えてしまうような計画には危うさがある」(11月18日)と批判、いつものように賛否が分かれている。

「宇宙は夢があるものだということを、もっと盛り込まないと」

   ただ、首相指示から2カ月ほどでまとめられただけに、全体に財務省と予算の折衝が終わらなかったために事業の実施時期など「調整中」の文字が多く並び、消化不良の感は否めない。

   また、学術研究の衰退を心配する声もある。短期間で安全保障への貢献や経済効果が見込めないような基礎科学が、先細りするのではないかという懸念で、11月12日の文部科学省の宇宙探査小委員会でも宇宙飛行士の向井千秋さんは「宇宙は夢があるものだということを、もっと盛り込まないといけない」と述べた。素案発表後の読売でも、「有人宇宙開発や惑星探査などの書きぶりは素っ気ない。一般の人々や若い世代を引きつける魅力に乏しいものになった」(11月12日朝刊)との厳しい解説記事を掲載している。

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