2024年 4月 20日 (土)

なぜ久保建英は退場したのか?取り消しの可能性は? 賛否の「2枚目イエロー」を審判批評家が分析

   サッカー・スペイン1部ビジャレアルの日本代表MF久保建英(19)がイエローカード2枚で「退場処分」を受けた判定をめぐり、賛否が分かれている。結果的に相手選手の太ももに足が入ったが、先にボールに触れたのは久保。ファウルは故意ではなかったという声は少なくない。ビジャレアルのウナイ・エメリ監督も処分の取り消しを要求する意向だと報じられている。

   久保の退場は妥当な判定だったのか。なぜイエローカードが出されたのか。審判批評家で、DVD「審判」のプロデュースも手がけたサッカージャーナリスト・石井紘人氏が分析する。

  • 久保建英がイエローカード2枚でレッドカードを受けた(画像はイメージ)
    久保建英がイエローカード2枚でレッドカードを受けた(画像はイメージ)
  • 久保建英がイエローカード2枚でレッドカードを受けた(画像はイメージ)

「『チャレンジの仕方』が問われます」

   久保は2020年10月18日、リーグ第6節バレンシア戦(2-1)に後半19分から途中出場。同24分にヒールパスでMFダニエル・パレホのゴールを演出したが、その後30分足らずで2度の警告(イエローカード)を受けて退場した。まず27分、相手のロングボールに、久保が胸の高さほどまで左足を上げると、やや屈んでヘディングしようとした相手DFホセ・ルイス・ガヤの頭に当たり1枚目のイエローを受ける。

   そしてアディショナルタイム、相手陣内でボールを受けた久保だが、ドリブルのタッチが長くなり、自ら左足でスライディング。そこにほぼ同じタイミングで、相手MFカルロス・ソレールもスライディングしに行った。先にボールに触ったのは久保だが、直後に久保の左足裏がソレールの右太ももに当たりホイッスル。2枚目のイエローカードが提示され退場となった。こうした退場劇、特に2枚目の判定をめぐっては、久保がソレールより先にボールに触れたことなどから賛否が分かれた。

   2枚のイエローカードは妥当な判定だったのか。石井紘人氏はJ-CASTニュースの取材に「1枚目のイエローは仕方がない。かと言って一発レッドでもなく、妥当な判定だと思います」とするも、2枚目の場面については「難しいですね」と話す。石井氏は(1)久保のスライディングで審判が重視したポイント(2)一発レッドではなく2枚目のイエローだったこと(3)試合を通じたジャッジの傾向――という観点からこのシーンを分析する。まず(1)の点についてこう話す。

「スライディングの時、久保選手とソレール選手はボールに対して50:50くらいの距離でした。リプレーを見ると久保選手はスライディングでボールを触った後、相手が来ているのが見え、『足を畳もうとした』と思います。しかし畳み切れず、畳もうとした動きが、主審の心証としてはおそらく『足を上げた』ように見えた。実際、久保選手の足裏が太ももをスパイクしてしまっています。なので主審は『無謀な方法でのプレー』という判断で警告を出したのでしょう。

先にボールに触ったのが久保選手だったことは、レフェリーも見ているはず。ただ、先に触れば何をしてもいいわけではなく、『チャレンジの仕方』が問われます。レフェリーとしては、久保選手が相手を顧みずに無謀な方法でチャレンジしたと判断し、警告としたのでしょう。

意見が分かれる一番の理由は、この視点の違いだと思います。久保選手のチャレンジを見ている人には『警告でも仕方ない』と思うし、久保選手のプレーの結果と足の入り方を見ると『それほど危険じゃない』と考える。レフェリーによっても、全員がイエローを出すという場面ではないでしょう」(石井氏)

「2枚目のイエローのはVARが介入できません」

   続く(2)の点について、「2枚目のイエロー」だったことの影響をこう語る。

「退場処分といっても一発レッドではなく、2枚目のイエローの場合はVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入できません。主審も振り返って映像を見たら、『警告は厳しいかもしれない』と思うかもしれませんが、流れの中で見れば、久保の足がガーンと相手に入ってしまっていたので、警告を出したのは理解できます。

1枚目か2枚目かでイエローを出すか出さないかというのは、レフェリーは多少考えるかもしれませんが、少なくともこのシーンについてはあまり関係ありません。今回のようないわゆるラフプレーでイエローを出さないでおくと、もし次に仕返しのようなシーンがあった時にまたカードを出さないのか。そう考えると、主審がラフプレーだと判断すれば2枚目だろうと空気は読まずに出すでしょうね。

特にこの試合を担当したカルロス・デル・セロ・グランデ主審はFIFA(国際サッカー連盟)の国際レフェリーです。FIFAのレフェリーはファウルを厳しく取る傾向があります」(石井氏)

   そして(3)の点。石井氏は「この判定だけを見ると意見が分かれるでしょう」と繰り返す一方で、「考えておきたいのは、主審はこの試合で結構カードを出していたということです」とも指摘する。この試合は前半5分にビジャレアルがPKを得たほか、両チーム通じてイエローカードが合計5枚出た。

「試合を通じて結構厳しめにジャッジしています。また、久保選手は足裏で相手の頭に行ってしまった1枚目のイエローで、レフェリーの心証を悪くした可能性もあります。2枚目も足で強くスライディングしている。久保選手はレフェリーもそれほど情報を持っていない選手ですから、1枚目のプレーが心証に影響したという見方もできます。

こうした全体の流れを考えると、久保選手の2枚目のイエローのプレーだけが全然違う判定だったようには見えず、イエローを出したことは理解できます。試合全体で統一されたレフェリングだったと思います」(石井氏)

取り消し要求は「パフォーマンス」の面も

   スペイン紙「アス」の報道によると、エメリ監督は試合後の会見で「久保は2枚のイエローカードで退場したが、まったく普通ではないカードだった」として、処分の取り消しを要求する意向を明かしている。退場が取り消される可能性はあるのか。

「今回は覆る可能性はほぼないと思います。審判がプレーをよく見ていなかった場合もあるのでゼロではないですが、基本的に審判が試合中に下した判定が覆ることはほぼありません。

(取り消し要求については)外向けのパフォーマンスという面もあると思います。私がイングランド・プレミアリーグのレフェリーの方々を取材した時に『戦略として審判批評する人もいるから真に受けないように』という話を聞きました。監督はチームをコントロールするため、マネジメントの一環で審判に矛先を向けることがあります。今回(エメリ監督)も久保選手を守るために、『そんな悪質なプレーではなかった』と主張している部分はあるでしょう。本当に覆したいと思っているかどうかは分かりません」(石井氏)

   久保は昨季所属していたマジョルカ時代から守備に課題があると指摘されている。石井氏は今回の退場シーンについて「久保選手は足を畳もうとしている意図が見えたので、私個人としてはかわいそうだったなとは思います。ただ、ああいったファウルは欧州だと注意深く見られます。スペインでプレーしていくにあたって、ボールが流れた時のチャレンジの仕方は注意しないといけません」と話していた。

(J-CASTニュース編集部 青木正典)

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