大手学習塾「臨海セミナー」に同業19社が抗議 「悪質勧誘」「合格者水増し」告発される 【追記あり】

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   大手学習塾「臨海セミナー」を運営する「臨海」(神奈川県横浜市)に対し、同業他社が業務改善などを求める申入書を送付していたことが2020年12月8日、関係者への取材で分かった。

   臨海社員による「当社が行っている強引な生徒勧誘や合格者作りの手法には社会的に容認できない」などとする内部告発を受けての措置で、早急な対応を求めている。

  • 臨海セミナー
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  • 生徒リストの一部。申し入れ企業の塾に通う生徒も多数掲載されている。リストには1000名以上載っており、ステップの塾生は約300人いたという(提供:臨海社員)
    生徒リストの一部。申し入れ企業の塾に通う生徒も多数掲載されている。リストには1000名以上載っており、ステップの塾生は約300人いたという(提供:臨海社員)
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「モラルに欠ける行為と言わざるを得ません」

   申入書は12月3日、東証1部上場の「ステップ」を幹事社とし、早稲田アカデミー、秀英予備校、中萬学院、エイサイコミュニケーションなど19社が連名で送付した。

   申入書によれば、臨海セミナーでは塾生から「『学校の友人の中での成績優秀者』の名前・塾名・志望校など」の個人情報を聞き出し、それをリスト化している。掲載された成績優秀者には、塾生を通じて模試やアンケートを渡し、模試や講習などの申し込みにつながれば、塾生は金券類がもらえる。

リストの一部。申し入れ企業の塾に通う生徒も多数掲載されている。リストには1000名以上載っており、ステップの塾生は約300人いたという(提供:臨海社員)
リストの一部。申し入れ企業の塾に通う生徒も多数掲載されている。リストには1000名以上載っており、ステップの塾生は約300人いたという(提供:臨海社員)

   こうした手法に対し、申入書は「個人情報の利用目的を明確に告げていない点、相手の生徒及び保護者の同意を得ることなく、挙げられた情報を蓄積している点で違法の可能性が高いといえます。生徒を導く立場にありながら、法的知識の不十分な未成年の生徒を、違法ともいえる個人情報収集に利用しているという点においても、極めて問題があるものと思料します」と強く非難する。

   さらに入試直前には、他塾に通う生徒を籍はそのままで「特待生」(難関校の受験、結果の報告、広告掲載などを条件に、授業料が一定額免除される制度)として勧誘しているとも指摘。もしこの生徒を合格実績としてカウントしている場合、「自塾の合格実績だけを増やそうという意志を強くもった組織的な行為と考えられ、モラルに欠ける行為と言わざるを得ません」と切り捨てた。

   全国の学習塾でつくる「全国学習塾協会」が定める自主基準では、合格実績に含むことのできる塾生徒の範囲を「受験直前の6か月のうち、継続的に3か月以上在籍し、かつ受講時間数が30時間を超える」としている。

   大手学習塾が公式サイトで公表する合格実績には、

「(上記の自主基準に該当しない)講習・体験・テスト・その他講座のみを受講した生徒は一切含んでおりません」(栄光ゼミナール/中学入試)
「模試だけの生徒や短期講座のみの生徒は含まれていません」(河合塾Wings/高校入試)
「合格実績に講習生を含めるなど論外です。短時間の講習を受けただけの合格者を予備校の実績とすることは適切ではありません(中略)通期講座1講座以上にあたる教育サービスを受けた生徒のみを対象とした、厳格な合格実績としています」(東進ハイスクール/大学入試)

などと生徒の定義を示しているケースが目立つが、臨海セミナーは中、高、大いずれも見つからない。

   19社は、「当塾の生徒が記載されている名簿について貴社が今後、破棄、生徒名などの個人情報を削除する方針、措置を採る意思があるか」「上記の情報を今後の勧誘活動に使用しない方針、措置を採る意思があるか」――の2点への回答を求めている。

「フェアな形で共存共栄、切磋琢磨していきたい」

   ステップの高瀬裕之広報担当取締役は8日、J-CASTニュースの取材に「私たちとしては、業界の自浄作用が促されるような方向にしていきたい」と申し入れの理由を話す。

   ステップでは、今年7月ごろから「臨海セミナーから執拗(しつよう)に勧誘を受けている」との相談が塾生から多数寄せられ、メールマガジンなどで注意喚起していた。

「塾生から聞いた話では、同じ学校の部活の友達(臨海生)から『この模試を受けて欲しい。図書カードをもらえるから協力してくれないか』と言われ、その生徒も軽い気持ちで問題を解いて渡したところ、成績表と広告が送られてきたそうです。

その後も、『今度は学校対抗で点数を勝負をしていてあなたは成績優秀だからぜひ協力してくれないか』と言われ、同じように渡したところ、臨海さんから連絡がきて『成績表を渡したいからうちまできてくれ』と言われたそうです。弊社で注意喚起していたので本人も断ったのですが、郵送で成績表と特待生の認定書が送られてきたそうです」
「ほかにも、臨海さんから『問題を郵送します。オンライン上で解説が見られるのでお好きな時にどうぞ』という電話が来て了承すると、『形だけのものですので書類を書いて下さい』と書類が郵送されてきて、記入して返送したら臨海の内部生になっていたとの報告もありました」

   申し入れの契機となったのは、臨海セミナーの現役講師が11月下旬、受験情報サイトで「当社が行っている強引な生徒勧誘や合格者作りの手法には社会的に容認できないものがある」などとして、内部の実態を告発したためだ(「神奈川大手塾勤務講師、強引な勧誘・合格実績水増しを告発」/カナガク)

   ステップは内部告発を受け、塾生からの相談内容や臨海から転職してきた社員へのヒアリング結果も踏まえて抗議を決めた。他社にも呼びかけ、弁護士に相談の上で申入書を作成した。

ステップの調査資料。塾生・臨海元講師の証言などが綴られている(提供:ステップ)
ステップの調査資料。塾生・臨海元講師の証言などが綴られている(提供:ステップ)
「このようなやり方が当たり前だと思われるのは残念ですし許せないです。多くの塾は生徒と真摯に向かい合って、生徒の志望を実現できるように一生懸命教えているはずです。こういったことにエネルギーを注いで実績を上げようとするのはどうなのか。フェアな形で共存共栄、切磋琢磨していきたい。19の塾は同じ思いです」(高瀬氏)

入塾見込みの生徒は「弾」

   上記の告発を行った東原優紀さん(仮名)も取材に応じ、自社の問題点を次のように整理する。

   臨海セミナーでは日常的に、講師が塾生から学力の高い学校の友達を聞き出し、見込み顧客リストを作成する。営業活動に生かすためだ。「もちろんリストに挙げられた生徒たちは、自身の個人情報が組織的に集約されていることは知る由もないです」。リストの人物を弾丸に例えて「弾」と呼ぶ社員もいるといい、入塾の可能性が高い生徒は「熱弾」と呼ばれる。

   講師と親しい塾生を中心に、雑談やアンケートの中から情報を集める。「学校で勉強ができる子トップ3を教えて」「中3で塾に通っていない友達は、費用的な問題があるのかもしれない。臨海の講習は無料体験だからそんな友達も来れるはず。君は生徒会長だから、そういう友達のことも考えてあげた方がいいと思うよ。ぜひ臨海の無料体験を紹介してあげてほしい。君にしか頼めないんだ」などと声をかける。

   トーク集があり、実演研修もする。塾生には利用目的は伝えず、東原さんは「子どもとの信頼関係の悪用ですよね」と声を落とす。

   リストの生徒には、「この前アンケートに書いてくれた○○君ってどんな子?君の友達なら一緒に授業をしたいな。これ(文房具などが入った入塾パンフレット)渡してくれると嬉しい」などと塾生に依頼し、コンタクトを図る。

「会社は生徒を人として見ておらず名簿としか見ていないので、いくら社内で働きかけても上には伝わらないです。上層部にはすぐに意識を変えて欲しい。塾の本道にかえって、正々堂々とやってほしい」

   勧誘活動が過熱する背景には、地域単位で、入塾者数の「伸び率レース」があるためだ。

「下位だと翌週は出勤時間が早くなったり、休日返上で『動員リスト』(問い合わせのあった客や退塾者などの名簿)にガンガン電話営業をすることになります。なので、授業をアルバイトの大学生講師に頼み、その間に専任(社員)講師がひたすら電話をかけることもあります」

   東原さんは「行き過ぎた営業を続けていけば、自分たちが損をする。評判も下がっていくと思う」と訴える。

「適切に塾選びをする権利を奪うことにつながります」

   合格者の"水増し"については、「リストに載った他塾の優秀生に模試を渡し、結果を知らせるとの口実で来校してもらいます。そこで授業料免除の特待生に認定し、その後、簡単な個別指導や質問対応をすればカウント対象となります。ほかにも、短期間の特別講座を受講した生徒も含みます」と手口を明かす。

「ちょっと通わせてカウントするというのは、『うちではトップ校と呼ばれる学校に合格させられないから他から集めてます』と言っているようなものではないでしょうか」
「うちで出した合格者数と他の塾で出した合格者数を足し算すると、入学した子よりもはるかに多くなりかねない。そうなると塾業界の信頼にかかわります。合格実績で比較できなくなるからです。消費者が適切に塾選びをする権利を奪うことにつながります」

   東原さんの問題意識は、ステップが複数の元臨海社員に実施したヒアリングでも異口同音に語られた。

   ある元社員は、

「こうした環境にいると自然とそれが自分の中に染み込み、世間一般の良識や常識を塗り替えていってしまい、数字を出せばほめられて、それだけが正義になります。素直で真面目な若手は染まるのも早く、壊れて退職していく流れになります。基本的にブロック長以上の人間は対話でマウントを取るタイプの人間がほとんどで、人の話をまったく聞きません。それこそ上司が言えばカラスも白くなります。

そんな中で追い詰められた日々を送っていくと、立場に比例して自分の人間力・実力が高まったと勘違いする人間も少なくありませんでした」

と証言し、別の元社員は「自分がやってしまった行為は社会的に恥ずべき行為であり、塾講師としてのモラルに欠けるものだと思います」と後悔を口にする。

   臨海側の受け止めはどうか。同社に、告発文の内容などについて取材を申し込むも、「内容を確認させて頂いた上、弊社内で検討させて頂きましたが、今回の取材をお受けする事につきまして、見送らせて頂く事となりました」と回答。理由については「冬期講習直前での繁忙期のため時間をとることができない」とした。

(J-CASTニュース編集部 谷本陵)

   ※本テーマについての情報提供は、https://secure.j-cast.com/form/post.htmlまでお願いします。

   (17日16時追記)臨海、ステップは17日、「両社は今後、生徒の学力の充実を通した社会への貢献、そして学習塾業界の健全な発展のためにお互い透明性のある競合関係のもとで切磋琢磨していくことで合意したことをご報告いたします」と共同声明を発表した。

   臨海は「営業運営方針」も掲載し、「全職員で共有し徹底し運営していくことを宣言します」として次の4点を示した。

「一、過去の合格実績について、これまで「自主基準」を公表してこなかったことで、一部誤解や疑問を招いたため、今後は透明性の確保に取り組みます。『授業力・面倒見・モーレツな学力アップ』。学習指導と営業行動を両立し、信頼向上・在籍増に結びつく合格実績の輩出を目指します」
「二、『営業の基本はリスト管理』 プライバシーマーク、JAPHICマークの内容に則り、個人情報の収集、蓄積については、個人情報保護法の精神を尊重し、特に未成年の生徒に依頼する情報収集については、その方法に十分留意します」
「三、これまでの勧誘に関して、一部行き過ぎた勧誘活動を反省し、ご迷惑をおかけした方々にお詫びするとともに、今後は結果と共にそのプロセスを大切にし、社員教育の見直しに努めます」
「四、教育に携わるものとしての自覚とプライドを持つ社員による組織体制、営業体制を目指します。そのための人材育成には最大限の投資をしていくとともに、モラル・マナー・社会性のある会社組織を目指します」
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