2024年 4月 29日 (月)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
ドナルドは誰の大統領なのか(前編)

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   2017年3月中旬の猛吹雪のあと、ニューヨークでは少し気温が上がりつつある。春を待ち切れずに、人々は公園のベンチにすわって話し込み、本を読み、スマホをいじり、穏やかに暮らしているように見える。が、全米各地で行われる反トランプ派の集会では、今もトランプ派との激しい応酬が繰り広げられている。

   トランプ氏を大統領として受け入れられない反トランプ派。いい加減に現実を受け入れろと訴えるトランプ派。両派の対立が印象的だったのは、やはり、President's Day(大統領の日、2月第3月曜日で今年は2月20日)での一幕だ。

  • トランプ・タワーの前では、ドナルドが誰の大統領なのか、それぞれの主張が繰
り広げられた(2017年2月20日)
    トランプ・タワーの前では、ドナルドが誰の大統領なのか、それぞれの主張が繰 り広げられた(2017年2月20日)
  • トランプ・タワーの前では、ドナルドが誰の大統領なのか、それぞれの主張が繰
り広げられた(2017年2月20日)

トランプ・タワー前の「愛国心」と「星条旗」

   この日は元々、初代ワシントン大統領の誕生日を祝う日だが、同じ2月生まれのリンカーン大統領の誕生日も、ともに祝う。この日、全米各地で反トランプ派が集会を開き、「Not my president!(私の大統領じゃない!)」と気勢を上げた。

   ニューヨークでは、会場となったトランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワーの前の広場に、一足先にトランプ派が集まった。反対派の集会の数時間前に集合するようにと、仲間たちに呼びかけた。

   彼らは「アメリカを再び偉大に」と書かれた赤い帽子を被り、「USA! USA!」「Look at your president! Here's your president!(君の大統領を見ろ! これが君の大統領だ!)」と、大きな星条旗と、星条旗の背景にトランプ氏の顔がプリントされた大きな旗を広げて、声高にアピールした。

   「文句を言い続けるのは、やめろ! ヒラリーは選挙に負けたんだ!」と別のトランプ派が訴える。

   反トランプ派が集まってくると、激しい応酬が始まった。怒鳴り合う声が重なり、なかなか聞き取れない。両者ともものすごい剣幕だ。

   「なんでそんなものを、ここに持ち込むのよ!」と反トランプ派の女性が、トランプ氏の顔付きの星条旗を指さす。

「大統領の日なのに、星条旗のどこがいけないんだ。君たちに愛国心はあるのか!」
「星条旗と愛国心とは、関係ないでしょ!」
「USA! って、言えよ! お前たちの国じゃないのか!」
「こんな人種差別者、尊敬もしないわ! 私たちの大統領じゃない! 尊敬するのは、ビジネスマンとしてだけよ」
「どうしてトランプは、家族で政治に関わってるのよ! 独裁政治だわ。恐ろしい!」

女子高生が叫ぶ「現実を受け入れたらどうなの!」

   赤いトランプ帽を被り、胸にトランプ氏の顔のバッジを2つ付けた若い女性は、「TRUMP MAKE AMERICA GREAT AGAIN!(トランプ アメリカを再び偉大に)」と書かれたプラカードを掲げ、「He IS your president! Just get over it!(彼があなたの大統領よ! いい加減、現実を受け入れたらどうなの!)」と叫ぶ。

   あとで話を聞くと、彼女は16歳の高校生だった。

   彼女たちに食ってかかってきた反トランプ派の男性に向かって、「どうして、そんなふうに罵(ののし)るんですか。普通に会話しようとしているのに」とその女子高生が詰め寄る。

   「罵るだって? ポリティカリー・コレクトじゃないのは、君たちのほうだろ!」と男性が反撃する。

   若い白人女性も言い寄り、高校生と激しい口論になる。

「メキシコとの国境に壁を作るなんて、金の無駄! ドラッグ問題を解決したいなら、メンタルヘルスに金を使うべきでしょ!」

   「マドンナなんか、ホワイトハウスを爆破したい、って言ったじゃないか。メンタルヘルスが必要なのは、あいつだろ」とトランプ派の男性が加勢する。

「メキシコや中国で低賃金で作れるものを、アメリカで高賃金で作って、ビジネスが成り立つと思ってるわけ?!」
「それが問題なのはわかっています。だから、国内の労働者が守られる経済改革が必要なんです」
「あなたは洗脳されてるのよ!」

   「移民がもらってるような低賃金で、アメリカ人は働きたくないんだよ」と反トランプ派が口を挟む。

「洗脳なんかされていません! あなたはバーニー・サンダース(2016年大統領選挙予備選でクリントン氏に敗れた)が好きですか」
「もちろんよ」
「私は16歳で、高校生なんですが、彼が言うように公立大学の授業料を無償にしたら、どうなりますか」
「あなた、まだ16歳なの? すごいわね。もっとずっと年上かと思ったわよ」
「そうなんですよ。で、サンダースが唱えるような社会になったら、税率が50%とかになるんですよ!」
「金持ちにもっと税金を払わせなさいよ! 福祉を削減するなんて、あり得ないわ!」
「働けるのに、社会福祉を悪用している人たちも、たくさんいます」
「あなた、現実は厳しいのよ! 実際に職探ししていなきゃ、福祉の世話になんてなれないのよ!」

   ふたりの口論は延々と続き、その間にもあちこちで両者の激しい言い合いが行われていた。(後編に続く)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。


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