2024年 4月 26日 (金)

「緊張でスローに見える」研究の実験ディスプレイ、なぜあえてブラウン管型? 教授に聞いた液晶型との違い

来店不要なのでコロナ禍でも安心!顧客満足度1位のサービスとは?

   「目を疑ってスローで確認してしまった」「いまだに現役とは...」――千葉大学・一川誠教授らの研究成果を伝えるニュースの一場面がSNSで大きな注目を集めている。緊張が高まると物事がスローモーションのように見える現象に関する研究発表を報じるもので、研究室にはブラウン管(CRT)型ディスプレイが並んでいた。

   なぜ、ブラウン管型ディスプレイを用いていたのか。J-CASTニュースは2023年3月16日、一川教授に取材した。

  • 一川誠教授の研究室(2023年3月撮影)
    一川誠教授の研究室(2023年3月撮影)
  • 実験用のブラウン管型ディスプレイは10台ほど
    実験用のブラウン管型ディスプレイは10台ほど
  • Power Macintosh 7600/200は、2年生の実験演習の実験で使用しているそう
    Power Macintosh 7600/200は、2年生の実験演習の実験で使用しているそう
  • 一川誠教授の研究室(2023年3月撮影)
  • 実験用のブラウン管型ディスプレイは10台ほど
  • Power Macintosh 7600/200は、2年生の実験演習の実験で使用しているそう

「わざわざ、ブラウン管型のディスプレイを用いて実験をしました」

   3月14日放送のNHK総合「NHKニュースおはよう日本」で、千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程3年生の小林美沙さんと大学院人文科学研究院の一川教授の研究チームの成果が報じられた。

   ニュースでは、ブラウン管型ディスプレイの画面をのぞき込む一川教授の姿が映されていた。ディスプレイの下には、1997年に発売されたデスクトップパソコン「Power Macintosh 7600/200」が置かれていた。

   ツイッターでは、この様子に注目が集まった。

「さすがに、過去の資料映像の使い回しでしょう」
「昨日ニュース見てた時、思わず『ブラウン管!?』と言ってしまったくらいには驚いた」
「20年以上前のパソコンなのでは...もっと良いパソコン買う予算もないのか...」

   取材に対し、一川教授はブラウン管型ディスプレイでなければならない理由があると説明する。実験では、被験者がどのくらいの速さで映像の変化に気づくことができるか探った。

   このような目で物事を捉える速さを調べる実験では、ブラウン管型ディスプレイを用いることが多いという。液晶画面と比べて、指示を出してから応答するまでが速いためだ。

「今回の実験でも、わざわざ、ブラウン管型のディスプレイを用いて実験をしました。 決して、予算がなくて、新しい液晶ディスプレイが変えなかったということではなく、研究の用途に合わせて、必要な高い精度で画像を提示できるブラウン管型ディスプレイを用いたということになります」

なぜ「ブラウン管型ディスプレイ」のほうが良いの?

   なぜ、液晶画面よりもブラウン管型ディスプレイのほうが良いのか。一川教授は「光を提示する際の原理」に違いがあると説明する。

「ブラウン管型では、PCからの電圧信号の入力に対して、それぞれの画素の部分に銃で光子を飛ばすことで光を提示するという、とても『直接的』な原理を用いています。信号が入れば光が提示され、信号がなくなれば光は提示されなくなります。 他方、液晶型では、PCからの電圧入力によってディスプレイ表面のフィルター中の液晶分子の方向を揃えることで、バックライトの光を遮るシャッターを形成するという『間接的』な光の提示方法を使っています」

   ブラウン管型ディスプレイでは直接的な光の点滅で表現するのに対し、液晶画面はバックライトとして常に光が灯っている。

「バックライトとしてRGBの光はずっと提示されていて,それを遮る液晶シャッターの開け閉めで光を提示するので,シャッターの駆動とその解除にどうしてもそれなりの長さの時間がかかることになります」

   このシャッターによるわずかな遅延が、研究には大きな影響を与えてしまう。

「液晶の反応特性は技術改善でどんどん速くなっていますが、それをいくら速くしても数ミリ秒はかかってしまいます。 視覚の時間分解能を測定するためには、10ミリ秒程度の遅れがあっても影響を受けるため、液晶のディスプレイをつかって正確な測定を行うのは困難と考えられています」

どうやって手に入れているの?

   1秒間に何枚の絵が動くかという「リフレッシュレート」については、一般的なディスプレイは60ヘルツで、ハイスピードな操作が求められるゲーミングディスプレイは144以上のものが一般的だ。

   一川教授は、120ヘルツまでのリフレッシュレートに対応できるものを用いており、実験では100ヘルツの設定で使っていた。

「私の研究室だけでも、実験用のブラウン管型ディスプレイは10台ほどあります。 また、心理学講座には他にも視覚の研究をしている研究者がおられるので、その人たちの持っているディスプレイまで合わせると、20台程度はあるのではないでしょうか?」

   購入しやすい価格で生産されているブラウン管ディスプレイは少ないそうで、一川教授は他の研究者が引退した時に譲り受けたものや、自分で購入したブラウン管ディスプレイを利用している。別の研究者は、ときどきオークションサイトを確認し、状態のいいものを見つけたら購入しているという。

   一川教授は、ニュースをきっかけにブラウン管型ディスプレイに注目が集まったことに驚きつつ、「ブラウン管型ディスプレイの能力(特に時間面で)が優れていることを知ってもらえたとしたら、良かったです」と受け止める。

「原理的に液晶型のディスプレイがCRT型の時間精度に追いつくことはないと思います。
そうした速い特性のディスプレイは,液晶型とは別の原理を使ったものになるでしょう。
今後、いろんなタイプの新型ディスプレイが開発されるのでしょうが、そうした将来の新型ディスプレイ開発時に、時間応答の速いディスプレイができるといいなというのは視覚研究者の共通の願いと思います」
「特に視覚研究者はCRTディスプレイを必要としている人がそれなりにいると思います。
職場や自宅で保管されている古いCRTがあれば、廃棄するのではなく、オークションなどに出していただけると、誰かの研究の助けになるかもしれない、ということも知っていただけるとありがたいです」
姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中