2024年 4月 24日 (水)

ポテサラ、冷凍餃子は「手抜き」? 識者が指摘する「手作り信仰」と解決策

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   「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」「冷凍餃子は手抜きだよ」。ここ最近、料理をめぐる価値観の違いに辟易したとの訴えが、SNS上で共感や怒りとともに注目を集めた。

   出来合いの総菜や冷凍食品は「許せない」と考える人は一定数いるとみられ、識者は背景に "手作り信仰"があるという。料理の大変さを共有するにはどうすれば良いのか。

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「手料理のほうが愛情深い?健康に良い?」

   2児の母親を名乗る女性が2020年8月4日、ある日の夕食での不満をツイッターに投稿したところ、大きな反響を呼んだ。

   この日は夕食を作るのがつらかったため、冷凍餃子を食卓に並べた。3歳の長男が「ママ餃子美味しい!」と喜んだのも束の間、夫がすぐさま「手抜きだよ。これは れ い と う っていうの」と言い放ったという。

   夫はほとんど料理をせず、「米を炊くのとインスタントラーメン作るのしか見たことない」。女性は「作れもしないくせによく良いますよね‥‥」とあきれ、「この人ポテサラじいさん予備軍みたいなんで埋めるか打ち上げて良いですか」と嫌悪感いっぱいに書き込んでいる。

   "ポテサラじいさん"とは、先月に注目を集めたツイートを指すとみられる。スーパーの惣菜コーナーで「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と高齢男性が女性に絡んでいた、との目撃談だ。

   これらの男性のように、出来合いの総菜や冷凍食品など、"手作り"でない料理を「許せない」人は一定数いるようだ。

   ネット掲示板では、「冷凍食品を弁当に入れるのはダメと姑から苦情がきました...」「お惣菜を夕飯に出したら文句タラタラの旦那。お惣菜がそんなに悪いですか!?」「手料理のほうが愛情深い?健康に良い?先入観の押し付けが辛い」と悩みを打ち明ける投稿が複数見つかる。

「手抜きでなく手"間"抜き」冷凍食品メーカーが反応

   女性のツイートに関連して、冷凍餃子を販売する「味の素冷凍食品」(東京都中央区)の8月6日のツイートも話題となった。投稿から約1週間で約10万リツイート、30万「いいね」されている。

   冷凍餃子を食卓に出すのは「『手抜き』ではなく『手"間"抜き』ですよ!」と呼びかけ、その理由を「工場という"大きな台所"で、野菜を切って、お肉をこねて、皮に餡を包んで...という大変な『手間』をお母さんに代わって丁寧に準備させていただいています」と説明した。

   その上で、ツイッター担当者の率直な意見を交えて、母親にメッセージを送った。

「で、その下ごしらえの『手間』を代わることで生まれた時間で、世の中のお母さんは何をしているかというと、目の前でダダをこねるお子さんを抱きしめたり、勉強を頑張るお子さんの宿題をみてあげたり、遠くのご家族と電話したり..."誰かのため"に使っていることが多いと思うんです」
「だから『手抜き」じゃなく、『手間抜き』だと声を大にして言いたい!私も2児の母ですが、惣菜ポテサラも冷凍餃子も...使うことに何の罪悪感もありません!これからももっと前向きな気持ちで使っていただけるようお伝えしていきますので、引き続き、応援いただけると嬉しいです!」

料理の大変さを共有するには

   東京大学教授で、食品CMに関する著作もある瀬地山角氏(ジェンダー論)はJ-CASTニュースの取材に、冷凍餃子、ポテトサラダをめぐる問題の背景には「手作り信仰」があるという。

「奇妙な規範で、料理は手作りでなければならないと思いこんでいる。むしろ買ってきたほうが美味しい場合があるのに、許されないとなる。それを作る側も内在化している。合わせ調味料のような商品は、作ったふりができて罪悪感を減らしてくれる」
「日本の歴史上、専業主婦の比率が一番高かったのは団塊の世代なので、その層は規範を内在化している人が少なくない。その世代を含めて、50、60代以上の男性は料理ができない人が多く、当然準備されているものとの感覚が強い」

   "信仰"をなくすためには、どうすれば良いのか。瀬地山氏は「冷凍餃子、ポテトサラダの件も、普段料理をしないからどれだけ手間かわからず、あのような勝手なことを言ってしまう。理解させるには、『じゃあ作ってみて』と言い返したり、『夕食ストライキ』するなどしたりして、彼らを作る側にすることだ。休日のカレーといったレベルではなく、毎日の夕食を回す経験をすれば、おのずと手作りの面倒さが理解できる」と話す。

   なお、瀬地山氏は味の素冷凍食品のツイートに苦言を呈している。

   「大変な『手間』をお母さんに代わって丁寧に準備させていただいています」などの文言によって、「料理は女性がすべきもの」とのステレオタイプ(固定観念)を強化してしまい、「味の素の『応援』が、同じように母親を追い詰め、父親を免罪している。大企業が堂々と固定的性役割分業を追認したもので、元のツイートが母親からの発信だったから、といった言い訳は通用しない」と指摘した。

メーカー「多くのご反響をいただき、とても勉強に」

   味の素冷凍食品のツイッター担当者は取材に、母親に限定してメッセージを発信した意図を「全国の『冷凍食品が調理の手抜きだ』という意識を持つ旦那様に向けたメッセージであったため、『全国のお母さん』という表現で記載させていただきました」と説明する。

   瀬地山氏の指摘については、

「今回、ありがたいことに大変大きな反響をいただき、とても驚いております。その中の一部には、上述の趣旨のご指摘もあることは認識しており、弊社もお一人お一人のご意見を大切に受けとめております。現在コロナ禍で学校が休校になったり在宅勤務になったりして、女性の家事負担が重くなっているという調査結果があり、そうしたお母さんを応援したいという気持ちがつい強く出てしまいました」
「しかし性別や既婚未婚にかかわらず、誰もが自分や家族の時間を作るために、冷凍食品を使うことに後ろめたさを感じてほしくない、どのような食事でも食べる時に感謝の気持ちを持ってほしいという願いを込めたツイートでした。今回の投稿で皆様から多くのご反響をいただき、とても勉強になりました。ゆるさを前面にツイッターを運営してきましたが、ツイッターの拡散力の大きさも実感しており、今後は誤解を生まぬよう、発言により気を付けていきたいと思います」

と答えた。

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