2024年 4月 26日 (金)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
大統領が引き起こす不安障害「TAD」

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「トランプがいつか『核のボタン』を押すのではないかと、本当に心配だわ」

   カリフォルニア州在住のダイアン(50代)だけでなく、何人ものアメリカ人の口からこの言葉を聞いた。

   トランプ大統領の就任一年後、ニューヨークの地下鉄のホームのベンチで隣にすわったニカラグア出身の女性(30代)は、トランプ氏について意見を求めると、片言の英語でひと言、「怖い(I'm scared.)」とつぶやいた。その人は合法移民だったので、何も怖がることはないでしょう?」と聞くと、「トランプが何をするか、予測できない」と首を横に振った。

  • トランプ大統領(C)FOMOUS
    トランプ大統領(C)FOMOUS
  • トランプ大統領(C)FOMOUS

性別、人種、宗教などに関係なく発症

   2018年5月、ニューヨーク市内の住宅地で美しく咲き誇る藤の花に足を止めると、同じようにそこで立ち止まって写真を撮り始めた女性(48)が、イラン出身だった。トランプ氏がイラン核合意からの離脱を表明した翌日だったこともあり、私がその話をすると、「イランの怒りが爆発したら、核戦争になるかもしれない」と恐れていた。

   精神科医や精神分析医などによると、トランプ大統領の就任以来、米国では「トランプ不安障害(TAD=Trump Anxiety Disorder)」に苦しむ人が増えている。一般の不安障害とは異なり、トランプ氏に関わるもので、性別、人種、宗教などに関係なく発症するという。

   トランプ氏の挑発的な言動に、「人類が滅亡するのではないか」、「戦争が始まるのではないか」、「次に何が起きるのか」という不安や絶望にかられる。ソーシャルメディアで過度に時間を費やし、夜眠れないなどの症状が見られる。

   2017年8月、トランプ大統領がツイッターに、「北朝鮮が米国をこれ以上脅かせば、北朝鮮は「世界がこれまで目にしたことのない炎と怒り(fire and fury)に直面する」と投稿し、人々を震え上がらせた。

   2018年7月、イランのロウハニ大統領に宛てて、すべて大文字で次のようにツイートした時にも、多くの人に衝撃を与えた。

"NEVER, EVER THREATEN THE UNITED STATES AGAIN OR YOU WILL SUFFER CONSEQUENCES THE LIKES OF WHICH FEW THROUGHOUT HISTORY HAVE EVER SUFFERED BEFORE. WE ARE NO LONGER A COUNTRY THAT WILL STAND FOR YOUR DEMENTED WORDS OF VIOLENCE & DEATH. BE CAUTIOUS!"
(決して、二度と、米国を脅したりするな。さもないと、過去の歴史でもまれに見る苦しみの報いを受けることになる。我々はもはや、お前の暴力や死などの狂ったたわごとを許すような国ではない。心しておけ!)

大統領を精神的な親と見る米国民

   2018年7月末、トランプ氏支持の傾向が強いとされるFOXニュースでも「トランプ不安障害」について取り上げた。そのなかで精神科医のダニエル・ボバー氏は、「これは正式な病名ではなく、症状が見られる人がそれほど多いわけではない。元々、何かしらの不安障害を抱えていた可能性があるのではないか」と指摘した。

   さらに同ニュースの別の番組では、「そうした恐怖を浸透させているのは誰か」と投げかけ、「トランプの言動は米国を第三次世界大戦に導いている」、「大統領選の終焉は、まさにこの世の終焉だ」など、他局が流した反トランプ派の声を紹介した。

   トランプ氏を支持するニュージャージー州在住のジェフ(50代)も、「フェイクニュースやネットで、ネガティブなニュースにしか触れていないからだ」と批判する。「国内総生産(GDP)は伸びたし、失業率は下がった。トランプの功績はまったく評価せず、悪いことはすべて彼のせいにする。結局、(反トランプ派は)負けを認められないだけだ」

   オレゴン州ポートランド郊外に住む ジョイス(30代)は、大統領選挙戦の前から政治やトランプ氏について、セラピストに話すことが多くなったという。

   「『いったい次は何?』と、気になり、夜中でも携帯でニュースを確認していたけれど、セラピストに言われてしばらくニュースを追うのをやめたら、前ほど不安を感じなくなった」と話す。

   サイコセラピストのエリザベス・ラモット氏は、「自分はこの症状にあえて『トランプ』の名は使わないけれど、人格障害の親に育てられた人に見られる症状とよく似ている。自覚があるにせよないにせよ、私たちアメリカ人はこの国の大統領を、精神的な親として見る傾向がある」と話している。

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計37万部を超え、2017年12月5日にシリーズ第8弾となる「ニューヨークの魔法のかかり方」が刊行された。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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