2018年 11月 17日 (土)

子どもの「脳格差」が広がっている 『スマホが学力を破壊する』・・・川島隆太先生に聞く

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   「脳トレ」などで有名な川島隆太・東北大学加齢医学研究所所長が、あえて業界に一石を投じる衝撃の書を出した。『スマホが学力を破壊する』(集英社新書、2018年3月刊)。仙台市立の小中学校生約7万人を5年間追跡調査し、スマホ使用と学力の相関関係を調べたものだ。スマホを1時間以上使うと、使った時間の長さに応じて成績が低下していることなど、スマホ漬けの生活が子どもに与えるマイナスの影響について、川島教授は膨大なデータをもとに手厳しく指摘している。著書の反響や、スマホと社会のあるべき姿についてJ-CASTニュースが改めて聞いた。

  • 川島隆太さん
    川島隆太さん
  • 著作『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)を手にする川島隆太さん
    著作『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)を手にする川島隆太さん

8割の子どもたちの学力が下がる

編集部 たいへんショッキングな内容の本です。反響はいかがですか。

川島 父兄からの反応は、割と微妙です。親御さんたちは、「スマホ無しでは暮らせない」と思うことが多いみたいです。自分たちが生活の中でかなり使っていますからね。一方で、教育委員会など、子どもの教育に携わっている人たちは肯定的に評価してくださっています。

編集部 子どもたちの反応はどうでしょう?

川島 この本のデータを見てもらいながら、スマホ使うと自分の身に何が起こるか、メリットとデメリットを天秤にかけてどう付き合うか考えてみる。仙台市で中学生を相手に、そういう内容のフォーラムをやりました。子どもたちの結論は、「中学生活にスマホはいらない」。要するに、今までこれだけのデメリットがあるということを知らなかった。一度知ってしまうと、使うメリットよりもデメリットの方がはるかに大きいことに気付いてくれたんです。「それでも、高校生になったら使っちゃうかな」という正直な声も聞こえてきました。

編集部 IT関係の業界からの反応はどうでしょうか。

川島 今のところは沈黙を保っているように見えます。

編集部 マスコミは。

川島 メディアはおおむね協力的ですね。特に活字系のメディアに関しては、ようやく危機感に気付いていただけたような気がしています。それなりに積極的に記事にしていただけている感触がありますね。スマホはまだ、普及してから7年ちょっとしか経ってないので、学者の側の研究が追いついていません。世界的にもまだ、リスクについての論文がほとんど出ていないと言えるでしょう。

編集部 そういう意味では先生の研究は画期的ですね。

川島 スマホを1時間未満で使いこなしている子どもたちは、学力に大きな影響が出ていないのです。むしろ、若干成績が良い傾向がある。でもこの子どもたちの割合は、全体の1割から2割に過ぎません。一方で残りの8割の子どもたちは、長時間使用する傾向がどんどん高まっている。そうなってくると、8割の子どもたちは、結果として学力や様々な能力が下がっていってしまう。
 要は、スマホの使用状況に応じて格差社会がもっと広がるだろう、という未来を本当は今回の新書から読み取ってほしいんです。それが、私が一番危惧していることです。スマホという何気ない小さな装置、楽しい装置が身近であることによって、今以上にこの国で、ひいては世界中で格差が広がるのではないかと憂慮しています。

大人の脳にも影響が出る

編集部 新書の内容で、大人から見てもとても興味深かったのが、パソコンやスマホで言葉を打っていると脳が退化するという話です。

川島 テレビを長時間見る子、ゲームを長時間やる子は、脳発達自体が悪くなっているということは、実は数年前の段階で気付いていた事実です。そのテレビやゲームに相当するものが、今の時代はスマホに置き換わっていると思います。
 スマホの使用中に脳血流を測定すると、前頭前野が働いていないことがわかるんですよ。要するに、前頭前野に抑制がかかった状態を長時間作ってしまっていることが見えてきた。身体と同様に、脳を積極的に使うべき場面で使わないと、やはり脳の機能は衰えていくんだろうな、いうのが我々の解釈です。
 活字媒体の仕事をされている方は肌で感じておられるかと思いますが、多くの若い人たちが、長い文章が読めなくなっています。活字に集中する、活字を読むというのはある程度の時間の長さで集中している必要がありますけど、それができないんですね。まとまった量の活字を読むという努力ができなくなっています。特にSNSの世界では、もう2語文、3語文のコミュニケーションで済ませることがデフォルトになりつつあります。大学生においても、既にそうなってしまっています。

編集部 スマホが席巻する社会の未来は?

川島 例えば中国や日本で、今の状態、つまり人々がスマホにベッタリになって、8割の人が能力を落としていくっていうのは、実はある意味で良いことなんですよ。何しろ、社会がすごく安定してコントロールしやすく、経済的にも一番お金のかからない状態になるわけですからね。
 まさに今、ちょうどほどよく、我が国はそういう状態に向かっているな、という感覚を覚えています。どうでもいい一過性の話題で皆が右に行ったり左に行ったりして、適度に感情が動員されながらガス抜きをされている。それでも突き詰めれば、大多数の人は情報に流されるまま、案外平和で幸せに暮らしてくれているということですから。私のようにその幸せな状態に一石を投じて波紋を起こそうというのは少数派でしょうね。いやな顔をする人間も出てくるかも知れない。
 ただ、ここから先はまさに私の夢物語ですが、今の状況がいっそう進んでいくと、下手をしたら8割の人が労働力として成立しなくなってしまうかも知れません。そうなると、もはや社会が成立しなくなりますよね。だから、もしかすると、もう少ししたら揺り戻しが起こる可能性もあります。要は、このままだと最悪の場合、労働する人たちの質が下がり過ぎて、国が維持できなくなる、という状況に直面せざるを得なくなるかも知れない。そう気づいた時には、何らかの意志が働いて、もしかすると「スマホは危ないからもうちょっと規制しよう」なんて話が浮上してくるような気がするんです。私の読みでは、意外とそんな時期が訪れるのは、近いような気がしていますけれどもね(笑)。

「サイレントベイビー」が生まれている!?

編集部 この本の中で、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズは自分の子どもの幼少期にICT(情報通信技術)機器を持たせなかった、という逸話が紹介されています。本当なんですか?

川島 彼ら自身が自伝でそのように書いているくらいですから、本当ですね。

編集部 考えてみれば、ゲイツやジョブズ自身もスマホを使わずに天才になった人たちですよね(笑)。先生はやはり、早急に規制をすべきだという立場ですか。

川島 私自身はそう思っています。なぜかと言うと、8割の人が装置に使われちゃうという現実があって。かつ、長時間使っている人たちに依存症の症状が出ているということを、医師たちが指摘しているからです。

編集部 要は、もう親なり大人なりが自衛手段を考えていくしかない。

川島 その親たち自身が、子どもよりも酷い依存状態になっていることが多いです。そこは怖いところですね。土日なんかに、レストランにいる家族連れに目を向けていただくと、ありえない光景が見られますよ。家族全員がスマホをいじっていて、食べるものが冷めていても気にせずそのままで、会話も何もない。家の中でも同じなのかな、と思われてしまう。そういう状態が普通になってきている。もう目に見えるわけです。そして、それがおかしいことなんだと、すでに人々が思わなくなってきている。
 今の親御さんの中には、授乳をしている時に、赤ちゃんの顔を見ないでスマホを見ている方が多くいます。赤ちゃんが、例えばむずがっている時に、自分であやすのではなくて、代わりにスマホのアプリを見せるという方もいます。子どもたちがある程度自立して遊べる1歳半、2歳の時期になったら、今度は、子どもはタブレットを与えられて、それを操作して一人で遊んでいる。親は親で、横でスマホをいじっている。こんな家庭も珍しくないのではないでしょうか。
 きちっと顔と顔を付き合わせた、フィジカルな接触のあるコミュニケーションを行う機会もないまま育てられる幼児が存在する。それが原因なのか、自分の感情をほとんど表に出さない、すごくクールな子供たちが増えてきています。これを神経小児科医は、「サイレントベイビー」と名付けています。彼らは同時に、他者の気持ちを理解する能力がものすごく拙劣だと言われています。最近では、小学校の1年生、2年生を受け持つ先生たちが、コミュニケーションが難しい非常に変わった子どもたちが増えていると言うようになってきていますね。これはひょっとすると、スマホ子育てをされた子たちなんじゃないかと私は心配しています。

大人に求められる倫理

編集部 改めて強調しておきたいことを伺えますか。

川島 人間による技術の発展というものは、自分たちが楽で努力しなくてもいいようにする、という方向に発展してきました。今では教育さえもそちらの方向を向いていますね。でも、自分で努力をしない、特に発達期に負荷をかけて自分の器を成長させることをしないということは、器が小さいままの人間を世の中に放出していくということになります。
 そうした時代の流れの中で、知らずにスマホを使い込んで沈んでいくというのは悲劇としか言いようがありません。一方で、ちゃんとデメリットを知った上で使って、結果として成績が悪くなるというのであれば因果関係もわかりますし、自己責任だという納得もつきます。
 そういう意味では、スマホ使用にリスクがあるという可能性が見えてしまったら、それは使う側に教えておくべきだと思っています。リスクがあると知った上で使ってくれと。私は社会で考えてもらうためのきっかけとして、研究データを世の中に提示したいと思って今回の新書を書きましたし、こうした取材記事を通して出来るだけ多くの方に考えるきっかけをつくってもらえればな、と思っています。
 少なくとも、成人に達しない子どもたちが、歯止めが利かない状態でスマートフォン等の電子機器を長時間使う、というようなことは何とか避ける社会をつくる必要がある。そういう意味で、行政も企業も含めて、我々大人が持つべき矜持というのは、子どもで金儲けをしないということではないでしょうか。そこに尽きると思います。最近ではゲームのガチャガチャで課金をさせて、半ば中毒状態の子どもが何十万円もの支払いを発生させた、などという事件も起こっていますが、そうした目先のお金儲けに子どもたちを巻き込んで、彼らの将来をダメにしないでほしい。
 そこはまさに社会的な倫理観の問題ですよ。スマホを長時間使うことによって悪いことが起こる、しかし大多数の子どもたちが長時間使いたがってしまう。そういう事実がわかったわけですから、そこは我々社会をつくっていく大人が、判断力が未発達な子どもに代わって積極的にブレーキをかける、ぐらいの倫理観を持って世の中をつくっていってほしいものだと思います。

(聞き手 J-CASTニュース BOOKウォッチ編集部)


川島 隆太(かわしま りゅうた)

1959年千葉県生まれ。1989年医学博士(東北大学)。東北大学加齢医学研究所所長。全世界でシリーズ累計販売数3300万本を突破したニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修者。著書は累計600万部を突破した「脳を鍛える大人のドリル」シリーズをはじめ、『現代人のための脳鍛錬』(文春新書)、『さらば脳ブーム』(新潮新書)など多数。


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