2024年 5月 2日 (木)

「リニアに何の意味があるかよく分からない」 鉄オタ・石破茂氏が語る、本当に必要な鉄道整備とは

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   北陸新幹線の金沢-敦賀間の延伸開業が2024年3月16日に迫り、北海道新幹線の札幌延伸も30年度に控える。こういった整備新幹線の計画が決まったのは50年前。この間、日本は少子化が進んで需要も見込みにくくなった。そんな中でも、他に「山陰新幹線」「中国新幹線」など多数の建設計画があり、地方からは推進を求める声があがる。この状況について、ミニ新幹線のように在来線を近代化する形に方針転換すべきだとしているのが、永田町屈指の「鉄オタ」として知られる自民党の石破茂元幹事長だ。いわく「だって山陰新幹線って、今のままいけば22世紀ですよ?そのころ日本は人口半分。そのときにフル規格の新幹線走らせてどうすんの?という話です」。

   世論調査の「次の首相にふさわしい人」の問いでは常に上位にランクインする石破氏。だが、あえて政局の話は一言もせず、ローカル線のあり方、寝台列車論、鉄道を所管する国交相になりたいか...など、ひたすら鉄道について全4回にわたって語ってもらった。初回では、全国で建設が進められてきた新幹線のあり方について聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 自民党の石破茂元幹事長。新幹線やローカル線などについて鉄道談義を展開した。
    自民党の石破茂元幹事長。新幹線やローカル線などについて鉄道談義を展開した。
  • 自民党の石破茂元幹事長。新幹線やローカル線などについて鉄道談義を展開した。

フル規格の新幹線整備よりも「在来線の近代化の方が大事」

―― 「鉄オタ」には、「乗り鉄」「撮り鉄」など、さまざまカテゴリーがあります。

石破: 「乗り鉄」「呑み鉄」...。ひたすら乗り、ひたすら酒を呑む。それと「客車派」ですね。

―― 電車よりは客車なんですね。

石破: 電車面白くないもん。

―― 面白くない「電車」として走っている新幹線の話題からで恐縮なのですが...。5つの整備新幹線(北海道(青森~札幌)、東北(盛岡~青森)、北陸(東京~長野~金沢~大阪)、九州鹿児島ルート(博多~鹿児島)、九州長崎ルート(博多~長崎))のネットワークは完成に近づいているように見えますが、それ以外に「基本計画路線」が11路線もあります。中国地方では岡山-松江を結ぶ「中国横断新幹線」(伯備新幹線)、大阪-鳥取-松江-下関を結ぶ「山陰新幹線」などがあります。少子化が進み、需要を見込むのも難しくなっている面もありますが、このまま建設を進めるべきなのでしょうか。

石破: (田中)角栄先生がそういう風に打ち出された構想なのであって、昭和48年(1973年)のことです。だからそれから50年がたっていて、もう人口が21世紀(の終わり)には半分になるわけですよ、日本国は。そのときに、本当にそういう構想でいいんだろうかというと(どうなのか)。人口は減るし、財政力はガタガタになっているし。夢としては素晴らしいけど、私は整備新幹線(基本計画路線の整備)を、これ以上進めることには懐疑的ですね。

むしろミニ新幹線的なもの、フリーゲージ(編注:在来線と新幹線の両方の線路を走れる電車。軌間可変電車。九州新幹線(西九州ルート)で導入が検討されたが、採算・安全面の懸念を理由に断念した)はもう駄目なので、山形新幹線、秋田新幹線のようなもの。あるいは今の(在来線と同じ)狭軌のままでいいから、速度を150キロまで上げるとかね。

誰かが言っていたことですが、日本の鉄道は時速300キロ出るフル規格の新幹線と、最高でも時速120キロぐらいしか出ない在来線と、両極分解してしまっています。その間がない。だから時速150キロ出ればいい、並行在来線問題も発生しない、工期も工費も格段に安く済むという、在来線の近代化の方が大事だろうと私は思っています。

―― 「山陰新幹線を実現する国会議員の会」の会長を務めています。議連としても、(山陰新幹線の)作り方は柔軟に考えていかないといけない、ということですね。

石破: そうあるべきだと思います。だって山陰新幹線って、今のままいけば22世紀ですよ?そのころ日本は人口半分。そのときにフル規格の新幹線走らせてどうすんの?という話です。東海道新幹線は、のぞみ、ひかり、こだま合わせれば1時間に10数本走っていますね(編注:「のぞみ」だけで1時間あたり片道最大12本運行可能)。山陰新幹線はそんなに走りますか?

―― 走ったところで...。

石破: そんなに意味ないよ?だったら単線新幹線というのもあるかもしれない。ただ、単線新幹線なら工費が半額になるわけでもないらしいですね。だったら在来線の近代化の方がよほど早い。単線新幹線でも、やはり並行在来線の問題が発生します。この点も、もう少し真面目に考えた方がいいですね。

―― 北陸新幹線は24年3月に金沢-敦賀間が開業します。新幹線開業前は1本でつながっていた北陸本線が、日本海側だけでも、えちごトキめき鉄道、あいの風とやま鉄道、IRいしかわ鉄道、ハピラインふくいと4社に分かれることになります。ネットワークが分断されて利便性が下がったり、運賃が上がったりする問題が出てきます。

石破: そうだと思います。北陸新幹線は大阪まで行かせなければしょうがない。西九州新幹線も、今のままだと(編注:新鳥栖-武雄温泉が未開通で、博多-長崎が直通していない)ほとんど意味がない...と言っちゃいけませんが、直結させるべきでしょうね。かつて「新幹線リレー号」というものが上野-大宮間に走っていました。東北新幹線が大宮から先開業したときに(編注:1982年に大宮-盛岡間で開業)、やがて直結させるという構想のもとに走ったのであって、今の西九州新幹線はまだ見通しが立たない。どうしたら佐賀県が納得できるようなアイデアを示せるか、ということに更なる努力が必要でしょう。

静岡・川勝知事を説得する方法は「分かりませんなぁ。全然分かりません」

全国には「基本計画路線」が11路線もある。令和4年版 国土交通白書から
全国には「基本計画路線」が11路線もある。令和4年版 国土交通白書から

―― 「基本計画路線」の中で進捗が早かったのがリニア中央新幹線ですが、静岡県の川勝平太知事は、湧水をめぐる問題を理由に慎重姿勢を示しています。こういった声は、どうすれば説得できるでしょうか。

石破: 分かりませんなぁ。全然分かりません(苦笑)。私はリニアそのものが何の意味があるのかよく分からない。そう思ってる人は実は多いんじゃないの?東海道新幹線ができたときも、相当に計画自体に批判がありました。大蔵省(当時)では「昭和の三大馬鹿査定」と言われたそうです。戦艦大和、青函トンネル、東海道新幹線(編注:諸説あり。伊勢湾干拓を含める場合もある)。ただ、当時は東海道線が飽和状態だったし、日本経済が伸びていく時代だった。東海道新幹線の構想にはものすごく先見性もあったわけですが、リニアというのは本当にいるのかね?と思ってる人って、実はいっぱいいませんか?

―― 新しい技術に不安を持っている人もいるかもしれませんね。

石破: それは、そんなもんです。「のぞみ」ができたときも、「そんなもの走らせて大丈夫か」みたいなこと言う人もいましたし、新しい技術は常にリスクがあるものです。その上で、リニアというものに意味がないとは言いませんが、東京-大阪間が1時間で結ばれて、それがどうしたの?という人は多いのではないでしょうか。

―― 「のぞみ」だと東京-新大阪で2時間半。微妙な短縮幅でしょうか...?

石破: そうだと思いますけどね。大体、税金を1円も入れないって話じゃなかったんですか?

―― 当初はJR東海が自腹(自己資金)で建設する計画でした。

石破: いつの間に財投を使う話になったんです?(編注:安倍晋三首相(当時)が16年7月の記者会見で全線開業を最大8年間前倒しすることを表明し、政府は財政投融資を活用して3兆円をJR東海に貸し付けている)。そこはおかしくないだろうか、と思うんですね。

―― 実は、過去の国会答弁を検索すると、14年11月14日の参院・地方創生に関する特別委員会で、地方創生担当相として「非常に災害に対して強い乗り物であるということ、そしてまた東海道新幹線に仮にダメージが生じたときにそれを代替する、そういうような機能も持つもので」などと答弁しています。これは立場上おっしゃらざるを得なかった、ということですね。

石破: それは言わざるを得ないですね。それはね。

リニア整備の資金があったら「北海道の鉄道の近代化にもっと使ったらどうなんですか?」

2022年9月23日に開業した西九州新幹線。博多との直結が課題になっている
2022年9月23日に開業した西九州新幹線。博多との直結が課題になっている

―― そういうところ(災害時の代替機能)を踏まえても、なかなか作る意味は怪しい、ということですね。

石破: それ(リニア)が日本全体にどういう意味を持つんですか、という検証が十分なされていないのと、1企業が1企業としておやりになるのであれば「それはどうぞ」という話ですが、いつの間にか国費が使われる話になっていますし、どうなんでしょうね。

そのお金があるんだったら、北海道の鉄道の近代化にもっと使ったらどうなんですか?例えば、JR北海道って本当に気の毒だと思っているんです。あの過酷な自然環境で、ほとんど電化が進んでない北海道の鉄道で、あの重いディーゼルをぶっ飛ばせば、そりゃ、ああなりますよ(編注:JR北海道では、設備の老朽化にともなう安全投資の負担が経営を圧迫している)。

(経営安定基金で運用益が出せたのは)まだ金利が高かった時代の話で、その頃の金利で運用すればやれたでしょうけど、今これだけ金利が下がっていて、別にJR北海道の努力が足りないとか、労使関係がうまくいってないとか、そういう要素はないとは言わないけれど、リニアを作るお金があるんだったら、北海道の鉄道近代化の方がよっぽど意味があったと思いますけどね。(第2回へ続く。1月5日掲載予定です)

石破茂さん プロフィール
いしば・しげる 衆院議員。1957年生まれ、鳥取県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)入行。1986年、全国最年少議員として衆院議員に初当選。現在12期目。自民党では幹事長、内閣では防衛大臣、農林水産大臣、地方創生・国家戦略特別区域担当大臣などを歴任した。

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