競馬×美少女でも「ウマ娘」とは正反対 10年前のJRA公認ゲーム「ウマドンナ」を今こそ振り返る

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   目下ブームのスマートフォンゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」より10年前に、「競馬」と「美少女」をコラボさせ、しかもJRA肝入りのゲームがあったことをご存じだろうか。

   そのタイトルは「My sweet ウマドンナ 〜僕は君のウマ〜」。2011年リリースのブラウザゲームだが、「ウマ娘」を180度ひっくり返したような世界観の作品だ。一方で人気の女性声優を起用、キャラクターとのコミュニケーションを楽しむという共通点もある。「ウマドンナ」はどんな時流の中で生まれたものだったか。何が「ウマ娘」とのブレークレベルの違いをもたらしたか。

  • 今となっては時代を感じる「ウマドンナ2」のスタート画面
    今となっては時代を感じる「ウマドンナ2」のスタート画面
  • 馬になったプレイヤーはこうして女性キャラクターとコミュニケーションを取っていく
    馬になったプレイヤーはこうして女性キャラクターとコミュニケーションを取っていく
  • 今となっては時代を感じる「ウマドンナ2」のスタート画面
  • 馬になったプレイヤーはこうして女性キャラクターとコミュニケーションを取っていく

プレイヤーが競走馬になる

   「ウマドンナ」は2011年12月11日にブラウザゲームとしてリリースされた。正真正銘、JRAから配信のウェブゲームコンテンツとして制作されたこのゲーム、プレイヤーが馬となってヒロインとコミュニケーションを進めていく美少女ゲーム、いわゆるギャルゲーであった。

   ヒロインキャラクターは厩務員の松田あすか(演:豊崎愛生さん)、調教師の夢路寿(演:佐藤利奈さん)、騎手の藤沢紅莉栖(演:遠藤綾さん)の3人で当時人気の女性声優を起用、「Uh!ウマドンナ☆☆」などの楽曲や、コミカライズ作品まで作られた。2012年には続編として、「My sweet ウマドンナ2 ~ウマすぐ Kiss Me~」も制作されている。

   「ウマドンナ」のこの世界観、「ウマ娘」とちょうど正反対ではないだろうか。プレイヤーはトレーナーとして史実の競走馬をモチーフにしたキャラクターのウマ娘を育成し、レースに勝つことを目指す「ウマ娘」。対して「ウマドンナ」はプレイヤーが馬になり、女性の厩務員・調教師・騎手に育てられてレースを目指す。

   「JRA公認のギャルゲー」と当時驚きをもって受け止められたこのゲーム、どんな内容だったかをゲームライターの林佑樹さんに取材した。

「JRA何やってんの!?」

   「JRA何やってんの!?というのが当時のインターネット上の反応でした」という林さん。この時期、ディープインパクトの引退やリーマンショックの影響で競馬人口が減っており、JRAは若年層の取り込みのために様々なコラボレーション企画を仕掛けていたそうだ。「ウマドンナ」に先立つ2010年にもゲーム「JAPAN WORLD CUP」をリリースしている。表向きはゲームで行われるレースの順位を予想してポイントを稼ぐゲームだが、出走する馬はハリボテでできたような外見の「ハリボテエレジー」、キリンのような「ジラフ」など珍馬ばかりの珍ゲームだった。そのようなコラボ企画の一つとして「ウマドンナ」があったという訳だ。

   とはいえ奇抜な話題性だけを追っていたのではないようで、声優やスタッフには当時の売れっ子が集結した。シナリオライターはライトノベル「ロウきゅーぶ!」の作者の蒼山サグさん、キャラクターデザインは「ブギーポップ」シリーズの緒方剛志さんが起用された。「ライトノベルブームの時代でしたから、ヒット作に関わっていた作家やイラストレーターを起用したのかなと思われます」(林さん)。シナリオの方は「テンポよく進んで面白かったですよ。セリフをプレイヤーが自由に書き込めることは当時としては画期的でした。キャラクターと双方向のコミュニケーションができたゲームで、ブラウザゲームとしてはよくできていました」という。

   それでもビッグコンテンツにはならず、2014年以降は動きもなく忘れられていった。

「ウマ娘」の源流は「擬人化ゲーム」「アイドル」「競馬」

   プレイヤーが競走馬になり育てられるのが「ウマドンナ」、プレイヤーがウマ娘をトレーニングしていくのが「ウマ娘」と、ゲームの世界観は奇しくもウマ娘とは鏡を介したかのようなウマドンナだが、「当時は擬人化ゲームがまだ定着していませんでした。競馬で萌え要素を入れよう、と考えたら、調教師や厩務員を女性にしよう、となったのかもしれません」と林さんは考える。

   確かに擬人化ゲームが流行し始めるのは「艦隊これくしょん」「刀剣乱舞」「アズールレーン」などがヒットする2010年代中盤以降である。「ウマ娘」もプロジェクト始動は2016年だった。なお「競走馬の擬人化」というだけなら、オンラインゲーム「競馬伝説Live!」で実在の牝馬を擬人化したキャラクターがサポートカードとして使われたことがあるが、強化して使うことはできなかった。

   擬人化ゲームの台頭に加え、「ウマ娘」の源流にはアイドルコンテンツの影響もある。プロジェクトの発表は2016年3月26日のイベント「AnimeJapan」内で行われたが、初代プロデューサーには「アイドルマスターシンデレラガールズ」等の石原章弘氏(現在は退任)、楽曲プロデューサーに「ラブライブ!」シリーズに関わった木皿陽平氏が起用された点も当時のトレンドがうかがえる。

   その後、大の競馬ファンでもあるアニメプロデューサーの伊藤隼之介氏らが制作に携わり、競馬方面の綿密な考証を経て2021年のゲームリリースにこぎつけた。「『ウマ娘』には『実況パワフルプロ野球』などの要素も込められています。美少女ゲームにとどまらない複数のジャンルにまたがるゲーム性が詰まっています」(林さん)とも。

   美少女キャラクターを活かすという共通点はあれど、ウマ娘とウマドンナは全く違う水脈からコンセプトが立ち上がり、ゲームコンテンツとして結実していた。ただし反響を比較するに、競馬とネットカルチャーの距離を近づけた貢献度は「ウマ娘」に軍配が上がるだろう。「ウマドンナ」も手を抜いていたわけではないものの、多面的なプレイ要素や考証で「ウマ娘」がより多くの人々の心をつかんだようだ。

(J-CASTニュース編集部 大宮高史)

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