2019年 3月 26日 (火)

乳児用「液体ミルク」がやっと解禁に 災害時に必要なのに誰が妨害していた?

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   おカタイ話題ばかりが飛びかう内閣官房長官会見室で2016年10月17日、菅義偉官房長官が、おやと思われる発言をした。赤ちゃんのミルクのことだ。「(男女共同参画会議の専門調査会で)男性の育児参加を進めるうえで、乳児用液体ミルクは有効であるという意見がありました」として、国内販売を認める方向で検討に入るという。

   2016年10月18日付朝刊で、朝日新聞、読売新聞など大手メディアも一斉に報道した。

  • 水がない災害時には液体ミルクが役にたつ(写真はイメージです)
    水がない災害時には液体ミルクが役にたつ(写真はイメージです)

60年前の規定を変えない厚労省、及び腰の業界団体

   報道各紙によると、乳児用の液体ミルクは、成分が母乳に近く、粉ミルク同様に乳児に必要な栄養素が加えられている。粉ミルクと違い、液状のままパックされているので温める必要がなく、常温のまま赤ちゃんに飲ませることができる。紙パックやペットボトルに密閉され、半年~1年間の常温保管が可能だ。

   そんな便利なものがなぜ日本にないかというと、食品衛生法に基づく厚生労働省の省令で、乳児用食品は「粉乳」と限定され、液体ミルクは想定されていないからだ。1951年の制定当時は「粉乳」による保存が最適と考えられ、それが60年間続いてきた。また、2016年2月16日付東京新聞の「液体ミルク解禁署名1万2000件」という記事によると、業界団体である日本乳業協会が「日本では育児は粉ミルクというのが一般的。液体ミルクは認知度が低い」と「本音」を語っており、販売に乗り気ではないことも大きいようだ。

   菅官房長官の会見では、「粉ミルクに比べ乳児に飲ませる手間が少ないため、男性も育児に参加しやすい」と、もっぱらイクメン促進効果が強調されたが、実は以前から震災対策の要望が強かった。清潔な水が不足したり、お湯を沸かしたりできない災害時に粉ミルクは役に立たないからだ。

   先の東京新聞によると、2011年の東日本大震災では、液体ミルクが普及しているフィンランド在住の日本人女性らが計1万4000個の液体ミルクを被災地に送り、喜ばれた。そこで、2015年12月に横浜市の主婦らが呼びかけて、「乳児用液体ミルク研究会」がスタート、インターネットで「乳児用液体ミルク解禁」の署名活動を行ない、1万2000人以上の署名を集めた。

東日本と熊本地震で助かったフィンランドの液体ミルク

   それでも、政府と業界は重い腰を上げないまま、2016年4月、熊本地震が起こった。ここでもフィンランドが援助の手を差し伸べてくれた。フィンランド日本大使館のホームページ(2016年4月28日付)によると、同大使館と超党派で作る「日本フィンランド友好議員連盟」が中心となり、フィンランドの企業が無償で提供した液体ミルク約5200個を4月27日に熊本の被災地に送った。マヌ・ヴィルタモ駐日フィンランド大使が被災地を訪れ、保育園児に液体ミルクと一緒にムーミンのぬいぐるみもプレゼントした。ムーミンは、フィンランドの作家トーベ・ヤンソンの絵本がもとになっている。

   この時、ヴィルタモ大使と一緒に液体ミルクを配り、被災者を励ましたのが同議員連盟会長の小池百合子衆院議員(当時)だった。現東京都知事である。小池氏はその後、都知事選の選挙中、震災対策として乳児用液体ミルクの普及と保育施設での備蓄を訴え、液体ミルクの浸透に努めている。

   フェイスブック上には液体ミルクを推進するグループのサイト「乳児用液体ミルクプロジェクト」があり、熊本地震後、次々と投稿されている。

「熊本にすみ、土日にボランティで被災地に入っています。被災者から乳児の授乳が一番困ったとの声を聞きました。液体ミルクの認可が下りない背景は、大手が粉ミルクを製造しているからと思っています。粉ミルクは液状ミルクより収益が固いし、物流コストも安くつきます。製造コストの関係上、中小乳業メーカーでないと無理かと思えます」
「私も3か月の次男をミルクで育てています。お湯や水があることが前提の粉ミルク。災害時には、どうしたら良いのかと不安です。どうか、日本でも広がりますように」
「(液体ミルクは)昔使っていましたが、便利で安全でしたよ。うちの子供たちは母乳メインでしたが、疲れたり環境が変わったりすると母乳が出ないこともあって、そういう時は本当に助かりました。被災されている環境では大変助けになると思います。なぜ日本でできないのか不思議。」
「そんなに便利なら使えるようにすべき。母乳だ、人工乳だという問題ではなく、危機管理の一つでしょ」

行き過ぎた「母乳推進」運動が圧力に?

   産婦人科医の宋美玄(ソンミヒョン)さんも、2016年5月4日付の読売新聞コラム「宋美玄のママライフ実況中継」の中の「手間のかからない液体ミルク、日本で使えないのはなぜ?」の中でこう疑問を投げかけた(要約抜粋)。

「東日本大震災の時も話題になりましたが、諸外国では普通に売られている液体ミルクが日本では売られていません。理由は、食品衛生法に基準がないことや、需要が読めないので国内メーカーが及び腰であることが言われています。粉ミルクは清潔な水と哺乳瓶などの器具、それを沸かす設備が必要なため、災害時にはハードルが高すぎます」
「こういう時に『母乳こそ素晴らしい』という情報が流されているのを見ると、無神経に思えてきます。私は、陰謀論は好きではありませんが、母乳育児推進団体が『親たちが安易に人工乳を使えないように』と圧力をかけているのでなければ、法整備をして国内でも生産販売されるべきだと思います」

   ともあれ、やっと乳児用液体ミルクが解禁される運びになってきた。政府は業界団体に液体ミルクの安全性の試験を求め、2016年度内に方針をまとめる予定だ。災害時はもちろん、普段の生活でも、ママの負担が軽くなり、パパも育児に参加しやすくなる。先の「乳児用液体ミルクプロジェクト」のサイトにはこんな声があった。

「阪神大震災より21年、ついに~ですね」
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