2024年 4月 19日 (金)

中国・黄土高原に「緑」よみがえった 地球温暖化の思わぬ影響

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   中国の新華社通信が最近、「真正的大事(真の一大事)」という大きな見出しを付けた記事を流し、中国内で話題になった。

   黄土高原や砂漠が広がる寒冷・乾燥地帯で、昔から「貧困、不毛の地」と言われた中国西北地域が、「温暖湿潤地帯に変わりつつある」という。地球温暖化の影響が大きいとみる科学者の見解も伝えられた。

  • 「不毛の地」と呼ばれる黄土高原
    「不毛の地」と呼ばれる黄土高原
  • 「ヤオトン」と呼ばれる黄土高原独特の洞穴式住居。周りに結構緑も増えてきた(山西省介休市)
    「ヤオトン」と呼ばれる黄土高原独特の洞穴式住居。周りに結構緑も増えてきた(山西省介休市)
  • 「不毛の地」と呼ばれる黄土高原
  • 「ヤオトン」と呼ばれる黄土高原独特の洞穴式住居。周りに結構緑も増えてきた(山西省介休市)

「変動」示す数字が次々に

   2019年9月18日に配信された記事の概要は――。

「陝西省など西北各省、自治区の気象関連部門によると、西北一帯で1961年以降気温上昇の傾向が見られ、大部分の地域で降水量が増加。2000年以降、この傾向はさらに顕著になっている」
「甘粛省気象局副局長によれば、祁連(きれん)山脈の主峰の祁連山では、1973年以降10年ごとの平均気温が摂氏0.45度ずつ上昇。全国平均や国際平均を明らかに上回った数字だ。同省では昨年、過去60年間で2番目に多い降水量を記録し、植物被覆率も過去18年間で最高になった」
「甘粛省・天水市では野菜の作付け地が海抜の高い土地に移っている。海抜1500メートルで季節外れの時期に実った作物を出荷し、昨年146万元(約2200万円)を稼いだ農民もいる」

   この報道に呼応するように、その他のメディアも、次々に「気候変動」に関する話題を伝えた。私の目に留まった中国気象局による「全国生態気象官報」の報道によると、黄土高原に位置する延安地域では森林被覆率が2017年には46%に達したという。黄土高原は日本にも飛来する黄砂の主な発生地だ。その緑化にはこれまで、日本政府も円借款を供与したり、日本の民間団体がボランティアで熱心に協力したりしてきた。

   こうした地域の緑化の理由について、新華社は「中国科学院」の報告書や中国気象局気候変化特別顧問のコメントに基づいて、「地球温暖化の影響が根本原因とみられる」と伝えた。元々西北地域にはアラビア海とインド洋から蒸発した水蒸気が流れ込んでいたが、温暖化の影響でその量が増加。さらに最近は北極海から流れ込む水蒸気も増えているとみられ、それらが降水量増加につながっているというわけだ。

最大の「負け組」は上海?

   地球温暖化の中国への影響をまとめた資料を改めて調べてみたところ、「中国科学院」は2014年に発表した「チベット高原環境変化の科学的評価」で、「チベット高原では今後、気候変動による温暖化、湿潤化の傾向が一層鮮明となる。2050年前後には西北地域全域で渇水がなくなるだろう」と早くも指摘していた。

   西北地域の人々は、「大唐時代の繁栄回復が現実的になった」と喜んでいるようだ。唐の都、長安はいまの陝西省西安。陝西も甘粛もいまでは「不毛」のイメージが強いが、約千年前の唐の時代には、一帯の植生被覆率は現在の江南地域とほぼ同じだったという。豊かな自然があって初めて、多くの人口に食べ物を供給できる農業が可能となり、にぎわいが生まれたわけだ。

   繁栄回復はともかく、緑化は確かに喜ばしい。ただ物事には必ず表裏があり、全国民がこぞって喜んでいるわけではない。最新の『中国海水面官報』によれば、1980年から昨年までの間に、中国沿海の海水面は年間3.3ミリずつ上昇しており、これは同時期の世界平均を上回っているという。沿海地区がじわじわと脅威を受け始めていることを意味する。特に上海のここ30年間の沿海海水面上昇は115ミリで、全国平均よりはるかに大きい。中国で地勢が最も低い都市である上海は、温暖化による最大の「負け組」になるかもしれない。

   西北にとっても気候変動はプラス面ばかりではない。新疆ウイグル自治区タクラマカン砂漠のはずれにあたる且末県では、19年6月26日の降水量が48.7ミリに達した。同地の年間平均降水量は20ミリほどで、6月の平均は6ミリ。この日はわずか10時間で2年分の雨量を記録する異常気象だった。また、チベット自治区でも溶解した氷河が崩れ落ち、人や動物が巨大な氷塊の下敷きになる被害も発生している。

   不毛の地の緑化という「一大事」を通じて、地球は人類に何事かを伝えようとしているのかもしれない。

(在北京ジャーナリスト 陳言)

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