2024年 4月 25日 (木)

福島「天栄米」に魅せられて ~お米マイスターの澁谷梨絵さんと訪ねるおいしいごはん旅~

提供:東京電力ホールディングス

   10月、福島県天栄村は「黄金のじゅうたん」が敷き詰められる。福島は、新潟や秋田などに負けない、日本でも屈指の米どころ。農家は工夫を凝らして福島米の品質向上に努力を重ねてきた。

   ご自慢の「天栄米(コシヒカリ)」は、米・食味分析鑑定コンクール国際大会の最上位である国際総合部門で、2016年まで全国で唯一、9年連続で金賞「ゴールドプレミアムライスAAA」を受賞。まさに、「世界一」の米なのだ。

   そんな天栄米に魅せられて、5つ星お米マイスターで「米処 結米屋(ゆめや)」を運営する株式会社シブヤ社長の澁谷梨絵さんが、農家の熱い思いに迫った。

  • 天栄米がつくる「黄金のじゅうたん」 澁谷梨絵さん(左)と天栄米栽培研究会の班目義雄会長
    天栄米がつくる「黄金のじゅうたん」 澁谷梨絵さん(左)と天栄米栽培研究会の班目義雄会長
  • 「いいお米が獲れた」班目義雄会長(右)と澁谷梨絵さん
    「いいお米が獲れた」班目義雄会長(右)と澁谷梨絵さん
  • コンバインで稲刈り
    コンバインで稲刈り
  • 天栄米がつくる「黄金のじゅうたん」 澁谷梨絵さん(左)と天栄米栽培研究会の班目義雄会長
  • 「いいお米が獲れた」班目義雄会長(右)と澁谷梨絵さん
  • コンバインで稲刈り

黄金色の稲穂がお出迎え

   東北新幹線のJR新白河駅を降りて、クルマで会津方面に2、30分も走っただろうか。迫る山合いの麓に田圃が見られるようになる。台風24号の強風が影響して、所々、稲穂が根に近いところから倒れてしまっている。別の田圃では収穫がはじまっているようで、稲刈りの跡が車窓を流れる。

   ところが、福島県天栄村に入ると景色は一変する。

   陽の光にキラキラと輝きながら、山からの風に気持ちよさそうにサワサワと揺れる稲穂を前に、天栄米栽培研究会の班目義雄(まだらめ・よしお)会長は、

「今年は台風が多かったけれども、幸いにしてこの天栄村は被害が少なくて。お米は平年よりも、ちょっといいかな......。去年(2017年)のコンクールで、あと一歩及ばず10年連続の金賞受賞を逃して、今年はそれが意気込みになって、栽培研究会の会員一同、目を輝かせながら稲刈りをはじめている最中です。本当に黄金色に、首(こうべ)を垂れている稲穂をですね、見ていただきたいんでね」

と、目を細める。

   行きがけの車窓から見た稲穂と異なり、天栄米のそれはしっかりと根付き、たくましい。5つ星お米マイスターの澁谷梨絵さんは、すぐに気がついた。

天栄米の稲穂はたくましい
天栄米の稲穂はたくましい
「太い茎ですねぇ。それで台風にも耐えられたんですね」

   天栄米は、通常の稲穂と比べて背丈が高くないこともある。「すごくキレイ」。

   村はまさに実りの秋を迎えていた。

「漢方薬」が土をつくる

   「おいしいお米が獲れる条件は土がいいかどうか。その次に水と気候です」と、澁谷さんはいう。視察先ではいつも、まず土にふれる。

5つ星お米マイスターの澁谷さんは、まず土にふれた
5つ星お米マイスターの澁谷さんは、まず土にふれた

   天栄米は無農薬、無化学肥料の「コシヒカリ」で、「特別栽培米」「ゴールドプレミアムライス」「漢方農法米」の3種類がある。その最も品質が高く、看板となっているのが「漢方農法米」。その名のとおり、漢方薬を煎じた滓(かす)を散布することで、土壌が改良され、極上のお米となる。もちろん、農薬も化学肥料も一切使っていない。

   天栄村の土は、もともと稲作に適している粘土質。肥料が流れにくいことが理由だが、そんな土に「漢方薬」を混ぜるのだ。

   天栄米栽培研究会の塚目剛(つかめ・つよし)さんは、「漢方薬の滓を土に撒くと、その栄養分を吸収するうえ、土の中で微生物が増えて土の力が伸びるんです。土の力が強いと病害虫に強い。土が痩せているといいお米がとれませんから。人間も軟弱だと風邪ひきやすいでしょ。それと同じですね」と説明。同じコシヒカリでも、「漢方米は間違いなく甘い」と、言いきる。

   澁谷さんは、「栽培研究会の農家さんの田圃は、飛んでいるトンボの数が全然違う。至るところにいっぱい、ワサーッと出てくる」と話す。それもまた、いい田圃の条件。

   漢方米を作りはじめて、10年。「この土は栽培研究会のみんなで耕してきた。いい土壌ができたら、いいお米がどんどんできてくる。土の力もあるけれど、村民の意識が上がっているからかもしれないねぇ」。班目会長はそう言って、胸を張る。

「涌井の清水」この水が天栄村の田圃に入っていく
「涌井の清水」この水が天栄村の田圃に入っていく

   天栄米がおいしい秘密は、もう一つ。村には鳳坂峠に、太平洋側に注ぐ阿武隈川水系の釈迦堂川と日本海側にまたがる阿賀野川水系の鶴沼川との分水嶺があり、村の天然記念物に指定される「涌井の清水」がある。

   地中から清水が湧き出す。

「やはり、うちの村はですね、全家庭が水道の蛇口をひねるとみんな山からの水が出るんですよ」

   班目会長が笑う。

   ボコボコと湧いてくる清水に、澁谷さんは「すごいキレイ。それに冷たいですね。まったく、なんの雑味もない。この水が(田圃に)入ってくるんですね」と驚く。

   混じりけなしの豊富な水が、肥沃な天栄村の田圃を育んできたのだ。

「おいしい」しか言葉にならない

   田圃では稲刈りがはじまっていた。ダダダダダ。稲穂がコンバインに吸い込まれていく。

   澁谷さんが、太い茎から稲穂を手に取る。お米の一粒一粒が大きい。「皮が厚くて、皮を剥いても身がしっかり詰まってそう」。

   「昼と夜の温度差がね。やっぱり寒暖差が大きくなって、それがよかった」と、班目会長はみている。

   その実の大きさから、充分な水分と甘みを含んでいることがうかがえる。「ああ、きっと間違いなくおいしい」。そう思わせてくれる。

「おいしい」しか言葉が見つからない 久保食堂で、澁谷さん(左)と班目会長
「おいしい」しか言葉が見つからない 久保食堂で、澁谷さん(左)と班目会長

   村役場脇の「久保食堂」に、班目さんご夫婦をはじめ、天栄米栽培研究会の会員が集まった。

   想像していたおいしさが、確信に変わる。

   澁谷さんは「おいしい!」と発すると、忙しく箸を口に運んだ。ツヤのあるお米は、粒が立っているという。「さっき稲を見てきました。今年もいろんな田圃を見てきたんですけど、天栄米はふっくらしてキレイだったから、すっごく楽しみでした」と、ほほ笑む。

「おかず、いらないですね。ほんとにおいしい」

   しかも、供されたごはんは新米ではない。「(平成)29年産で、こんなにおいしいんだ!」。

   「おいしい」の言葉しか、見つからない。

   そもそも、澁谷さんが「天栄米を視察したい」と思いたったのも、そのおいしさに惹かれたからだ。おいしさのヒミツを知りたくなった。

   きっかけは「米処 結米屋」で取り扱う福島米のサンプルを、いくつか送ってもらったこと。「福島米はもともと先代、先々代がずっと多くの量を取り扱っていたくらいポテンシャルは高く、なかでも中通りが一番おいしいと言われていました。食べ応えのあるしっかりとした食感。炊きあがりの香りがよく、光沢があり、粒がそろった美しいお米。なかでも、天栄米はシンプルにごはんの味がする。口に入れて甘くて、噛むと旨味がにじみ出る。粘りもしっかりあって、ごはんだけ、それこそ塩おにぎりでもいいと思う。そんな味のあるお米です」と、ベタ褒めだ。

   今年6月、東京・渋谷の東急百貨店本店で開かれた「福島フェア」で販売したところ、評判は上々。百貨店の裏にあたる渋谷区松濤は高級住宅街で、芸能人や著名人など舌が肥えている人が多い。「そんな方々が『もう一回食べたい』とご来店いただいたり、『天栄米、次いつ入ってくるの』とご連絡いただいたたり。食べて(おいしさを)おわかりいただけるお客様が多かった」という。

   「そう、天栄村のお水って売ってます?」。手間をかけずにお米を一番おいしく食べる方法は、「産地の水を使って炊くこと」と、澁谷さん。

「残念...... 天栄村のお水でお米を研いで食べたとき、ぬかぎれがすごくよかったんです。地元のお水が無理であれば、そんなに洗わなくていい。軽くで。洗いすぎると天栄米のうまみエキスが漏れちゃうから。少し白く濁っているくらいで研ぐのをやめて、炊くといいですよ」

   帰京してしばらくすると、天栄村から新米のたよりが届いた。12月に入り、村にはチラリ、雪が舞いはじめている。




プロフィール

澁谷 梨絵(しぶや りえ)
家業である米屋の3代目で、「米処 結米屋」を運営する株式会社シブヤ代表取締役。5ッ星お米マイスター、ごはんソムリエ、雑穀エキスパート、薬膳インストラクター、雑穀マイスター、発酵食スペシャリストの有資格者。天栄米は、東急百貨店たまプラーザ店で販売している。
明の星女子短期大学英語科、関西学院大学総合政策学部を卒業。2001年、ソフトバンク入社。ソフトバンク・テクノロジーでシステムエンジニアとして勤務。02年に家業に入る。06年、株式会社シブヤ代表取締役に就任。千葉県出身、41歳。

天栄米栽培研究会
会長は班目義雄(まだらめ・よしお)氏。米の自由化に伴う米価下落への危機感から、「日本一おいしいお米の産地」になることを掲げて25人の農家が結集。2008年に発足した。大消費地に近い首都圏で大量生産されるお米と、新潟・魚沼産などのブランド米と競っていくため、「おいしさ」で勝負することが必要と考え、行政と農家が一致団結。コンクールで戦える米作りをはじめた。
米・食味分析鑑定コンクール国際大会では、東日本大震災と東京電力・福島第一原子力発電所の事故が起きた2011年も金賞を受賞。最上位である国際総合部門で、16年まで9年連続で金賞「ゴールドプレミアムライスAAA」を獲得している。
2018年春からは、新たな産地品種銘柄として手掛けてきた「ゆうだい21」が、農林水産省の認可を得た。「これでまた金賞を狙う」(班目会長)。

福島県天栄村
福島県中通りの南部に位置。人口は約6000人。古くから会津と中通りを結ぶ重要な交通の要所。農業が盛んで、1200ヘクタールの農耕地帯が広がる。米を中心に、野菜や果樹との兼業農家が多い。天栄米は、道の駅「季の里 天栄」や「羽鳥湖高原」などで販売している。

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