2019年 9月 18日 (水)

日米貿易交渉は、本当にウィンウィンか 米国「有利」の見方強い理由

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   2019年8月下旬に大枠合意に達した日米貿易交渉は、9月後半の国連総会中に安倍晋三首相が訪米し、ドナルド・トランプ米大統領との間で協定書に署名するとの見通しになった。前評判通りのスピード決着だ。

   日本の農産物の市場開放については米国が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)の水準内に収めることで落ち着いたようだが、TPPに盛り込まれた米国の自動車輸入関税(2.5%)の削減は先送りされる見込みと伝えられるなど、トランプ政権ペースで進んでおり、「ウィンウィンな形で進んでいる」との安倍首相の自己採点は甘すぎるとの見方も強い。

  • ホワイトハウス公式FBより。「ウィンウィン」を強調した安倍首相だが…
    ホワイトハウス公式FBより。「ウィンウィン」を強調した安倍首相だが…

トランプ大統領には「追い風」

   主要7カ国首脳会議(G7サミット)出席のため滞在していたフランス南西部ビアリッツで8月25日行われた安倍首相とトランプ大統領の会談で合意した。会談後の発表ぶりに、どちらが交渉を優勢に進めたのかが垣間見えた。

   両首脳が会談を終えた後、もう一度会って、その後に記者会見(共同記者発表)が設定されたが、急に決まったため日本の首相同行記者団が呼ばれず、西村康稔官房副長官が謝罪する事態に。また日本の外務省は当初、「2回会談」と発表したのを後になって「2回目に会ったのは打合せ」と訂正するなど、ドタバタ劇を演じた。いずれにせよ、大々的に発表したいというトランプ大統領のご機嫌ぶりが際立つことになった。

   肝心の合意内容は、詳しく公表されていないが、最大の焦点だった農産物で、米国が重視する牛肉や豚肉の関税を日本側がTPPの水準まで下げ、このうち牛肉関税はTPP参加国と同じ税率に直ちに引き下げ、輸入急増の場合の歯止め措置を設定する方向だ。

   いずれにせよ、日本が農産物の輸入拡大を約束したことは、2020年の大統領選に向け勝敗を左右するとされる中西部の農業州を絶対に取りたいトランプ大統領には追い風だ。

   一方、米国が輸入乗用車にかけている2.5%の関税は、TPPでは25年かけて撤廃することになっていた。日本は撤廃を求めているが、米国は拒否しており、自動車部品の関税を一部減らすにとどめる程度で最終的に決着するとの見方が一般的。そもそも米国は通商拡大法232条に基づき、「輸入車が米国の産業基盤を弱め、安全保障上の脅威となる」と認定済みで、いつでも制裁関税をかける構えを取りつつ、貿易交渉中の日本や欧州連合(EU)については11月まで発動の判断を留保している。米国は制裁関税の発動回避が「今回のディール(取引)の理由の一つでもある」(トランプ大統領)と、制裁関税ではひとまず日本に理解を示した。

「交渉戦略」のまずさ指摘する声も

   ただ、自動車は日本の対米輸出(2018年は15.5兆円)の約3割の4.5兆円を占める「稼ぎ頭」で、貿易赤字削減を最大の公約に掲げてきたトランプ大統領にとって、日本からの自動車輸入を減らしたいのが本音。日米会談後の会見でも、制裁関税について「現時点ではない」としつつ、「私がやりたいと思えば、後になってやるかもしれない」とも述べ、矛を完全に収める気配はない。

   このほか、米国への自動車輸出の数量規制が盛り込まれるという情報はないが、北米自由貿易協定(NAFTA)見直しでカナダ、メキシコとの新協定には数量規制条項が設けられた例もあり、日本として警戒を怠れない。

   通貨安誘導を禁じる「為替条項」については「為替の話が出ていないことだけは分かっている」(麻生太郎財務相、8月27日閣議後会見)と、貿易交渉に含まれないとの立場だ。

   以上をまとめると、日本の農産品輸入は基本的にTPPレベル、米国の自動車輸入はTPPで約束した関税撤廃は見送りないし先送り、制裁関税の発動回避の確約なしとなる。米国に有利といえるだろう。

   専門家からは、日本の交渉戦略のまずさを指摘する声も出ている。細川昌彦中部大学特任教授(元経済産業省貿易管理部長)は、「もともと、米国がTPPから離脱するという自ら招いた不利な状況を早急に解消したいことから交渉ポジションは日本が圧倒的に有利であった。にもかかわらず、交渉は最初から日本がカードを切ったせいで、立場が逆転してしまったのだ」と指摘し、日本が農産品関税のTPP範囲内と自動車の追加関税回避の「2点に交渉の勝敗ラインを設定した」ためと述べている(日経ビジネス9月3日)。

   交渉の細目はまだ不明な点が多く、予断を許さないが、協定がどのような仕上がりになるか、目が離せない。

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