2024年 4月 26日 (金)

アリババ・アントへの圧力 中国当局の本当の狙いとは

   中国IT大手「アリババ・グループ(阿里巴巴集団)」と中国当局の確執が注目されている。アリババ傘下の電子決済サービス「アリペイ」運営会社「アント・グループ」の株式公開(IPO)が土壇場で延期に追い込まれ、アリババ自体も独占禁止法違反に問われている。アリババ創業者、馬雲(ジャック・マー)氏が昨2020年秋、公然と金融当局を批判したのがきっかけとされるが、中国当局の思惑はどこにあるのか。

   アリババは中国のネット通販で5割を超えるシェアを握る。アントは、ネット通販と一体化して10億人超が使うアリペイのネット決済を担うほか、投資商品販売、消費者ローンといった様々な金融分野にも進出している。米国のGAFA(グーグル、アマゾン、アップル、フェイスブック)と並び称される中国を代表するプラットフォーマーだ。

  • アリババ・グループが向かう先は?(画像は同グループのサイトより)
    アリババ・グループが向かう先は?(画像は同グループのサイトより)
  • アリババ・グループが向かう先は?(画像は同グループのサイトより)

ジャック・マー氏が批判演説

   このアリババと当局の確執が表明化したのが昨秋。調達額が史上最高となる370億ドル(約3兆8000億円)というアントのIPO(上海・香港市場)について、公開予定2日前の2020年11月3日に、急遽延期され、一気に世界の耳目を集めるところとなった。

   その直接の契機になったとされるのが10月24日に上海であった金融関係のセミナーという公開の場でマー氏が行った講演。「中国には国民が安心して使える健全な金融システムがない」「中国の金融制度はイノベーションに大きな制約を加えている」などと痛烈に批判した。この報告書を呼んだ習近平主席が激怒し、アント上場を中止させるよう指示したと、米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルが昨秋に報じている。

   その後も様々な動きが続く。12月18日、中央経済工作会議という、中国共産党・政府の会議で「独占に強く反対し、無秩序な資本拡張を防ぐ」という方針を決めた。さらに、12月24日には国家市場監督管理総局(日本の公正取引委員会に相当)が、アリババ・グループを独占禁止法違反の疑いで調査を始めたと発表。26日には金融当局がアントを聴取し、規制に反した信用貸し付け、保険、資産運用業務の見直しなどを求めた。

銀行のような規制や監督を受けずに営む金融事業が巨大化

   実際には、何が問題なのか。アリババ成長の過程で、多くの小売店がつぶれたとの批判は従来からあったが、それ以上に、アントが銀行のような規制や監督を受けずに営む金融事業が巨大化し、実体経済にリスクを与えることへの懸念が指摘されていた。アリペイの支払いは通常、銀行口座にある現金の範囲内で行われるが、アントはこのほか、クレジットカード同様の後払い方式や個人向けキャッシングサービスも展開していて、そうした融資の総額は20年6月末時点で1.7兆元(約27兆円)にも達するという。

   アントは人工知能(AI)を駆使して融資条件を決めているが、実際の融資の大部分はアントから融資情報を受けた他の金融機関が行っており、アントは紹介手数料を受け取って稼ぎつつ、融資焦げ付きのリスクを金融機関に転嫁しているわけで、「こうした構造が問題視されているようだ」(大手紙経済部デスク)。

   もう一つ問題視されてきたのが「余額宝(ユエバオ)」という投資信託。公社債や短期の金融商品を中心に運用するMMF(マネー・マーケット・ファンド)の一種で、銀行より金利が高い。アリペイの電子決済では銀行口座のお金をアリペイに移して使うが、使いきれずに余った資金の受け皿になったのが余額宝で、2017年には2600億ドルと、世界最大規模の投信に成長。銀行からの資金シフトが起きたもので、さすがに危機感を深めた当局の意向を受け、翌年には1000億ドル減らしたが、当局とアリババの対立点として残り、その後の流れの遠因ともいわれる。

   GAFAに引けを取らないまでに成長したアリババは中国経済の成功を体現するが、当局にとっては、自分たちの影響が及ばないところで肥大化するのは好ましくない。特に、銀行以外の金融事業が拡大すれば、金融政策の効果が薄れ、金融システムが揺らぐ懸念も出てくるし、中国が進める「デジタル人民元」普及を阻害する可能性も指摘される。だから、規制の下での秩序ある成長を当局は求めるが、アリババにすれば、規制が成長を阻害すると考えるのかもしれない。当局にも、そこはジレンマだ。

   ジャック・マー氏は問題の講演後、表舞台から姿を消していたが、年が明けて2021年1月20日、慈善事業支援のイベントにオンラインで参加し、3カ月ぶりに建材をアピールした。ただし、50秒の短いメッセージを寄せただけで、本業については語らず、水面下で当局との綱引きが続いていることをうかがわせた。

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中