2024年 4月 26日 (金)

首相襲撃、容疑者の「人となり報道」に学者ら批判 問われる「卒業文集」のニュース価値

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   岸田文雄首相の演説会場に爆発物が投げ込まれた事件で、木村隆二容疑者(24)の「人となり報道」が過熱している。

   中でも、光やブラックホールについて記した中学の卒業文集は「異質文章」などと取り沙汰されているが、科学者などの間で反発が広がっている。

  • 時事通信のツイッターより
    時事通信のツイッターより
  • 朝日新聞ツイッターより
    朝日新聞ツイッターより
  • 時事通信のツイッターより
  • 朝日新聞ツイッターより

「こういう報道は止めた方がいい」

   時事通信は2023年5月7日、「中学文集『光とブラックホール』 木村容疑者、思い出など記さず―首相襲撃事件」とのタイトルで木村容疑者の人となりに迫った。

   記事によれば、中学の卒業文集は光やブラックホールをテーマに選び、「同級生らが中学時代の思い出などを記す中、学校生活や友人との思い出には触れていなかった」と異様さを指摘している。

   同様の報道は他社もしている。テレビ朝日系の情報番組「グッド!モーニング」は4月18日、独自ネタとして卒業文集を取り上げた。「異質文章」と評し、時事通信と同じ論調だった。朝日新聞も21日、「人と関わらず文集に『ブラックホール』 首相襲撃、容疑者の中学時代」と後追いしている。

   中学だけでなく小学校の卒業文集も、日経新聞(原稿は共同通信)、フジテレビ、産経新聞、現代ビジネスなど多数のメディアが議題にしている。

   時事通信の記事はツイッターで注目され、学者や弁護士らから8日夜までに1300件以上の意見が寄せられている。多くは違和感や苦言で、「科学に興味ある人への偏見を助長するような記事」「学校生活や友人との思い出に触れないのはなんか問題あるのか」「こんなことが事件の動機、背景の解明に繋がるはずがない」「こういう報道は止めた方がいい」といった書き込みが少なくない。

   事件と直接関係ないアニメやゲームと結び付けて批判された、過去の人となり報道を思い出す人も少なくなかった。例えば2019年に起きた神奈川県川崎市の殺傷事件では、一部のテレビ局が「男の自宅からテレビやゲーム機」と速報してバッシングを浴びた。

   21年には、ウェブメディア「AERA dot.」が、東京都墨田区の女子高生死体遺棄容疑で逮捕された夫婦を「アニメ好き」と紹介し、やはり物議を醸した。

   運営元の朝日新聞出版は「記事は重大事件の容疑者の人となりに迫ろうとしたものであり、趣味と容疑とを関連づけるものではありません」とJ-CASTニュースの当時の取材に釈明するも、その後見出しを修正した。

科学者の見解は

   雲南大学の島袋隼士准教授(天文学)は8日、J-CASTニュースの取材に、文集を巡る時事通信の記事について「正直だから何なんだという印象を受けました」と報道価値を疑問視した。

   その上、科学に興味を持つ子どもたちへの悪影響を懸念する。記事を読んだ大人が子どもに伝えた場合、「光の速度やブラックホールについて考えるのは変なことなのか、卒業文集にそのようなことを書くのはよくないのか、といった感想を持ちかねません。サイエンスに興味を持ちそうなお子さんの好奇心を潰してしまうのではないか」と弊害を挙げた。

   文集報道は一般化しており、真っ先に情報を掴んだメディアは「独自」「スクープ」と華々しく取り上げるケースもある。島袋氏は犯行動機につながる記述などがある場合を除き、卒業文集を取り上げること自体に否定的だ。

   『趣味で物理学』などの著書があり、情報サイト「EMANの物理学」を運営する広江克彦氏も取材に「今回の記事を執筆した記者や、今回の記事の公開を事前に止めることが出来なかった報道機関の雰囲気として理系と犯罪を結びつけるかのような偏見があったのではないかと勘ぐってしまいます」と不信感をあらわにする。

「成人後の具体的な違法行為に対して裁かれるべき」

   広江氏は「卒業文集に科学について書くことは少し珍しいことかもしれません。変わった子だと思われることもあると思います。しかしそういう子は全国には幾らでもいます。人と違っている自分に喜びを見出す子もいるでしょうし、違っていることで苦しむ子もいるでしょう。周りと違っていたからといって悪いことではないと思います」と持論を述べ、

「それはそれとして、文集に自分の興味関心のあることを素直に書くことは健全なことではないでしょうか。周囲の人たちと少し違っていることと犯罪とを結びつけるような報道は、偏見を植え付けたり、当事者や周囲の人に不安を植え付けたりしますし、いじめを正当化する原因にもなり得るのではないかと心配しました」

と子どもたちを慮った。

   卒業文集の報道自体も▽世間一般への公開を前提していない▽社会的責任についての判断力が未熟な成長段階で半ば強制的に書かされる――という性質上、賛同できず「人は幼い頃の思想によってではなく、成人後の具体的な違法行為に対して裁かれるべきだと考えます。文集は犯人だろうと被害者だろうと有名人であろうと、成人後の本人の許可がない限り勝手に公開されるべきでは無い」と述べる。

   今回の事件はテロ行為ということもあり、「容疑者の思想を広く報道することはテロの目的を助けることにも繋がります。この点についてもかなり慎重に報道すべきことだろうと思います」とメディアに要望した。

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