2024年 4月 27日 (土)

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(11) 「中国式」の力と限界

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春節の伝統行事で感染が一気に拡大

   吉岡さんは、まだ感染がピークを迎える前の1月25日、朝日新聞のコラム「多事奏論」で、「新型肺炎 『忖度』はウイルスを広げる」という文章で、早くも中国における「情報隠し」に警鐘を鳴らしていた。

   コラムは、新型コロナ調査で武漢市に赴いた専門家チームのリーダーが、鍾南山氏(84)であることに、まず注目する。習近平国家主席が封じ込めを指示した同20日、当局が認めてこなかった「ヒトからヒトへの感染」を国営放送の取材で初めて明言した。

   中国の呼吸器医学会を代表する鍾氏は、吉岡さんが上海支局に赴任して間もない2003年に「SARS(重症急性呼吸器症候群)」を取材した時にも、重要な役割を果たした。広州の病院で治療にあたっていた鍾氏は、実態を隠して幕引きを図る政府に対し、「医学的には抑え込んだとはいえない」と声を上げ、地方政府のごまかしなどを批判して英雄視された。

   その鍾氏は、2010年の新型インフルエンザでも各地を視察し、「死者数の発表は信じられない。ごまかしている地域がある」と述べ、「情報の透明性と公正さが感染拡大を防ぐ大前提」だと直言した。

   今回も重要な局面で起用された。吉岡さんは、習政権が「人々に情報を信じてもらい、部下や地方政府にウソをつかせぬよう、鍾氏の信用を使ったのだろう」と推測する一方、この日を境に地方政府発表の患者数が急増した事実を指摘する。

   吉岡さんは、胡錦涛前政権発足時に起きたSARSの流行時に、感染そのもの以上に「情報隠し」が国民からの強い反発を招き、政権は良心的な医師らの声を評価することで、感染症の蔓延が反政府運動に向かうことを食い止めた、という。だが習政権で言論の統制は強まり、ネットは監視の道具となった。政治闘争を兼ねた腐敗撲滅では成果をあげたが、政権内の異論封じが「過剰な忖度」を招くようになった、という。自らの専門分野で、権力におもねらず自らの考えを述べる人の声は、いざというときに説得力を持って響く。「逆に言えば、こうした人々の存在は、国家や組織の統治の危機管理としても必要なのだ。トップが目を背けたくなる事実を遠慮なく提示できる専門家は、社会の力だと思う。なにも、中国だけの話ではないけれど」。コラムはそう結ばれている。

   このコラムには、吉岡さんの対中取材の姿勢がよく出ていると思う。吉岡さんは、中国の人権侵害や言論統制の実態を厳しく追及する一方、当局者や共産党員でありながら、まっとうな発言を続けている人々の声にも耳を傾け、「問答有用 中国の改革派19人に聞く」(岩浪書店)などにまとめてきた。

   では、今回のコロナ禍で、吉岡さんは現段階で、政権の対応をどう評価するのか。吉岡さんは、封鎖が続く人口1100万人の武漢市にとどまり、身辺の出来事や社会への思いを率直にブログで発信し続けた作家方方さんの「武漢日記」を精読し、知人らへの取材を通して、次のように言う。

「すでに昨年12月には、武漢でウイルスが広がっていることは、一部の市民の間で知られていた。しかし、1月20日に習主席が封じ込めを指示し、続いて法定伝染病に指定し、23日に武漢を封鎖するまで、当局はヒトからヒトへの感染のアラートを出さず、感染拡大を招いてしまった。この3週間の初動の遅れが決定的だった」

   武漢中心病院に勤務する眼科医の李文亮医師は昨年12月30日、医師らでつくるSNSのグループチャットに「7人がSARSにかかり、私たちの病院に隔離されている」と投稿した。これを問題にした警察は1月3日に李医師を呼び出し、社会秩序を乱す発言をしたとして訓戒処分にした。国営メディアも、「原因不明の肺炎についてデマを流し、8人が処分された」などと報道した。だが同9日、当局は新型コロナウイルスが検出されたと発表し、李医師の指摘が正しかったことが証明された。治療にあたった李医師は同12日に感染の疑いで入院し、呼吸器をつける自分の画像をSNSに投稿するなど警鐘を鳴らし続けたが、2月7日に病院で亡くなった。

   李医師の告発は、1月下旬には中国メディアにも広く取り上げられ、SNSには「勇敢な行動だった」という声も広がった。

   しかし、こうした告発を無視し、むしろ黙殺した地方当局は、春節を迎える前の1月下旬、武漢の伝統行事「万家宴」を中止せずに感染の拡大を許した。これは武漢中心部の巨大集合住宅で、数万の住人が食事を持ち寄って春節を祝うこの大宴会で、これによって感染は急速に市中に広がったという指摘もある。

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