2024年 4月 18日 (木)

中国「人材ビザ」の超優遇  外人エリート獲得に躍起になるワケ

来店不要なのでコロナ禍でも安心!顧客満足度1位のサービスとは?
「自分が中国ハイレベル人材ビザ(査証)を取得した初の日本人だと聞いて、非常に興奮しています。これからも懸命に努力し、研究成果を挙げたいと思います」

『人民日報』海外版は2018年3月24日、神奈川県の中森菜実さんの喜びの声を伝えた。

日本人研究者に半日で査証発給

   報道によると、中森さんは2017年、フランスのラ・ロシェル大学で材料科学の博士号を取得したばかりで、専攻は圧電材料や「強誘電体」の先端的な研究だという。就職先について迷っていた時、中国科学院上海ケイ酸塩(シリケート)研究所のある先生から、同研究所材料科学研究チームのプロジェクトの研究に参加して欲しいという招聘状を受け取った。一流の研究所ながら、比較的自由度が高く、ゆったりした研究環境が備わっており、専門分野を生かすことができ、待遇も手厚いというチャンスを前に、彼女はほとんど躊躇することなく、上海で夢を追う決意を固めた。

   上海の受け入れ機関の支援により、中森さんは順調に中国の外国専門家主管部門が用意した「外国ハイレベル人材確認状」を取得した。2018年1月30日、彼女は全ての申請資料を携えて、駐日中国大使館に赴き、ビザを申請した。午前11時半に申請書類を提出し、当日午後4時にはビザが発給された。

   中国大使館の素早い手続きは、彼女を大いに驚かせ、その日のうちに彼女は中国版ラインであるウィーチャット(微信)のサークルにこの記念すべきビザの写真をアップし、英語で「私はこれを手に入れた!もうすぐ(中国へ)出発!」と書き込んだ。

   中森さんのようなケースは数多くあり「外国ハイレベル人材」と認定された外国人に関する話題は、最近の中国メディアでしばしば報道されている。

不足している最先端分野の科学者を吸引

   2017年末、中国の国家外国専家局、外交部(外務省)、公安部(警察庁)は連名で『外国人材ビザ制度実施弁法』を発表して、さらに外国人材ビザ発給の範囲、期限などを緩和し、2018年1月から、北京、上海などで試行し、3月1日から全国的に実施することを明らかにした。

   中国国家外国専家局の関連政策によると、「外国ハイレベル人材」の基準に合致するのは、「高学歴、技術に精通し、先端技術を把握し、不足している分野」の科学者、科学技術リーディング人材、グローバル企業家、専門的人材とハイテク人材などの中国経済社会の発展に必要な外国人材であれば、全て外国人材ビザを申請することができる。

   外国人材ビザには四つの「最」が付いている。①有効期間はこれまでで最長で10年②滞在期間はこれまでで最長で毎回180日③発給までの時間はこれまで最短で、申請翌日発給④これまでで最も優遇される特典として、「費用ゼロ」手続きで、外国人材とその家族はビザ費用と緊急文書費用の支払いを免除される。

   前述の中森菜実さんも、こうした措置で迅速に中国ビザを手に入れることができたというわけだ。

実は「赤字」の中国人材事情

   中国の外国人出入国と滞在に関する行政手続きは非常に複雑で、ビザ、滞在、就職、入籍はそれぞれ異なる政府機関が管理している。また中国の「グリーンカード(外国人永住証)」は現在、世界で最も取得が難しく、敷居が高い上に、厳格に管理され、2004年に「グリーンカード」制度が施行されて10年余になるが、中国のグリーンカードを取得した人はわずか1万人程度に過ぎない。こうしたことが外国人材招聘の巨大な障害となっていた。

   実は、中国の人材、特にハイレベルの人材は、毎年、流失している。中国・グローバル化シンクタンク(CCG)の王輝耀部長の指摘よると、改革開放以来、1000万人を上回る中国人が移民として出国しており、毎年米国への移民は8万人に上る。一方で、中国にやって来た外国人、長期滞在者はこれまでに百万人に満たず、しかもその大半は単純労働者である。そのため、人材取引の「赤字」はとても大きい。

   李克強首相は2018年3月5日、国会に当たる全国人民代表大会(全人代)での政府活動報告で、過去5年間、中国が人材導入を強化したことによって、中国にやって来た外国の専門家は40%増加したと述べた。さらに、将来的には外国人材のグリーンカードのチャネルを緩和し、人智、人材を集め、中国イノベーションの「速度」を上げなければならないと、提起した。

外国人「起業」に17億円を出す杭州市

   中国の政府機関はすでに李首相の意図をくみ取り、実行に移している。3月に打ち出された国務院機構改革案で、従来、国務院直属だった国家外国専家局が科学技術部(省)に移されたが、これは今後、技術的な分野の外国人材招聘に焦点を合わせることを意味している。さらに、新たに創設された国家移民管理局は、これまで公安部に属していた出入国管理、国境警備の職責を統合して、外国人の出入国と滞在行政手続きの効率化を図っている。

   さらに、中国政府は、外国籍のハイレベル人材に政策への提言、表彰、研究費などで、中国人の同僚をはるかに上回る優遇策を与えるなど、さまざまな特典を打ち出している。 地方政府も外国人招聘に非常に積極的だ。

   国家外国専家局の資料によると、2016年以来、北京、上海、深?、杭州、武漢、南京などの市政府は次々に人材招聘特別計画あるいは優遇政策を打ち上げ、研究費支給、住宅、子女の就学などの面で、外国人材に「大盤振る舞い」を行っている。2017年の海外人材純流入率が全国一の杭州市は、2018年初めに新政策を打ち出し、外国人材がプロジェクトを携えて杭州で起業する場合、最高、1億元(約17億円)の資金援助を行うとしている。

(北京在住ジャーナリスト 陳言)

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中