ネットメディアに明日はあるか(後編)
法政大・藤代裕之准教授に聞く 
ニュースサイトの自滅、新聞の不戦敗

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   『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社新書)の著者で、ジャーナリスト・法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さんに、引き続いて話を聞く。

   前編では主に「プラットフォーム」を中心に尋ねたが、今回は新聞、そしてJ-CASTも含めたニュースサイト(コンテンツ配信者)をめぐる現状、特にメディアの「フラット化」に伴う問題が主なテーマだ。

  • ジャーナリスト・法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さん
    ジャーナリスト・法政大学社会学部メディア社会学科准教授の藤代裕之さん

日経以外の新聞は「本気でやれよ」

――『ネットメディア覇権戦争』では、Yahoo!、LINE、SmartNews、日本経済新聞、NewsPicksの5つが取り上げられています。

藤代 今回は、(取材先を)スマホでパワーのあるメディアに絞りました。すると、既存マスメディアは日経しか残らなかった。

――「新聞では、日経だけが取り上げられている」というのは、興味深い点でした。

藤代 現にアプリが、多くの人からダウンロードされているじゃないですか。他の新聞社のアプリは使い勝手にしても悪いし、ダウンロード数も大したことないでしょうし、スマホでの存在感は乏しいですよね。しかし、日経に関してはビジネスパーソンを中心に、非常に存在感がある。ものすごく努力して、使い勝手のいいプロダクトを作り上げてきました。
日経以外はもっと頑張らないと、さすがにマズいと思います。むしろ日経しか取り上げられなかったことが「残念」ですよね。

――一方で、インターネットでは、ニュースを読者に届けるのが難しいという側面があります。新聞や雑誌などレガシーメディアは、コンテンツの届け方を深く考えて来なかった。ネットメディアをめぐる現状は、記事の流通や収益化をプラットフォームに丸投げしてきたレガシーメディアの責任もあるように思います。

藤代 そうだと思います。「ネットのビジネス規模は紙に比べると小さい」「ネットの仕組みはよくわからない」と放置してきたツケが今、回ってきている。
でも、日経の事例を見ても分かる通り、やったらできるんですよ。朝日や毎日や読売は、もはや言い訳できないと思うんですね。日経にできて、朝・毎・読にできないわけはない。
ただ、日経は2010年に電子版を立ち上げているわけで、他の新聞とはもう7年も差がついている。この差は決定的だと思います。今から全速力で走らないと、新聞はスマホ時代のニュースメディアとして、PCでYahoo!に完敗したように、また負けてしまう。PC時代は勝負しましたが、今回は不戦敗モードです。勝負しないままの完敗が目前。
本書を読んで「日経は進んでいるんですね」と言う新聞人もいるんですが、「のんびりしたこと言ってる場合じゃない、もっと本気でやれよ」と(笑)。「経済メディアだからできるんだ」という言い訳もよく聞くんですが、使い勝手のいいプロダクトを作ってからにしてほしいですね。

ニュースサイトは「養分」で終わるのか

――新聞の側から言わせると、いろいろと「事情」はあるのでしょうが。

藤代 新聞だけでなく、ネットのニュースメディアも転換期ですね。巻末のインタビューで山本一郎さん(投資家、ブロガー)が指摘した、Yahoo!の「衛星」としてエネルギーを供給されてきた「PCネットメディアの苦しさ」もそこから出てくる問題ですよね。山本さんはそれを微生物メディアと呼んでいるわけですが。

――まさにJ-CASTのような......。

藤代 ......(笑)。結局、最後のラストワンマイル、つまり読者に記事を届けることこそが価値なんです。それをポータルサイトの周辺にいるネットメディアができるかどうか、実は大きなテーマだと思うんです。

――そこができないと、またプラットフォームやニュースアプリの「養分」になってしまいます。

藤代 そう、ヤフトピの次はスマニュー(SmartNews)でウケそうな見出しを考え、そういう記事を量産するだけのメディアになってしまう。すると、ビジネス的にも(記事が)当たるときは当たるが、当たらないときはヒドいという、非常に不安定なビジネスモデルを展開せざるを得ません。
「WELQ」の提示した未来は、潮流としてまだ止まっていないと思います。クラウドライターを使い、プラットフォームに最適化し、ひたすら低コストで安く記事を量産する流れは一定量残る。ただそっちの世界がお金を生むかというと、違うような気もしているんですが。

――プラットフォームに最適化すると、WELQのような未来が待っている、と。

藤代 幸せになる未来はあまり想像できないですよね。

「フラット化」が問題の根源となっている

――先ほども言及されていましたが、あらゆるメディアが各プラットフォーム上で区別なく並び、読者からはどこのメディアかを意識されなくなる、「フラット化」が進んでいます。

藤代 「東スポ(東京スポーツ)的なポジション」も、フラットになったことによって作りにくくなっているわけです。「そうきたか!」という見出し芸を楽しむことが出来なくなる。メディアの個性に対する「共通理解」が欠落してしまっているので。

――東スポの記事もYahoo!ニュースに出てしまえば「Yahoo!の記事」として読まれ、「個性」を理解されず叩かれてしまうということですね。こうなると、メディアのブランディングも難しくなります。

藤代 もともとメディアは、ニュースの制作から流通までパッケージされていました。ところが今はどんどんプラットフォームの中に入って、届けてもらう状況が増えているじゃないですか。するとパッケージは崩壊し、フラット化の圧力が高まり、メディアの個性が埋没していくんです。雰囲気があったお店が、フランチャイズ加盟店して、本部に締め付けられて画一化するみたいな。
これでは面白くないですよね。プラットフォームが強すぎると読者もつまらないし、プラットフォームも最終的には「どれ見ても一緒」でつまらなくなるし、競争力が低下すると思います。プラットフォームによるニュース流通の参入は、「色々なニュースを知れる」といういい面があったはずですが、メディアの個性について共通認識が作れなくなってしまった。これは、フェイクニュース対策においても、メディアビジネスの面でも重要です。また、サスティナブル(持続可能)なメディアビジネスの面でも深刻な問題ですね。

――こうして見ると、フラット化に問題の根源がありそうですね。

藤代 「フラット化」が、フェイクニュース問題も生んでいるし、メディアの貧乏化も生んでいるし、メディアの個性やブランドの喪失も生んでいるということだと思います。

ネットメディアと既存メディアのレッドオーシャン

――メディアの個性、という意味で言うと、NHKなども含めてテレビなども当たり前のように「ネットの反応」を伝えるようになり、元々こうした路線に強かったJ-CASTを含むネットメディアとしてはやりにくい部分があります。我々のようなネットメディアは、どういう方向に向かうと思いますか。

藤代 J-CASTはネットの状況を世の中に伝えるという、重要な役割を果たして「いた」と思います。しかし、J-CASTが切り開いた「フロンティア」は今やスポーツ紙から全国紙、NHKまで、あらゆる既存メディアが参入する超絶レッドオーシャンです。ここでどうするかが勝負の分かれ目だと思っています。
思い切ったブランド変更も必要になってくるのかなと。J-CASTはある種、逆張りで成功したわけじゃないですか。今の逆張りは「ネットの反応とか書いているやつはバカ」「ネットの反応なんてもはや終わった」でしょうか(笑)。

――完全に自己否定ですね(笑)。

藤代 既存メディアですら資本の力を使って、24時間ツイッターを見て、データ分析をしています。ただ、既存メディアがJ-CAST化するのは、既存メディアの自滅でしょう。それをあざ笑うかのような、J-CASTの華麗な転身に期待したいですね。

――ラストワンマイルのところをどう挑むかも含めて、ということでしょうか。

藤代 新聞を出しちゃったりとか、雑誌で「週刊J-CAST」とかを出してみるとか(笑)。
いずれにせよネットメディアにとっては、記事の見せ方、届け方も含め、工夫のしどころがいよいよ出てきました。それはアプリだけじゃない。NewsPicksは書籍とイベントをパッケージにした取り組みをスタートさせています。今後、ラストワンマイルはニュースメディアにとって面白いところになると思います。

「尊敬されよう」志向の危うさ

――本書の終盤では、人材育成の必要性に言及されています。既存メディアからの「転職組」が多かったこれまでとは違い、ネットメディアで「新卒」としてキャリアを始める人も増えている中、この問題はさらに重要になりそうですが。

藤代 ブランド化が進むのであれば、人材育成が「必然」になるでしょう。
プラットフォーム最適化の道は、書き手はクラウドライター、あるいは人工知能(AI)でいいということになります。しかし、「良い記事」を提供するためには、ジャーナリストやライターの取材力や筆力が問題になる。ただそういう話になると、今までのネット企業のライターだと経験不足です。
最近、「(ネットメディアが書く記事の)賭け金が上がっている」と感じます。ネットメディアが社会的なニュースを書く機会が増えているからです。今までは「ネットで話題」とかのオモシロ記事を書いていればよかったわけですが、最近のBuzzfeedやハフィントンポスト、Yahoo!のオリジナル記事を見ても、災害や戦争といった人の生死にかかわる問題や教育や介護といったセンシティブなテーマに踏み込んでいるじゃないですか。そういうテーマは既存メディアの強いエリアなんですね。
今、ネットメディアの一部は「尊敬されよう」と思っていると感じるんですよ。社会の中で認められたい、社会の中で尊敬されるネットメディアになりたいと。ところがそのスタッフがセンシティブなテーマを書けるジャーナリストとして十分なレベルに達していない。「マイナークラスの選手なのに、メジャーリーグに挑もうとしている」ような危うさがあると思うんですね。

――「正義の味方」になろうとしている。

藤代 「正義の味方」化はとても危険です。そもそも、ネットメディアはそういう正義の味方的な上から目線が問題だと新聞社などに対して、マスゴミ批判をしてきたのではないかとも思いますが......より大きな問題は、繰り返しになりますが、センシティブなテーマを扱う場合は、ジャーナリストとしての訓練が必要だということです。書くことで誰かを傷つけることもありますし、企業が潰れてしまうかもしれません。それは、起きてからでは遅いんです。このまま賭け金が上がり続けると大きな社会問題を引き起こしかねない、それに無自覚に見えるいまのネットメディアは怖いなと思います。

藤代裕之氏 プロフィール

ふじしろ・ひろゆき 1973年徳島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期修了。徳島新聞記者を経て、NTTレゾナントでニュースデスクや新サービス立ち上げを担当。現在、法政大学社会学部メディア社会学科准教授。専門は、ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論。近著に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社新書)。

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