2019年 12月 7日 (土)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
大統領をにらみつけた16歳グレタ・トゥンベリ

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Make America Greta Again

   どこかで見たようなスローガン?

   Make America Great Again(米国を再び偉大(Great)に)ではなく、米国を再びGretaに、というスローガンが米国で飛び交っている。

   グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)さん(16)は2018年8月、母国スウェーデンで学校の授業をボイコットし、二酸化炭素排出量削減を訴えて、ひとり座り込みを行った。その後も環境問題のために、ストライキを続けた。

   そんな彼女の熱意に世界が動いた。2019年9月20日から始まった一週間はGlobal Week for Future(未来のためのグローバル週間)と名付けられ、20日には世界中で400万人もの若者や大人たちが学校や職場を休み、「Fridays for Future(未来のための金曜日)」と呼ばれるデモを繰り広げた。

  • 国連気候行動サミットで演説するトゥンベリさん(UN photo/Cia Pak)
    国連気候行動サミットで演説するトゥンベリさん(UN photo/Cia Pak)

国連サミットで「よくもそんなことを」

   トゥンベリさん自身の25日付のツイッターによれば、これまでに170か国で6383のイベントが行われたという。

   そして、23日にはニューヨークの国連気候行動サミットで、各国の代表を前に演説し、大きな反響を呼んだ。

This is all wrong. I shouldn't be up here. I should be in school on the other side of the ocean. Yet you come to us young people for hope. How dare you! You have stolen my dreams and my childhood with your empty words."
「すべてが間違っているのです。私はここにいるべきではありません。私は海の反対側で、学校に通っているべきなのです。それなのに、あなた方は、私たち若者に希望を見いだそうと集まっています。よくもそんなことを。あなた方はその空っぽな言葉で、私の夢と子供時代を奪ったのです」

   気候行動サミットには、当初欠席する予定だったトランプ大統領が急きょ、短時間ながらも出席した。たまたま通りかかったトランプ氏に向けられた、トゥンベリさんの憎々しげな顔がSNSで拡散された。

   このあとトランプ氏はツイッターで、怒りに満ちた涙ながらの彼女の演説の画像を添え、皮肉を込めて「 a very happy young girl looking forward to a bright and wonderful future(明るく素晴らしい未来を夢見る、とてもハッピーな女の子のようだ)」と発言。トゥンベリさんは翌日、自身のツイッターのプロフィールを、トランプ氏のこの言葉に一時的に変更している。

地球温暖化の「原因」をめぐる対立

   16歳の少女が、世界的にこれだけ大きな影響を与えたことに対する賞賛の声は絶えない。米『TIME』誌が、2018年には「世界で最も影響力のあるティーンエージャー25人」に、2019年には「世界で最も影響力のある100人」に選んだ。2019年のノーベル平和賞候補にもなっている。

   今回の渡米でワシントンDCを訪れたトゥンベリさんと会談したオバマ前大統領は、「わずか16歳にして、すでに世界で最も卓越した提唱者のひとりだ」とツイートした。

   トゥンベリさんは、石炭火力発電を一刻も早く停止するなどして、近年の地球温暖化の主因とされる人為的な温室効果ガスの排出量を削減し、温暖化の危機的な状況から地球を救わなければと訴えている。

   「地球温暖化は太陽活動や水蒸気といった自然要因の影響のほうがはるかに大きい」、あるいは「地球は温暖化していない」などとする学説や意見もあるが、主流ではない。

    最近の米政府発表の報告書でも、「地球温暖化は、温室効果ガスの排出など人間の活動によって主に引き起こされたのは間違いなく、それ以外の説には根拠がない」としている。

   しかし、トランプ氏は科学的根拠を示していないものの、温暖化は人為的な原因によるとする意見に反対の立場を取っている。さらに、「強い政治的意図を持つ科学者が、温暖化懸念をあおっている」と主張している。

   米国は中国に次ぐ世界第2位の温室効果ガス排出国であるにも関わらず、トランプ政権は石炭・石油産業を優遇し、化石燃料重視の政策を追求。規制を次々に緩和し、環境問題に後ろ向きの姿勢を示してきた。

   あるトランプ支持者は、「オバマの時には環境規制が強すぎて、経済成長の妨げになった」と指摘する。

デモを認めた公立校、「左派に利用された子供」と批判するメディア

   ニューヨークの公立校は、今回のこのデモに参加する目的で、生徒たちが授業を欠席することを認めた。マンハッタンで行われたデモには、「PLANET OVER PROFIT(利益より惑星)」などと書かれたプラカードを手に集まったのは25万~30万人、若者主導のデモの参加者は6万人とも報道されている。

   デモに参加した高校生のリサ(17)は、「学校の成績より、惑星を救うほうがずっと大事だわ」と話す。

   保守的で共和党寄りのFOXニュースのコメンテーターは、これを「左派によって組織された政治的な抗議運動」と呼び、「そのために全米、いや世界中の子供たちが今日、学校をサボりました。ですから当然ながら、NSNBCは彼らを激励しています」と、リベラルで民主党寄りのNSNBCのコメンテーターが次のように発言している映像に切り替えた。

「私は別に学校をサボるのを、奨励しているわけじゃないんです。でも、授業より大事な目的があるとしたら、これがまさにそうじゃないですか。参加した諸君、よくやった。Congratulations!(おめでとう)」

   画面はFOXニュースのコメンテーターに戻り、「学校をサボって、おめでとう」と皮肉った。

    FOXニュースでは別のコメンテーター、マイケル・ノウルズ氏がトゥンベリさんについて、「両親や国際的左派に利用されている、精神的に病んだスウェーデン人の子」などと述べた。番組に出ていた別のコメンテーターに「君は大人だろう。子供を攻撃している。恥を知れ」と言われると、「子供を攻撃しているのではない。精神的に病んでいる子供を利用している左翼を攻撃しているんだ」と切り返した。

   この発言で激しい批判を浴びたFOXニュースは、「ノウルズ氏のコメントは恥ずべきものだった」と謝罪し、今後は番組に出演させないことを明らかにした。

   これに対して視聴者からは、「ノウルズ氏は事実を語っただけだ。FOXはリベラルの抗議に弱腰だ。FOXをもう二度と見ない」、「メディアも含めて左派は、政治に子供を利用している。将来、自分たちに投票してほしいからだ。子供を使うのは卑怯だ。子供を批判すれば、非難されるのだから」、「グレタは環境ヒステリーだ」などと反発の声があがった。

1年に迫った大統領選への影響

   トゥンベリさんは自身で、アスペルガー症候群、注意欠陥・多動性障害、強迫性障害、場面緘黙(かんもく)症と診断されたことを明らかにしている。障がいは自分の「誇り」であり「才能」であると述べ、ツイッターのプロフィールでも、「16 year old climate and environmental activist with Asperger's(アスペルガー症候群の16歳の気候環境活動家)」などと表現している。

   怒りを露わにしても、反対派の心を動かすことはできない。環境問題は複雑で、白か黒かではないし、時間もかかる。より包括的で現実的な視野が必要だ。左派や環境ビジネスの広告塔に利用されているだけだ――。

   こういった批判もある。が、彼女の率直さ、怒り、攻撃性に抵抗を覚える人がいる一方で、それがあったからこそ、これだけ多くの人に地球温暖化問題を突きつけたのだろう。

   米大統領選まであと1年。今回の大きなうねりは選挙戦に影響を与えるのか。それとも一時的な盛り上がりで終わるのか。スウェーデンの16歳の少女に火をつけられた米国での環境問題をめぐる闘いは、まだ始まったばかりだ。(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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