ありがたがられたり、揶揄されたり...悲哀の備蓄米はどうやって集められた?その素性を追った

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   政府が放出している備蓄米は「世論」の荒波に飲み込まれている。入札米はなかなか市場に出回らない。2025年5月になって小泉農相の随意契約転換によって安いコメが飛ぶように売れる。その備蓄米はどうやって確保されて来たのかを追ってみた。 

  • 小泉進次郎農水相も倉庫を視察。備蓄米はどのように集められたのか(写真:ロイター/アフロ)
    小泉進次郎農水相も倉庫を視察。備蓄米はどのように集められたのか(写真:ロイター/アフロ)
  • 備蓄米の味は?写真は食味計による測定結果(小泉進次郎農水相のXから)
    備蓄米の味は?写真は食味計による測定結果(小泉進次郎農水相のXから)
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7回入札しても集まらなかった2024年米

   備蓄米は政府が買い入れる。税金を使うので、競争入札という制度を使う。入札参加者は価格を提示し、その中から最も安い価格を提示した人のコメを買う仕組みとなっている。

   入札に参加するには一定の資格も必要だ。事前に営業実績や納税証明書などを提出し、3年に1度、資格審査を受ける。現在、全国で約151の農協や集荷業者が登録している。

   備蓄米は極度の不作の時や有事に備え、日本人のカロリーを維持するための大切な食料だ。それだけに実務を担う農林水産省は確実にコメを集めるために入札を収穫前に実施する。

   それでも十分に集まらない年もある。例えば24年は計7回も入札を繰り返したが、目標の83.7%しか確保できなかった。

   農協や集荷業者も一般の流通市場で高く売れると思えば、当然、政府が安く買おうとする備蓄米には応募しない。集まり具合は、その年のコメの需給によって大きく左右されることになる。

25年分買い入れは異常事態により中止

   ちなみに25年の分はすでに中止を決めている。小売りの米価が1年で2倍になる異常事態で、政府が備蓄米として買い入れを決めれば、さらに不足感が出て価格を吊り上げることになる。これを避けたかったようだ。

   実際の仕組みはこうだ。

   落札した農協や集荷業者は秋の収穫後に倉庫に入れる。そこで農水省が量や品質などを確認する「検収」という作業をして、その後に所有権は政府に移転される。その後、農水省管理のもと、15度以下の温度と一定の湿度で管理される。「おいしいかどうかは別にしても、災害などがあった場合は全量を拠出します。日本人が普通に食べられるような水準で保管しています」と農水省の担当者は言う。

   農水省は買い入れるコメの銘柄を指定しない。大きくは「主食用」という条件があるだけだ。

買い入れのコメはもともと主食用、それを忘れないでほしい

   国民民主党の玉木雄一郎代表は「1年たったら動物の餌」と5年が経過した備蓄米をこう表現して批判を浴びた。確かに事実はその通りではある。政府は年に約20万トンずつ積み増し、100万トンの水準を維持する。つまり5年が過ぎた備蓄米は家畜向けの飼料用として安価に販売される。

   スーパーなどで売っているコメは新米かもしくは1年前にとれたコメだ。5年前のコメを食べた記憶はほとんどの日本人が持っていない。ただ、飼料用に回されるコメももともとは主食用だ。それを忘れてはいけない。

   30年近く前だが、1993年の作況指数は冷害で74(100前後が平年並み)となりコメ不足が生じ、タイ米も出回った。この大冷害が今の備蓄米制度のきっかけとなった。1969年生まれの玉木氏はこのことを知っているはずだ。

あえて飼料用を作る農家にもコメ文化を守る目的がある

   数年前だが、畜産業界の人からこんな話を聞いたことがある。「農家がなかなか飼料用を作ってくれない」と。

   農家は人に食べてもらって「おいしい」と言ってもらいたいと思っている。それが農家のいきがいでもあるという。ただ、休耕田にさせないため、かつ食料自給率を上げるためにあえて飼料用米を作る農家もいるという。

   関東の生活協同組合は、飼料用のコメをエサの一部に混ぜて育てた「お米育ち豚」を店頭に並べている。食料自給率を上げることと、日本のコメ文化を守ることが目的だ。その豚の味は甘味があって消費者にも人気だ。

   備蓄米にも大切な役目がある。日本人が飢餓に陥ることもなく、5年間の役目を終えて飼料用に回ることもある。備蓄米と、それを提供する農家は尊敬されてもいいと思う。揶揄してはいけない。

(経済ジャーナリスト 加藤裕則)

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